経済的自由や精神的な自由を得るために、どんな投資をしていけばいいのでしょうか(写真:foly/PIXTA)

「支出の最適化」と「収入の約8割を投資に回す」というマイルールの徹底を経て、30歳で金融資産7000万円を達成した投資家の穂高唯希さん。2019年に会社員を辞めてFIRE生活を開始し、約4年が経った現在の資産額は、1億円を超えるまでに成長しているといいます。

経済的自由や精神的な自由を得るために、どんな投資をしていけばいいのか。本稿では穂高さんの新著『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論』より、一部抜粋・再構成してお届け。FIRE前後で変わった、穂高さんの投資術についてつづったパートをご紹介します。

FIRE達成を境に、私の投資スタイルは大きく変わりました。

FIRE前…「収入−支出」を最大化し、毎月給与の8割で、主に米国の高配当株・連続増配株を購入、配当金を積み上げる。基本的に売らず、長期目線で投資

FIRE当時…資産7000万円へ。「配当金>生活費」という目標は達成したので、近い将来に配当を多く出す高配当株にかぎらず、遠い将来に配当を多く期待できる増配株や、配当を出していない株もふくめて下落局面で購入をねらう。毎月買わずに、購入タイミングを計る。

FIRE後(いま)…ルールなし。全面的にこだわり消失。配当を出していない株、ゴールド(純金)、短期投資、下落相場での空売りなど、なんでもあり。投資に割く時間は、平時は減り、変化の兆しを感じると増加。マクロ経済や金融政策、市場心理などを分析し、市場の変化に対応。資産1億2000万円へ。

「鉄の方針」がFIRE後に変わった理由

FIRE前は鉄の方針を掲げ、ひたすら愚直にその方針を徹底していました。目標は、生活費を超える配当金を得て、生活費をまかない、経済的な自由を得て人生の自由度を上げることでした。ところがFIRE後は、それまでの鉄の方針がウソのように、投資に対する従来の嗜好やこだわりが消失しました。

「お金は、人の役に立った結果として、ときに得られるもの」

「結局、だれかの役に立ち、感謝されるとうれしい」

自分の知見や個性、専門性をいかして人の役に立つことに、以前にも増して意義を感じはじめました。FIRE後にお受けした本の執筆や講師などの仕事も、会社員時代と比べ、仕事の意義をより考え、だれかの役に立ちたいという気持ちが増していったように思います。

■収入の複線化

FIREしても会社をやめるリスクは高い」と懸念する人は多いでしょう。たしかに毎月の収入源を失えば不安になると思います。しかし私は、「給与を失う代わりに時間が生まれるため、かならず別の収入が生まれる」という確信を持っていました(繰り返しながら、私が一貫して掲げてきたFIREとは、はたらかないことではなく、あくまで自由で主体的に生きることが主眼です)。

結果的に、FIRE以降、企業から書籍や雑誌の執筆依頼、各種メディアからの取材やコラム連載、講演、番組出演等の依頼を頂きました。

これまでのブログ収入に加え、新たな収入が生まれたことで、株式投資による運用益や配当収入の必要性が以前より低下しました。結果的に後述のとおり運用スタイルが変わり、運用益と資産の拡大にも寄与しました。資産が増えるにつれ、お金へのこだわりが消えていきます。

また、農業を学んだことで作物という「現物収入」を得る方法を習得し、「現金収入」に対して以前より精神的に依存しなくなったのかもしれません。

利益のための投資から社会的投資

「共感できる企業理念を持ち、よりよい社会へ投資する銘柄」という観点で一部の投資をしたいと思うようになりました。

投資先の1つに、静岡県富士宮市に本社を置く日本の鉄鋼会社「エンビプロ・ホールディングス」があります。廃家電などのいわゆる都市鉱山から貴金属を回収する事業を営んでいます。

資源を持たざる国・日本において社会的意義を感じる事業です。ましてや、レアメタルなどは新興国の劣悪な鉱山労働、環境負荷のうえに採掘されているとみられるものもあり、一部の多国籍企業の利益は、新興国の犠牲のうえに成り立っている面も見られます。

同社代表取締役社長、佐野富和(さの・とみかず)氏はTVメディアで次のように語ります。

「循環型社会の実現のための課題解決を自分たちの事業モデルにしています。課題解決そのものが社会貢献につながりますので、事業の成長と社会貢献が同期し、ほとんどストレスなく事業に専念できるという意味では、非常にいい事業をやっている会社だと、自負と誇りを持っております」

理念に賛同でき、社会的意義を感じる会社への投資は、単なる利殖(りしょく)とは異なります。企業の理念や公益性を支援し、社会に貢献する投資活動は、自分のお金を社会に還元する意味合いがあります。利殖目的ではないため株価はあまり気にならず、精神的にも充実します。

公益性を重視して投資銘柄を決めることから、私は「公益投資 」と呼んでいます。このような投資もぜひ視野に入れてみてはいかがでしょうか。

FIRE前後のポートフォリオを比較

下の図が、FIRE前のポートフォリオです。国ごとに保有銘柄を色分けしており、面積の大きさは保有比率の度合いを表しています。

FIRE前…高配当株・連続増配株がメイン

たとえば当時の数値ですが、配当利回り約6%、連続増配年数が約50年の米国たばこ大手の「アルトリア・グループ」や、配当利回りが約5%で連続増配年数が40年(分社前をふくむ)を超える米国製薬大手「アッヴィ」などです。


FIRE前のポートフォリオ(出所:『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論』)

表で示した以外の投資

●米国……デューク・エナジー、iシェアーズ米国リートETF

●日本……スターアジア不動産投資法人、タカラレーベン不動産投資法人、スターツプロシード投資法人、Oneリート投資法人、日本航空、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクグループ、沖縄セルラー電話、ビックカメラ

●ベトナム……ビンホアン水産、サオタ食品

●香港……春泉産業信託(Spring REIT)、HSBC Holdings plc……など

FIRE後…競争力を感じる銘柄や、業界で支配的な地位を確立している銘柄

投資先は各業界で競争力があると感じた「ディア」「コストコ」などや、コロナ禍から反転を見込めると判断した「日本航空」です(先述のとおり「エンビプロ・ホールディングス」は公益投資枠)。


FIRE後のポートフォリオ(出所:『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論』)

配当を出していない無配株(例:ウォルト・ディズニー・カンパニー)や、配当が少ない低配当株(MSCI、ディアなど)にも投資しています。コストコ、MSCIなどは、低配当・高増配が続いています。アッヴィは高配当・高増配の傾向です。

FIRE前後の共通点…個別株メインの投資


投資信託やETFは、運用会社が構成銘柄を入れ替えます。

対して個別株は、自分でどの銘柄を買うか選別します。

つまり、自分で主体的に決めるため、責任は自分にあり、どのような結果であっても納得がいくので自分には合っているスタイルだと感じています。

もちろん、ETFや投資信託は、低コストで簡便に分散投資できるため、一般的におすすめしやすい商品です。

(穂高 唯希 : 投資家)