東京大に合格できるレベルでありながら、早慶に入学する女子が少数だが見られる(写真:haku/PIXTA)

親の常識は受験生の非常識と言われるほど、今の受験事情は様変わりました。とくにトップ私大と称される「早慶MARCH(早稲田・慶應・明治・青学・立教・中央・法政)」でその傾向は顕著だ。これらの大学はどう変化し、社会でどのような位置づけにあるのか。教育ジャーナリスト・小林哲夫氏の著書『早慶MARCH大激変「大学序列」の最前線』より一部を抜粋し、再編集のうえ、各校が取り組む改革や、難易度、就職力、研究力、学生気風などを紹介する。

1970年代以降から女子学生の大学進学率が上昇

女子の大学進学率は1972年まで1桁台だった。大学進学者は高校時代に成績優秀とは限らない。家庭の事情で進学をあきらめた女性が少なからずいたからである。かつて経済的に困窮している、「女は大学に行くべきではない」という親の方針などを理由に、高校を卒業して就職した女性は一定程度いた。

1960年代、石川県立金沢泉丘高校、香川県立高松高校、鹿児島県立鶴丸高校など県内トップの進学校でも女子生徒は大学ではなく、地元の金融、メーカーなど有名企業に就職した者がいた。

しかし、1970年代以降、こうした考え方は少なくなっていく。大卒でなければ希望する仕事に就けない、奨学金を活用して進学する、という考え方が広まったことで、進学先として早慶MARCHが選ばれるようになった。

■早慶MARCHの女子学生数、女子学生比率の推移



早慶MARCHの国際系学部9学部のうち6学部は女子比率6割を超えている。上位は青山学院大地球社会共生学部70.8%、立教大GLAP(Global Liberal Arts Program)70.0%、法政大国際文化学部70.0%、法政大グローバル教養学部68.4%、明治大国際日本学部61.8%となっている。

青山学院大地球社会共生学部の女子学生がこう話す。

「必修科目のひとつである「キリスト教概論」ではキリスト教の教えについて学ぶだけでなく、新型コロナウイルスが及ぼす国際関係の課題など社会的な事象をキリスト教の教義を通して見つめ直すことで、新たな視点を得られました。

そうした気づきから、ニュースや日常の問題を客観的にとらえ、その背景に思いを馳せるようになりました。自分にとって大切な考え方や生きていくうえでの教訓を得られたと感じています」(青山学院大地球社会共生学部ウェブサイト)

立教大異文化コミュニケーション学部とは?

立教大異文化コミュニケーション学部は、海外の異文化との交流という点では国際系に近い。自分と異なる考えを持つ他者との向き合い方、価値観の違いを生み出す文化や社会背景に対する理解、多様性や違いを前提に他者と共に生きる方法、平和と豊かさをつくりだす政策などを学ぶ。

2018年に同学部を卒業した女子学生は、アフリカ、モザンビーク共和国にて国連ユースボランティアの一員となり、5カ月間、広報官として働いていた。

次のようなレポートを送る。

「同じオフィスにいた同僚たちのプロ意識に剌激され、つねに彼らに追いつこうとしている自分がいました。国連機関で働く人々が抱える熱意や葛藤を実際に目の当たりにすることで、今まで手の届かないような存在であった国連が、一気に人間味を増して身近に捉えることができました。

組織の一員になることによって、「国連」への固定観念が覆され、「国連職員」と「日本人大学生」という異文化のぶつかり合いも経験できたように思います。国連ユースボランティアの経験を通して、自分の立ち位置と、目標である国際機関で働く自分との距離を明確に測ることができました」

全般的に女子学生は増えたが、学科によってはバラツキが見られる。建築、化学、生物系は3割を超えるところがある。

数学や物理は1から2割、機械、電気系は1桁台のところがある。明治大理工学部機械工学科6.4%、建築学科30.5%、数学科14.1%、物理学科13.0%、応用化学科30.9%。法政大理工学部機械工学科11.8%、電気電子工学科7.0%、デザイン工学部建築学科34.8%となっている。

明治大理工学部応用化学科で光触媒を扱った研究に取り組む女子学生は、より効果的に水素を取り出し、活性化させるためにどのようにしたらよいかというテーマに挑む。

「石油や化石燃料など温暖化について世界的に問題となっていますが、光触媒の水の分解の活性が上がれば、将来的に水素をクリーンに製造するようなものができます。地球環境の改善に役立つ研究に魅力を感じています」(「明治大学 理系女子のキラキラキャンパスライフをのぞいてみよう」明治大学男女共同参画推進センター)

女性学長の発信力

2022年4月、法政大の前総長・田中優子さんが母校である清泉女学院中学高校(神奈川県)で講演を行った。テーマは「大学はどういうところか」「女性が自由を生き抜くために」である。同校はその様子を次のように紹介した。

「法政大学憲章「自由を生き抜く実践知」について、ご自身の学びの経験をもとにお話ししてくださいました。また、現代社会において女性が「自由を生きていく」ためにどのような視点をもつとよいかを、わかりやすく生徒に伝えてくださいました。講演会の後には、有志の生徒と座談会が開かれ、夢を語る生徒たちに正面から向き合ってくださいました」(清泉女学院ウェブサイト 4月25日)

田中さんは法政大総長を2014年から2020年まで務めた。この間、多くのメディアに登場してさまざまな発言を行っている。

特定秘密保護法、安保関連法案、日本学術会議任命拒否問題に異を唱えるなどリベラルな考え方を打ち出してきた。それが、女子高校生および保護者(母親)に受け入れられた、つまり田中優子人気で女子の進学者が増えたのではないかと言われている。

これを証明する手立てはないが、田中さんは総長時代、女子高校生に向けて女性のさまざまな生き方を示し、法政大が女性のキャリア形成につながる教育を行っていることをアピールしてきたのは確かだ。法政大以外の6大学ではできない芸当であり、意義が大きい。

1998年、明治大に新校舎リバティタワーが誕生した。女子学生を意識したアメニティーが整備されており、なかでもトイレには力を入れている。個室トイレは1階に約30個、そのほか各階に約6個が備わっている。他大学が平均3、4個なのに比べると多さが際立つ。洗面台数がたくさんあるので混雑しない。


そして特筆すべきは1階に設置されたパウダールーム(化粧室)である。女子学生数を押し上げた要因はアメニティーにあるのかといえば、こちらも証明はむずかしい。ただ、オープンキャンパス見学で他大学、とくに女子大とくらべて、女性用施設に遜色がないところは、女子高校生のハートをつかんだといえる。

2022年明治大合格者数高校別の上位校で実績が高い女子校は、洗足学園144人、頌栄女子学院137人、鷗友学園女子118人、豊島岡女子学園111人、浦和第一女子110人、女子学院101人、フェリス女学院91人(以上、大学通信調べ)となっている。

早稲田大の学生数の推移を男女別、合計でみると、驚くべきことがわかる。2002年の女子は1万2719人、全学合計は4万4576人。2022年になると女子は1万4967人、全学合計は3万8658人。20年で学生数は約6000人減ったのに、女子は約2000人も増えている。

入学者で優秀な女子が増えたことは明らかだが、在学生で成績不振(単位未取得)による退学者は男子が多く女子が少ないことが想像できる。早慶MARCHいずれも1990年代に比べれば成績、出席が厳しく問われるようになったことが大きい。

東大に入れても早慶へ

東京大を受験すれば合格できるレベルでありながら、早慶に入学する女子が少数だが見られる。東京大にさほど魅力を感じず、早々と早慶を志望する、なかには中学受験で早慶の附属、系列校に女子が進んでしまうケースだ。

これらはエビデンスがあるわけではないが、進学校、予備校、そして早慶関係者は、「東京大に入学してもおかしくない女子」は必ずいるという。こう考えると、東京大の女子学生比率が2割そこそこなことに納得がいく。東京大より早慶を選んだといっても、合理性に欠ける話ではない。

(小林 哲夫 : 教育ジャーナリスト)