ウクライナ避難民への“難民貴族”発言で炎上の日本語学校元理事がまたしても暴言。「ウクライナモンスターになる」…あきれた演説の音声を入手!その内容とは?

来日したウクライナ避難民への支援の一環として、当初、6か月間は学費教材費が無料としていたにもかかわらず、3か月後から突如学費を請求し始めた学校法人「ニッポンアカデミー」。清水澄理事長の“暴言”もあって、世間でも知られることになったこの騒動。集英社オンライン編集部では、学校側がウクライナ人学生向けに開いた説明会の音声を入手。そこでは、理事長の呆れた演説が繰り広げられていた。

発言撤回どころか「ウクライナモンスター」と“追い暴言”

「(日本財団がウクライナ難民1名につき生活費を年100万円の支援等を行うことに関して)アンビリーバブルな世界です。もう、アンビリーバブル。ウクライナの所得はいくらです? ウクライナの何年分のお金を貰えるわけですか? それで、なんであなたたちはリッチじゃないんですか?」

戦火を逃れ、祖国・ウクライナから来日した約20名の避難民を前に、時に声を荒げながら、こう問いかけるのは、前橋市で日本語学校を運営する学校法人「ニッポンアカデミー」の清水澄氏(当時理事長)だ。

ニッポンアカデミーが運営する長野県高山村にある東京デュアラー校。来日したウクライナ難民がコロナ対策のためここで1週間隔離された

昨年秋より、ニッポンアカデミーはウクライナから避難してきた学生たちとの間で、学費の支払いを巡って対立していた。2月24日に清水氏が群馬県庁で開いた会見では、「家賃もタダ、税金もタダ、渡航費もタダで、はっきり言って難民貴族」と発言。

これに対し、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使が「絶対に許されない、恥ずべき発言だ。この不適切な教育機関から離れることを勧める」とツイッターで怒りを露わにするなど、波紋を広げていた。

いまだ騒ぎの冷めやらぬ3月20日、清水氏が理事長の職を解かれたことを、ニッポンアカデミーがホームページで伝え、これで事態は沈静化に向かうかに見えたのだが……。

同月22日に会見を開いた清水氏は、解任はあくまで「学校法人の判断」であり、「一連の発言の責任を取ったというのではありません」と説明。

“難民貴族”発言を撤回するどころか「(ウクライナ)学生のわがままを助長すると、『ウクライナモンスター』になってしまう」といった趣旨の発言で、またしても、ウクライナ避難民への支援を非難する主張を繰り返したのであった。

「パンフレットはデタラメだった……」

冒頭の発言は、昨年11月15日。まだニッポンアカデミーの「学費請求問題」が報道される以前に、ウクライナ避難民の学生たちを集め、清水氏が「学費請求の正当性」を説いた説明会で飛び出した発言だ。まず、この説明会に至るまでの流れを時系列に沿って、ざっと振り返ってみよう。

ウクライナ避難民を支援している団体関係者によると、これまでニッポンアカデミーが受け入れた避難民は総勢40名。第1グループの10名が昨年6月6日に入学したのを皮切りに、大きく4つのグループに分かれて来日したという。

一部の学生は、“半年間は学費無料”という認識で来日し学校生活を送っていたのだが、昨年9月末ごろに、学校側が学生に授業料を請求し始め、翌10月には授業料有償化を不服として7名の生徒が学費不払いのまま除籍処分になっている。

学校側による学費の請求は「突然の出来事だった」と語るのは、第2グループとして7月に来日したルニン・ヴラディスラヴさん(24歳)だ。

インタビューに応じるルニン・ヴラディスラヴさん

「(来日から)3か月後の9月末に学費の説明があり、10月に書類が配られ、お金の支払いを要求されました。何の根拠もなく、何の理屈もなく、事前の説明もなく、授業料の支払いを命じられました。パンフレットはデタラメだった……」(ルニンさん)

突然学費を請求された時の気持ちを問うと、「どういう気持ちって……。ふざけている」と嘆息するルニンさんが言う「パンフレット」とは、ルニンさんらが来日直後に配られた、支援内容などが英語で明記された書類のこと。

そこには、アルバイトで十分に稼ぐことができるまで、6か月間は学校が手助けするとして、ニッポンアカデミーの学費と教材費が無料と書かれている。

ルニンさんがもらったパンフレットには学費と教材費が6か月無料と記載されている

「『6か月』とここに書いてあるのに……。しかし、契約書を交わしておらず口約束だけで私たちは日本に来たので、学校側は法的な義務を負わない。そのために、条件が変更されてしまった。ウクライナ人は避難民ですから、避難先の国での自分の権利すら、把握するのは難しいのです」(ルニンさん)

「支援金は10万円か30万円か、まだ決まってない」

このように、学校に残った学生たちの間にも、学校への不信感が募っていた11月15日。理事長自ら、学生たちを説得すべく開かれたのが、冒頭の説明会だ。

今回、取材過程で入手した約68分にも及ぶ説明会を記録した音声データの一部を公開する。ウクライナ避難民や学費に対する清水氏の考え、そして前橋市から下りるはずだった補助金にまつわる事情の一端がうかがえよう。

ウクライナ軍がヘルソン(ウクライナ南部の都市)を奪還した当時の戦況に触れ、その喜びをしみじみと語り出す清水氏は、すぐに本題であるお金の話に移る。

「今日は学校の立場を理解してもらいます。『損得勘定で考える』。ここが1番重要です。損得勘定。『どちらがお得ですか?』ということ。私たちが得か、みなさんが得か。どちらが得かという問題です。最初に結論を言います。両方損なんです。

(中略)

問題は支援金です。10万円とか30万円です。まだ決まってないんです。(中略)みなさんから1円でもお金をもらうとこれ(註:市からの補助金)は0ですよ、と言われているのです。みなさんからお金をもらわなければ、私たちはお金を960万円もらえるかもしれない。どちらが得でしょうか」(清水澄・当時理事長)

清水氏が「まだ決まってない」としている支援金とは、前橋市が避難民に支払う「日本語習得支援」のこと。当初、前橋市は避難民1人につき「授業料半年分と教材費等(上限30万円)」を支給することを公表していたが、昨年6月に上限30万円から10万円に減額されていた。

前橋市のホームページに記載された当初の支援内容

「960万円」という金額は、補助金1人当たり(30万円)×当時在籍していたウクライナ避難民(32人)の合計額であり、清水氏がまだ30万円の補助金を、完全には諦めていなかった様子がうかがえる。そして清水氏は、こう諭すのだった。

「学生さんにとっても学費を払う方が得」

「日本には、『損をして得を取る』という考え方があります。『損して得取れ』ですね。

(中略)

だから、損をして心の得を取るという事です。(中略)皆さんも学校も、信用を得ることができる。(中略)学生さんにとっても学費を払う方が得だっていうことです。

(中略)

4か月目から6か月目までに支払う請求のお金です。(中略)わずか10万円ですよ! 1か月働けば、みなさんが稼げる、ゲットできるお金です、10万円は。しかもほとんど、私たちには残念ですけど、ウクライナの大使館にいってます」(清水澄・当時理事長)

要は、最初の3か月分の授業料は無償として学校が負担するので、4か月目からは、ひと月たった10万円なのだから、避難民が自分自身で払ってくれ、ということだ。学生と学校、一見どちらも「損」するかに見えるが、これにより学校も避難民も、信用という心の「得」が得られる、ということのようである。

学生が支払う授業料のほとんどが「ウクライナの大使館にいってます」というのは、こういうことだ。

実は、授業料の支払い方法に関して、学校は学生に3つの選択肢を提示していた。

① 学校に入金する

② ウクライナ又は世界の人達への救援資金として当学校法人理事長が代表を務めるNPO法人「おもFUND」の活動資金として入金する

③ ウクライナ大使館又は日本赤十字へ学生さんの名前で学校より入金する

10月14日付の書類には、この3つの選択肢が示されたあとに、「学校としては経営的にも困ってますので①案を希望」することが書かれている

在日ウクライナ大使館は授業料を返金

結果的には、清水氏の意に反して、多数の学生が③の学校経由で在日ウクライナ大使館に支払うことを選択した。先の支援団体関係者によると、学校は③を選択した生徒から徴収した授業料を、実際にウクライナ大使館に送金したという。

「こういうよくわかんないことを言い出すから、トラブルが深刻化した感は否めません。普通に、学費としてもらえばいいのに。それを何か違った形のチャリティーに回すというのは、はっきり言って意味が分からない。

それで実際に、学校はウクライナ大使館にお金を送ったのですが、対応に困ったのは大使館。立場上、避難民からのお金は受け取れないと、そっくりそのまま学校に返金したそうです。当たり前ですよね。日本に来た避難民を補助する立場の大使館が、避難民からお金を受け取れるわけがない。

戻ってきたお金が、宙ぶらりんの状態で学校にあるわけですけど、当然『学校はそれをどうするの?』という話になりました。それを生徒に返したら、『大使館への寄付を選択した生徒だけは、学費を払わなくていいの?』って話になります。まあ、こんな感じで揉めていったわけです」(支援団体関係者)

説明会後、前橋市は避難民に向けてこのような文書を出した(「NGO ウクライナ フレンドシップ サポーターズ」理事、加藤秀一氏提供)

そもそも、ニッポンアカデミーはお金がほしいのであれば、③の選択肢を用意する必要はない。この意図についてニッポンアカデミーに質問状を送るも、期日までに回答を得ることはできなかった。

これは憶測でしかないが、学校に授業料を払いたくない学生が一部にいたため、払いやすいように大使館に入金する選択肢を作り、営利目的ではないことをアピールしたかったという見方もできる。

そして、大使館がそのお金を受け取らずに返金することを学校側は最初から予想しており、“宙ぶらりんとなった学費”は、騒動がおさまったら懐に入れる算段だった可能性も否定できないだろう。

いずれにしても、ウクライナから来た学生との溝がどんどん深まっていったニッポンアカデミーと清水氏。説明会で披露された理解しがたい言い分は、やはり学生からもほとんど理解が得られず、いよいよ収集がつかなくなり、理事長解任に至ることになる。

後編記事では、説明会の後半の内容に加えて、学校と避難民が交わした口約束とは何だったのか、なぜ前橋市は補助金を減額したのか、について詳報する。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

資料提供/「NGO ウクライナ フレンドシップ サポーターズ」理事・加藤秀一氏、ルニン・ヴラディスラヴさん