大規模オフィスビルの竣工を控える横浜・みなとみらい21地区だが、足元の市況は厳しい。(記者撮影)

大規模開発が進み大型アリーナや高級ホテルなどの竣工を控える横浜市のみなとみらい21地区。ただ、次々と建設されていくオフィスビルのテナントがはたして埋まるのか、暗雲が漂い始めている。

コロナ前、みなとみらい21地区のオフィスビルは都心5区と同様に高稼働を堅持していた。2019年3月末時点のみなとみらい21地区の空室率は1.92%と低かった(オフィス仲介大手の三鬼商事調べ)。

複数のオフィス仲介会社の関係者は、「都心でオフィスビルの空きがない中、みなとみらい21地区のハイグレードな大型オフィスビルに入居する大手企業が散見された」と振り返る。


企業本社が続々と移転してきたみなとみらい(記者撮影)

2019年までに、造船大手ジャパン マリンユナイテッドや、物流企業のバンテックがみなとみらい21地区に本社を移転。また、2020年以降もいすゞ自動車や、IT企業のアイネットなどが本社移転を決定している。

みなとみらい21地区には、オフィスビルや商業施設だけでなく、大型アリーナをはじめとするエンターテインメント施設や分譲マンションなど様々な用途の施設がある。こうした複合機能は、企業にとって大きな魅力だという。

横浜市役所の企業誘致の担当者は、「観光地としても人気が高く、多種多様な魅力をもっているのがみなとみらい21地区の強みだ。自治体としても企業誘致のため、税制面での優遇や補助金を提供している」と胸を張る。

テナント内定率5割でも健闘

2023年7月には、大型アリーナと一体開発された大型オフィスビル「Kタワー横浜」(延べ床面積は約8900坪)が竣工する計画だ。事業主体である不動産会社のケン・コーポレーションの前川直之・企画部課長は、「アリーナを軸にオフィスビルや高級ホテル、商業施設が歩行者デッキでつながり街区が一体となる計画だ。テナントや利用者の幅広いニーズに応えたい」と意気込む。

Kタワー横浜のフロア面積は200坪程度であり、横浜市に支店を開設したい企業のニーズに合致しているようだ。ケン・コーポレーションの黒岩弘幸・横浜支店長は、「フロアを細かく分割することで中小規模のテナントも入居できる。リーシングは順調で引き合いも上々だ」と語る。1坪当たりの賃料は2万円前半とみられる。

ただ、およそ3カ月後に竣工を控えた足元でもKタワー横浜にはまだ空室が残っている。2023年4月初旬時点でのKタワー横浜のテナント内定率は5割程度だ。にもかかわらず、複数のオフィス仲介会社の関係者は、「オフィス市況が厳しい中で、周辺の新築物件と違ってKタワー横浜は十分に健闘している」と口を揃える。

実は2021年から、みなとみらい21地区の空室率は大幅に上昇している。首都圏の不動産管理会社の中堅社員は、「みなとみらい21地区ではテナント集めに苦労している。供給が少なく需給バランスが保たれている横浜駅周辺と違って、オフィスの供給が過剰だ」とこぼす。


背景にあるのが、新築の大型オフィスビルの大量供給だ。横浜市では2020年以降、フロア面積が100坪以上の大型ビルが相次いで開発されている。その中心地が、みなとみらい21地区だ。2023年には約4.5万坪のオフィス床の新規供給があり、翌2024年にも約5.5万坪の供給が計画されている。

みなとみらいへの本社移転は一巡

同時に、みなとみらい21地区のオフィスビルと競合する都心物件でも空室は増えている。とくに、足元の都心のオフィス市場では、築年数の経った大型ビルがテナントを新築の大規模ビルに奪われる「2次空室」が起きている。


首都圏のオフィス仲介会社の幹部は、「みなとみらい21地区に本社移転する大手企業の需要は一巡した印象だ。都心でハイグレードな大型オフィスビルが空いているのに、みなとみらい21地区の物件をわざわざ選ぶテナントはいない」と指摘する。

さらに、みなとみらい21地区のオフィスビルにとって向かい風となるのが、都心のオフィス賃料相場の下落だ。コロナ前の都心の大型オフィスビルは空室が少なく、賃料も高かった。そうした中、相対的に賃料水準が低かったみなとみらい21地区は、自治体の補助金による後押しもあってオフィスのコストを抑えたい企業の受け皿となっていた。

ところが、空室が増えたことで、都心ではテナントを呼び込むため賃料水準を引き下げるオフィスビルが後を絶たない。三鬼商事によれば、2023年3月末時点の東京都港区のオフィスビルでさえも1坪当たりの平均賃料が2万円を下回っている。対して、みなとみらい21地区は同2万円超もあり、依然として高水準だ。

「オフィス需要が伸び悩む中、品川・汐留・晴海をはじめとする東京湾岸エリアなど、賃料水準を落とした都心の大型ビルにオフィス需要を奪われている」と、不動産サービス大手のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの熊谷真理ヘッド・オブ・リサーチ&コンサルティングは分析する


賃貸をあきらめ自社で使う例も

テナントへの賃貸をあきらめて、自社利用するオフィスビルも出てきた。LG Holdings Japanによる大型オフィスビル「LG YOKOHAMA INNOVATION CENTER」(延べ床面積は約1万坪)は2022年3月に稼働した物件だ。2023年4月末時点でも空室が残っており、大半はLGが使用している。


リーシングが上手く進まず、ビルの大半をLG自身が使用している(記者撮影)

「当初はオフィスの半分以上を賃貸して収益を稼ぐつもりだったが、リーシングが上手く進まず、結局は一部フロアも自分たちで使わざるを得なくなったようだ。賃料は一時期、1坪当たり2万円を割った」と、前出のオフィス仲介幹部は明かす。

テレワークの浸透などでオフィス需要が伸び悩む中、大型ビルが大量供給されるみなとみらい21地区の苦戦は当面続きそうだ。

(佃 陸生 : 東洋経済 記者)