ヌートバーと吉田正尚の「親指が気になって仕方ない」というファンが増加中…調査して判明した意外な事実

ラーズ・ヌートバー外野手(25)の人気が爆発し、まさに彼の一挙手一投足に注目が集まっている。おなじみの「ペッパーミルパフォーマンス」は新語・流行語大賞を狙えそうな勢いだが、中にはマニアックな関心事もある。ヌートバーの親指に巻かれている“黄色いプロテクター”が話題になっているのをご存知だろうか。
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【写真を見る】あなたは知ってる? 大リーガーの7割以上が使用し、日本人選手の間でも流行中の「黄色い親指」
スポニチアネックスは3月6日、「2安打1打点 満点侍デビューのヌートバー『素晴らしい経験』日本のファンの前で躍動」の記事を配信した。
この日、京セラドームで行われた阪神との強化試合で、ヌートバーの活躍を伝えたものだ。文中には次の一節がある。

《人気のパフォーマンス「ペッパーグラインダー」に加え、一塁ベース上では黄色い親指につけるプロテクターを口にくわえ、打撃手袋を手に持ちながらリードを始めるなど、メジャーリーガーの一挙手一投足にファンだけでなく選手たちも釘付けだ》
同じ日、Yahoo!知恵袋に《ヌートバーが打席に入っているとき、左手の親指に黄色い輪っかのようなものをつけているように見えるのですが、あれはどういう役割のものなのですか?》との質問が投稿された。
これに《プロヒッターです》という回答が投稿された。担当記者が言う。
「プロヒッターはアメリカのプロヒッター社が開発しました。日本でも通販サイトなどで輸入販売されているようで、打撃時の衝撃から親指を守り、ケガを未然に防ぐ》と紹介されています。輪っかの部分を親指に入れて使い、材質に《ポリエチレン》と記されている通り、緩衝材の働きをするわけです」
MLBで大人気
球がバットの真芯ではないところに当たると、耐えられないほど手が痺れることがある。それを防止する練習用具としてプロヒッターは発売されたのだが、アメリカでは「使うと飛距離が伸びる」という理由から人気を集めているという。
アメリカの有名スポーツ誌「スポーツ・ビジネス・ジャーナル」の電子版は2021年4月1日、「ProHitter batting tool sees "massive adoption" in MLB with little marketing」との記事を配信した。
日本語に訳せば、「ほとんど広告も宣伝もしていないのに、バッティングに使うプロヒッターがMLBで“大人気”」といった感じだろうか。
「記事によると80年代から試作品の開発が始まったそうです。2008年に『プロヒッター』という商品名で販売されるようになりましたが、何しろ日本円で1500円くらいの商品です。ほとんど宣伝はしなかったそうです。それでも次第に『プロヒッターを使うとバットの握り方が正しくなるので飛距離が伸びる』とメジャーリーガーの間で評判になっていきました」(同・記者)
記事には「MLBに所属する選手のうち70〜75%がプロヒッターを使っている」とある。現在はさらに増えているのかもしれない。
「これだけ人気を集めると、当然ながら模倣品が出てきます。記事の最後には、Amazonが中国製のニセモノを販売したとして、プロヒッター社の法定代理人が訴訟を起こしたというエピソードが紹介されました」(同・記者)
日本でも人気
こうした評判が伝わるのは早い。日本のプロ野球でも徐々にプロヒッターを使う選手が増えているという。
「侍ジャパンの選出メンバーに限っても、レッドソックスの吉田正尚外野手(29)、ソフトバンクの甲斐拓也捕手(30)、巨人の大城卓三捕手(30)がプロヒッターを使っているとネット上では紹介されています」(同・記者)
野球解説者の広澤克実氏にプロヒッターについて訊くと、「日本ではプロよりアマチュアのほうが普及している印象です」という答えが返ってきた。広澤氏は中学生の硬式野球リーグ「ポニーリーグ」の理事長も務めている。
「超スローモーションで撮影した木製バットでの打撃映像を見ると、ボールがバットの根本のほうに当たると、全体が激しく震えるのが分かります。手に伝わる衝撃は並大抵のものではなく、中学生や高校生だとフォームを崩す選手もいるほどです。最近の高校野球では、打撃練習に木製バットを取り入れている学校も増えています。手や指を守り、フォームを崩さないというメリットから、プロヒッターは人気のようです」
2017年の記事
プロヒッターを使うプロ野球選手に広澤氏が初めて気づいたのは、春のキャンプだったという。
「バッティングでの衝撃は気温も大きく影響します。夏ならさほど感じませんが、気温が上がらない春は激痛となることは珍しくありません。さらに、ピッチャーにとって指は大事な“商売道具”ですから、打撃練習で痛めるわけにはいきません。私が最初にプロ野球選手がプロヒッターを使っているのを見たのは、まだ寒さの残る春季キャンプで、ピッチャーがバッティング練習をしている時でした」
新聞のデータベースを使って「プロヒッター」で検索してみると、日刊スポーツの記事が1件だけ見つかった。
2017年5月27日に掲載された「い〜の〜V打い〜の〜虎斬り」によると、当時DeNAで活躍した井納翔一投手が、打撃練習で使っていたという。広澤氏のコメントの通りだ。
《右親指にはめる打撃補助具(プロヒッター)を握り柵越えを狙う。正確なグリップで打撃力向上を補うとともに、詰まったときの衝撃から手を守る。本職の投球のためでもある》
効果の秘密
記事にある通り本当に打撃力が向上するのか。広澤氏に訊くと、「力んでしまうタイプの打者には有効かもしれません」と言う。
「インパクトの瞬間は指に力を入れる必要がありますが、その後も力んだままだと飛距離は出ません。私の現役時代には存在しなかったので、あくまでも想像ですが、プロヒッターを使うと、指とバットの間に一種の緩衝材を挟んだままスイングすることになります。指とバットの間に隙間が生まれるため、力みやすいバッターでも適切な力で握れるのかもしれません。一方、王貞治さん(82)や落合博満さん(69)のようにバットの握り方が天才的なバッターなら、プロヒッターを使う必要はないと思います」
どんなバッターでも魔法のように飛距離が伸びるというわけではないようだ。一方、中学生や高校生には「一度は使ってみる」ことを広澤氏は勧めるという。
「衝撃の緩和に役立つことは間違いありませんし、使って飛距離が伸びたら朗報でしょう。ただ気をつけてほしいのは、無理に慣れないということです。使ってみて効果が出たら継続してもいいですが、あまり効果が感じられなかったら二度と使わないほうがいいでしょう。自分に合わないものでも慣れてしまうと、それは無意味どころか有害です。無理に慣れることを防ぐため、自分の第一印象を大切にしてください」
ヌートバーも吉田も使っていない!?
最後にヌートバーだが、彼がプロヒッターを使っているというのは、実のところ正しい情報ではない。“黄色いプロテクター”をよく見ると、形が微妙に違うことが分かる。
「ヌートバー選手が使っているのは、アメリカのサムプロ社が発売しているサムガードです。『サム』は英語で『親指』を意味します。公式サイトによると、バッティング時の衝撃防止という目的はプロヒッターと同じですが、他の効用としてスイングスピードが10〜15%向上すると宣伝しています」(前出の記者)
ちなみにネット上では、吉田正尚はサムガードを使っているという指摘もあるようだ。
「サムガードの公式サイトでは29ドル95セント(約4000円)で販売されており、MLBプレーヤーの『使ってよかった』というコメントも紹介されています。プロヒッターのライバル商品といった感じでしょうか」(同・記者)
デイリー新潮編集部