話は米国防高等研究計画局DARPAのX62AがAIによる飛行試験に成功した事から始まる(写真:米空軍)

写真拡大 (全14枚)


話は米国防高等研究計画局DARPAのX62AがAIによる飛行試験に成功した事から始まる(写真:米空軍)
先月3月27日の産経新聞の報道によると、米国防高等研究計画局(DARPA)がF16戦闘機をベースにしたX62A実験機でAIによる飛行試験に成功、今後米軍は「無人機(ドローン)部隊」創設も急ぐとの事である。

【画像】「AI無人戦闘機隊」が創設されたらどんな空戦になる?

その「AI無人戦闘機隊」が近未来の航空自衛隊(以下、空自)にも創設されると仮定した場合、どんな空戦になるのだろう。全世界の空軍戦闘機を撮り続けるフォトジャーナリスト柿谷哲也氏はこう予測する。


米軍はAI無人機部隊の創設を急ぐらしい。近未来もしそれが空自でも創設されたらどうなるか...(CG:ボーイング)

「アルファストライク(全力攻撃)と呼ばれる電子攻撃機に対地攻撃機、護衛戦闘機の全てが無人機になった場合、無尽蔵に護衛機・攻撃機を増やすることができ、護衛機搭載AIが勝手に要撃手順を判断するので、要撃管制を指示するAWACS(空中警戒管制機)すら不要になるでしょう。

さらに、機体不具合で作戦中止する機の発生に備えた予備クルーや、墜落しても要救助者が発生しないので、捜索救難機スタンバイが不要です。

ひとつ、問題点は、無人空中給油機がどれだけ支援できるかです。フライングブーム式では一度に1機しか対応できないので、時間が掛かって作戦になりません」


飛行隊のアルファストライク全力攻撃は、E3C AWACS空中警戒管制機の主導の元、電子戦機、戦闘爆撃機、護衛戦闘機が一群を成し、敵を空爆する(写真:柿谷哲也)

空自のAI無人戦闘機隊が日本の反撃・敵基地攻撃能力の一端を担った場合、中国沿岸部にある飛行場の攻撃案に関して、柿谷氏はこう考える。

「300機出撃したいですが、南西諸島には飛行場は少なく、総計100機が出動可能と推定します。F-AI(無人AI戦闘機はF16が進化したロッキードマーチン社最新のF21戦闘機の性能と同性能になると仮定。ミサイルは計16発搭載。内訳は最大射程180kmのレーダーミサイル14発と、最大射程40kmのヒートミサイル2発)が70機。


それが全機AI無人機になると、「F-AI機」とこの記事で仮称する戦闘機は、F16の発展型F21と同性能を有すると仮定写真:柿谷哲也)

B-AI(無人AI爆撃機はF15Eと同等の爆装を可能とし、空戦に必要なミサイルが不要なので17のハードポイントに17発の500ポンド爆弾を搭載。一機当たり約4トンの爆弾量を投下可能)が30機、計120トンの爆弾を積んで離陸。これで反撃し、中国沿岸地域の飛行場殲滅を狙います」


「B-F1機」と仮称する戦闘爆撃機はF15Eストライクイーグルと同等の性能を持つと仮定(写真:米空軍)

この案に対して、元航空自衛隊302飛行隊隊長で、無人機の現況に精通する杉山政樹氏(元空将補)はこう話す。

「まだ人が考えられるAIのレベルは、ある設定されたステージ範囲内での運用に限られています。また、現在でも攻撃行為は、人を介して行う必要があります」

2月28日の読売新聞は『誤って核使用すると「世界大戦」の恐れも...米、AI軍事規範作り、中国巻き込み図る』と報道し、その中にある【米国が提唱するAI軍事利用に関する国際規範】にこう書かれている。

▽AI兵器の開発や使用などに際し、人間の関与を含む適切な扱いを保証

▽意図しない結果を回避する能力を設計上、組み込む

「すなわち、完全自律型のAIは危ない所があり、暴走して予期不能な事になる。だから、人が攻撃に関与しトリガーを引く判断をしないとなりません」(杉山元空将補)

その前提をもとに、先に柿谷氏に提案いただいた空自AI無人戦闘機隊の中国沿岸部飛行場攻撃案を改訂してもらった。


AI無人戦闘機隊となると、空中警戒管制機が必要なくなる(写真:柿谷哲也)

「機械モノはどこかが壊れるので、修理等にマンパワーが介在し無尽蔵には増やせません。100機中10機位が使用不能になると、任務が成立できるかどうか疑問です。

だから、有人戦闘機・F3一機につき、無人戦闘機・ロイヤルウイングマンが三機付くのがAI戦闘機隊の基本形となるでしょう。先ほど言ったように、人間がネットワークを支配し、最終的なトリガーを握る。

なので、有人戦闘機F3、48機にロイヤルウイングマンとしてF-AI が三機ずつ計144機、レーダーミサイルを計2688発搭載することとなります。このF-AIは滑走路不要で、10〜10G以上かけてカタパルトから発射。または輸送機から投下し自律飛行して洋上で集結します」(杉山元空将補)


柿谷氏の編成案だと、空中給油機の性能が問題となる(写真:米海軍)

かたや中国からもAI無人戦闘機が迎撃に向かう。

「中国空軍にはAI無人機での戦闘機運用能力はまだ備わっていません」(杉山元空将補)

すると、相手は中国の有人戦闘機となり、公開されている情報では戦闘用航空機を約2,500機保有していることとなる。


杉山元空将補編成案だと、全機AI無人機は無理と判断。空自F3にF-AI機として、無人機ロイヤルウイングマンが三機付くのが基本編隊となる。写真左はF35ステルス戦闘機からその能力は有する(CG:イギリス国防省)

「そのうち東シナ海沿岸部に出て来るのは最大で1,000機。ヒートミサイルを撃ちまくる無人ミサイル母機が、その有人戦闘機の前方に捨て駒で出てきます。

その機をレーダーミサイルによって全て撃墜します。2〜3発でやっと一機撃墜ですが、900〜1300機落とせるミサイル数を搭載しているので、ほぼ全滅させられると思います」(杉山元空将補)


杉山元空将補編成案だとB-AI機を新鋭機として開発生産すると高くなるので、別の手があると言う(CG:バイカルテクノロジー)

F-AIが中国有人戦闘機を引き付けている間にB-AI爆撃隊は対空砲火を破壊し、飛行場を爆撃する。

「密着型増槽を付けているので、空中給油機は不要です。

そして、わざわざ高額のB-AI機を作るより、空自のF15にAIを搭載して無人機化したほうがベターでしょう。F2はデジタル式フライバイワイヤなので、無人機化はそんなに難しくないし、安価でできます。


空自にF3が来るときに用廃になるF15をAI化して、無人機ウェポンキャリアーにする(写真:柿谷哲也)


空自F2はフライバイワイヤなので、より容易にAI無人戦闘爆撃機に変身させられる(写真:柿谷哲也)

F15J/AIとF2A/AI計200機に、空自にある一発1,000〜2,000万円の安いJDAM爆弾を搭載して出撃します」(杉山元空将補)


杉山元空将補案だと、AI機は胴体密着型のコンフォーマルタンクを装着するので、無人給油機はいらなくなる。写真は米海軍の空中給油無人機(写真:米海軍)

これで、敵基地反撃能力の一端として作戦を遂行できそうだ。

「この戦力ならば、反撃目標の中国沿岸部の飛行場20箇所を潰せるでしょう」(杉山元空将補)


空自AI無人戦闘機隊は、中国沿岸部飛行場を敵基地攻撃能力の一翼として、アルファストライク全力攻撃を仕掛ける。成功するのか...(CG:バイカルテクノロジー)

取材・文/小峯隆生 写真/柿谷哲也