Google社員が実践するエクササイズ習慣の秘訣

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世界有数のIT企業Googleで行われているフィットネスレッスンとして話題のglobody(グローボディ)。ピラティスをベースにしたエクササイズだ。忙しいビジネスパーソンから人気を集めているのは、短い時間で確かな効果があることはもちろんのこと、メンタルに与えるポジティブな影響も大きな要因だ。人のマインドにも働きかけるglobodyの効果、そしてフィットネスを持続可能にするポイントについて、考案者のSaya氏にうかがった。

大切なのは、メンタルにも働きかけること

健康のため、ダイエットのため、エクササイズに取り組もうとする人は少なくない。しかし、体を動かすことを習慣にし、続けるのにはハードルがある。そこでSaya氏はまず、globodyを考案するにあたり「忙しいGoogleの従業員に喜ばれるエクササイズとは何か?」を考え、以下の3つの要件を満たしていることを念頭においた。

1.短時間で効果を実感できる(即効性)
2.チャレンジできる(達成感)
3.心も体も前向きになれる(自己肯定感)

これらは、Googleの従業員のニーズが多かったからだが、2や3は、まさにメンタルに与える影響だ。Saya氏の著書『シリコンバレー式globodyフィットネス』には、運動とメンタルの関係について、大学の研究による裏付けが紹介されている。たとえば、ミシガン大学の研究では、1日10分の軽い運動でも人間の幸福度は高くなると発表。また、ハーバード大学の研究では、1日を通して短時間でも、座っている時間を運動する時間に変えることで、うつ病を改善する効果が26%もあるそうだ。

「globodyのエクササイズの一連の流れの中にある“パルシング”や“ホールド”は、集中力を高める動きになっています。短い時間でも集中し、最後に開放されることによって、メンタルはポジティブに変化します。ですから、globodyのひとつのエクササイズに要する時間は3分ほどでも、達成感を味わうことができる。それが他のエクササイズとの違いですね」

短期的な目標だけでは、エクササイズは続かない

このようにglobodyでSaya氏は“心と体のバランスをとること”を重要視している。体だけではなく心も健康にするには、一人ひとり目標を明確にする必要があり、レッスンを受けるに当たって受講者は、“エンパワーメントシート”という用紙に目標を記入することになっているという。自分の理想の体形や理想とするボディを持つ有名人、10年後の自分のありたい姿など、短期だけではなく長期にわたる目標を理由とともに記載するのだ。

「目標というのは、実際に書いてみないとわからないことが結構多いんです。頭の中でこうなりたいと思っていても、書き出すとちょっと違うかもしれないと感じたり、本当にそれを目標として良いのかわからなくなってしまったり。たとえば“夏までに〇kg痩せたい”などと書いた方がいるとします。私は、そのような短期的な目標はモチベーションではなくインスピレーションと呼んでいます。このふたつは似ているようで異なります。インスピレーションはその時の気分次第でコロコロ変わりますし、目的を達成したら終わり。一方でモチベーションは、10年後の自分がどうありたいか、トレーニングをする上での最終ゴールは何かといった長期的なビジョンと最終目標です。これを明確にすることがエクササイズを続ける原動力、ガソリンになるんです」

“夏までに〇kg痩せたい”とか“ビヨンセのようなボディになりたい”というようなインスピレーションは、車で言うならターボエンジン。スタートの起爆剤にはなるが、なかなか成果が上がらなかったりすると、挫折の要因にもなる。しかし、“理想の体形をキープする”や“いつでもハッピーな気持ちで過ごす”といった長期的なモチベーションなら、たとえ少しぐらい体重が増えても、その先の目標に向かって前進することができるということなのだ。

「globodyを指導する中で、いろいろなクライアントの体や健康の悩みに寄り添う機会が増えました。ダイエットしてもリバウンドを繰り返してしまう“ヨーヨーダイエット”に苦しむ人がいる一方で、仕事もプライベートも順調で内面から活き活きしている人もいます。そのような人は、持続可能なマインドセット(思考)、つまり明確な将来のビジョンを持っている事に気づかされました。健康は財産だととらえ、一生変わらない、健康的で贅肉のないボディをつくり維持するには、持続可能なマインドセットが不可欠なのです。そのために自分のビジョンを明確にするのがエンパワーメントシートです」

エクササイズを持続可能にするには、モチベーションが必要なのである。

ビジョンシートで、体作りだけでなく自己実現へ

「シリコンバレー式globodyフィットネス」の著者、Saya氏

ところでSaya氏自身のモチベーションはなんなのだろう。

「よくレッスンでも訊かれるんですが、“私の息子と娘に子どもが生まれるときにそばにいられるように健康な体でいることがモチベーションです”と答えています。それには理由があって、私が22歳の時に55歳の母が肺がんで、兄は19歳で心臓病で亡くなっています。家族二人の早すぎる死によって、健康で長生きしたいという気持ちは強く、息子と娘を出産してからは、彼らのためにいつまでも健康でいたいという思いがますます強くなりました」

そんなSaya氏がエクササイズに出会ったのは出産後。心身が不調になり何か体に良いことをしたいと思っていたところ、近所にジムができたので通い始めたのがきっかけだという。それまでスポーツはあまり好きではなかったそうだが、ジムのピラティスのレッスンは自身に合っていたのか夢中になり、毎日のように通うようになった。

「母と兄が亡くなって、しばらくはボーッとして雲の中にいるような生活を送っていました。人を健康にする仕事に携わりたいという、漠然とした思いはあったんですが、どうしたらいいか具体的なイメージはなかった。でも、ピラティスに出会って、“私が求めていたのはこれだったんだ、これを伝えていきたい”という気持ちになりました。とは言え、ジムでピラティストレーナー養成講座というものが開講された時、自分にできるかどうかは正直半信半疑でした。けれども、とにかくやってみようと受講することにしたんですが、全然自信がなくて、“もし資格を取ってもできなかったら辞めれば良いや”ぐらいの軽い気持ちでした」

今、堂々とglobodyの指導をしているSaya氏の様子からは、とても“自信がない”と思っていた時期があったとは想像できない。

「“自信がなかった”と、今はそれこそ自信を持って言えますが(笑)、当時はそれさえもよくわからなくて、ただとにかく自分には自己肯定感がなかったんですね。自己肯定感がないので、他人の意見に流されるタイプでもあったんです」

ピラティスのトレーナーの資格を取り、友人に実験台になってもらって教える経験を重ねるうちに、Saya氏は徐々に自信をつけていく。その結果前述のようにGoogleのエクササイズレッスンの講師を務め、考案したエクササイズglobodyは人気を集めて、昨年は著書も刊行された。

「実は私は10数年前、最初の子どもが生まれてすぐくらいの時期ですが、自分は何がしたいのか、将来的にどんな人間になっていたいのかを“ビジョンシート”というものに書いていました。たまたまネットで見つけたそれには、自分にとって怖いと思うこと、実現できないだろうと思うことを記すようにと書かれていました。そのビジョンシートに書いたことは、自分でも忘れていたのですが、先日ノートに挟んであるものを見つけて読んで見たら、“書籍を刊行して、多くの人にフィットネスの良さを伝えていく”と書いてありました」

自分で実現できないだろうと思っていること。それは、実は一番実現したいと望んでいることなのかもしれない。

「本当はこういうことを望んでいるんだけれども、たぶん実現できないと自分で認めてしまうのが嫌だ、認めるのが怖いという人は多いのではないでしょうか。でも、自分だけが見るものだったらこっそり書けます。誰にも見せないけれども、きちんと文字にして書くことによって、本当にしたいことが目標として潜在意識に刻み込まれているんだと思います」

体を動かすと心も動き出し、小さな成功体験を積み重ねていくことによって自信がついてくる。そうしてSaya氏は自分でも忘れていた目標を実現した。

「コロナ禍で私たちの生活スタイルは一変しました。それによって運動不足や心の不調を訴える人が増えたのではないでしょうか。心と体のバランスが取れてこその幸せだと思い知らされました。エクササイズを習慣づけて、メンタルと体を健康に保つことができれば、生活にどんな変化が訪れても、何ごとにも強くしなやかに向き合っていけるのではないかと思います。globodyでひとりでも多くの方が、ベストな自分で健康に輝いてほしい。それが私の今の目標であり夢です」

大切な家族を相次いで亡くすという悲しい経験が、Saya氏の健康を強く求める気持ちにつながり、独自のエクササイズを考案するに至ったというのは自然な流れに感じられる。しかし、その過程において、自分でも知らぬうちに将来へのビジョンを書き残していたというエピソードには大変驚かされた。健康な体、心を養い、それをいつまでも持ち続けていくために、まずは自分と向き合うことから始めてみたい。

前編はこちら↓
超多忙なGoogle社員が実践する体と心に効くエクササイズ。たった3分で効果の出るglobodyとは?
https://www.parasapo.tokyo/topics/105460

PROFILE Saya(サヤ)
1976年セネガル生まれ。アメリカで幼少期を過ごし、13歳で日本に帰国。青山学院大学を卒業後、単身渡米。38歳でフィットネストレーナーに転身。アメリカ・シリコンバレーを拠点に、Google本社のエグゼクティブトレーナーとして活動。その他、Apple、テスラなど最先端企業の幹部などをクライアントに持つ。超多忙なビジネスパーソンを指導していく中で、短時間で効率よく理想のボディをつくるフィットネスプログラム「globody(グローボディ)」を考案。現在は日本に一時帰国し、企業や一般の人向けにglobodyの指導をしている。
PMA(ピラティスメソッドアライアンス)、ACE Health Coach(アメリカ運動協議会ヘルスコーチ)、全米ヨガアライアンスRYT200の資格を持つ。2児の母。


<参考図書>
Saya著『シリコンバレー式globodyフィットネス』
(講談社)
Google、Apple、テスラのエグゼクティブたちが絶賛! ピラティスをベースにし、筋トレと有酸素運動を融合させた“結果を出せる”最新エクササイズを大公開。1つのプログラムに要する時間は約3分。1日に1つ行うだけでもOK。場所もとらず、道具も必要ないので今日からすぐにでも始められる、時間がないすべての人に送るエクササイズレッスンのすべて。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock