8月26日に東京都目黒区のカフェで開かれた交流会の様子。(撮影:東雲吾衣)

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25歳から54歳までで就職を希望している女性は約264万人――。政府は2005年12月、こんな調査をまとめた。多くが子育て中または子育て後の女性。結婚退職後、子育てが一段落した人や、子育て中でも働きたい女性など、子育てと仕事を両立しながら自己実現を望む女性は多い。

 しかし、◆子育てと仕事の両立の中で、賃金や勤務時間などの条件が折り合わない◆年齢制限がある◆技術や経験が不足している――などの理由で、実際にはなかなか就業の機会が生まれないのが現状だ。そんな中、結婚、出産を経て、女性が再び社会参加する、いわゆる「女性の再チャレンジ」を応援しようと、官民をあげた新しい試みが生まれてきている。

◇経営者の道を選ぶ女性たち◇

 女性の再就職が難しい中、注目されているのが女性の起業である。政府の計画がまとめられた時点で、新規開業する女性は年間15万人。起業を希望する女性は、30歳代を中心に年間50万人から60万人台で推移している。

 こうした状況を受け、厚生労働省は06年6月、女性起業家支援を行うWWBジャパンに委託し、「女性起業家向けメンター紹介サービス」を開始した。女性起業家が直面する経営上の問題について、経験豊富な起業家や専門家などがメンター(助言者)としてアドバイスを行う制度。8月には東京都目黒区で、約40人の女性起業家などが集まり、メンターや起業仲間に悩みを相談する交流会が開かれた。

◇天然酵母パンとスープの店 起業して2年半◇

 東京都三鷹市。梶晶子さん(40)がオーナーを務める『happy DELI』は、天然酵母を使ったパンや、手作りスープを出す店として、小さい子供を連れた若い母親、おしゃれな風貌の若い男女、50代くらいの主婦など、年代や性別を問わないファンでにぎわっている。

 同店は、03年12月に移動販売のスープ屋としてオープン。その後、添え物のパンに人気が集まり、バス通りに面した現在の場所に、資本金300万円、スタッフ4人で出店した。あまり広くはない店内だが、ドアを入ると、焼きたてのパンのにおいが迎えてくれる。口あたりのよいふっくらとしたパンは、50種類のレパートリーの中から、常時20−30種類が店頭に並べられているという。

 「同年代の働く女性は、忙しすぎるので食生活が不規則。いつも体のどこかが不調という彼女たちを見ていて、人の健康をサポートする仕事がしたいと思った」。梶さんは起業の動機をこう話すが、起業して2年半目のいま、理想と現実のギャップに悩んでいる。

◇「ビジネス・マスト・ゴー・オン」の原則◇

 「起業後1年で予想外の妊娠と出産、9カ月の子どもの育児をしながらの経営。少ない人数でどのように店をやりくりしていくかが課題の一つ」。梶さんは悩みをこう切り出した。8月26日に東京都目黒区のカフェで開かれた「女性起業家お悩み解決さろん」。この日は、10年以上の経験を持つベテラン経営者のメンターに対して、起業家の“タマゴ”や“ヒヨコ”約40人が、交流会に集まった。

 梶さんの悩みに対しては、「同じ境遇のパートナーを作るべき。助け合いながら経営をしていける」というアドバイスが寄せられたが、中には「ビジネスを継続できないのは、経営者としては失格。リスクマネジメント(危機管理)ができていないのでは」という厳しい意見もあがった。

 実際に子育てをしながら経営を続ける経験者の言葉だけに、会場からは同意の声があがり、大きくうなずく人の姿も。女性特有の悩みを口にする経営者には、同じような悩みを解決した経営者がアドバイスを送りあう。

 「子育ても仕事も大切にしたい。両方楽しんで、無理せず自分も“happy”でいたい」というのが梶さんの経営者としての考え方。店の営業形態にしても、「経営者が楽しく生きていなければ、お客様にも“happy”を分けられないと思う」と自らの“健康さ”を軸にしたやり方を模索する。

 今回の相談会では、このような問いに明確な答えは得られなかったが、梶さんは「同じ業種の先輩と知り合えてよかった。一生懸命やってみて、お客さんがついてくるか試してみたい」と今後の豊富について語ってくれた。また、悩みは尽きないものの、今後も「パン屋にとどまらず、リフレクソロジーやハーブなど、人の健康をサポートする仕事をしていきたい」と、夢はとどまることがない。

◇女性起業家の強みと弱み◇

 「広いネットワークを持つ点、生活者の視点からニーズを探るのが得意といった長所の反面、経理など実務的な分野に弱く、経営的視点が欠落していることがある。気づいたときには経営が立ち行かなくなっている状況もよくある」。WWBジャパンの奥谷京子さんは「あくまで個人による」と前置きをした上で、女性起業家に多い欠点をこう指摘する。

 交流会でも、「経営感覚がともなわない」「ビジネス・パートナーがいない」という点を弱点として自己分析する女性起業家が目立った。多くの人が梶さんと同じように、悩みを持つ姿が浮かび上がる。

 一般的に、飲食業界では、起業して1年で半分が店をたたみ、10年続くのは1割ほど。特に都市部で事業を続けていくのは厳しいと言われている。

 そんな現状の中でも、奥谷さんは「結婚して、子育てをしながら自己実現したいと考える女性にこそ『起業』という選択があることを知ってほしい」とエールを送っている。

 WWBジャパンは今後も、子育てと仕事の両立など、女性起業家が持つ特有の悩みを気軽に相談できる場を、「経営者として弾みがつく場所」と位置づけて全国で提供していく考えだ。【了】

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