「こういうサークル、知ってるよね」妻を問い詰めたものの、気付くと泣いていた…41歳夫の苦悩と寂しさ

前編【娘が産まれて“外注”になった41歳夫の悩み…悪友から見せられたスマホで知った“妻の秘密”とは】からのつづき
会社員の尾川洋輔さん(41歳・仮名=以下同)さんは、図書館で知り合った3歳年下の友里菜さん結婚。娘にも恵まれた。“女性に不慣れで恋愛ベタ”だという洋輔さんだったが、しっかりとした性格の妻に支えられ、家庭を築くことができた。唯一の不満は、娘が生まれて以降、夫婦間で「レス」になってしまったこと。風俗店を利用することで折り合いをつけていたが、あるとき洋輔さんは、大学時代の悪友を通じ、友里菜さんが「グループセックスサークル」の常連だったことを知る。
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黙っているべきだったのかもしれない。妻といえども他人の性癖、性的嗜好の問題なのだから。だがやはり洋輔さんは黙っていられなかった。

「友人に聞いたサークル名を、ある晩、突然、妻にぶつけてみたんです。『こういうサークル、知ってるよね』と。妻の顔が一瞬、こわばりました。でもその直後、『バレちゃったのか』とあっけらかんと認めたんです。僕にしてみれば、『は?』って感じですよ。あんなに妻とのレスに悩んだのに、妻は勝手に遊びまくっていたのだから。妻は衝撃的な発言をしました。『私にとって、あなたとの性は愛だけど、本来はスポーツみたいなものだと思ってる。あなたとの愛は娘が産まれたことで完結しちゃったの。だからできなくなってしまったのよ』と。僕は頭がこんがらがって、何をどう言ったらいいのかわからなかった」
友里菜さんの過去
その後、妻の生育歴を彼は初めて詳しく聞かされた。両親は彼女が小学生のときに離婚、母はその後、再婚して友里菜さんには新しい父親ができた。この父親が優しくていい男で、彼女は「こんな人と結婚したい」とませたことを考えていた。それなのに、母は浮気をして継父とも離婚となった。
「友里菜が15歳のときだそうです。彼女は継父と別れたくなくて、色仕掛けで誘ったそう。でも継父から見れば娘に過ぎない。彼女はひどく傷ついて、母親がつけてくれた家庭教師を誘惑した。彼女の母親は事業をやっていてかなり稼いでいたそうです。一緒にいる時間は少なかったけど、教育にはお金をかけてくれたと言っていました。でも、どうやらその大学生の家庭教師は母親の愛人のひとりだった。それを知っていて、友里菜は彼を落とした。『母親の影響かしらね、私はほんの3歳くらいのときから女だった。家庭教師を寝取ったとき、母親が憎々しげにそう言ったのを覚えてる』と友里菜は言っていました」
それからの友里菜さんは性を謳歌した。自分の欲望のままに生きた。洋輔さんが友人の名前を出すと、学生時代からナンパだった男ね、知ってると声を上げた。
「あの人が洋輔の友だちだったなんてびっくり。世の中狭いわねって。世間話しているわけじゃないんだよと僕が言うと、『だから私、あなたの前では普通の女を装っていたの。あなたが常識的な人だから。自分が常識的でないことはわかってた。だから友人たちの誰かから漏れることを恐れて、あなたと友人を合わせなかった。ただね、あなたと一緒になれば私自身もひとりの男性で満足できるようになったり、結婚したんだからああいう奔放なことをしてはいけないと思えるようになるかもしれないと思ったの。でもごめんなさい、無理だった』としれっと言うんです」
許せないなら離婚されてもしかたがないと思っている。でもあなたが私の嗜好に合わせてくれてもいいんだけど、と友里菜さんは微笑んだ。
「オレはきみを愛しているんだよ、前にもそう言ったじゃないかと思わず声が大きくなってしまいました。すると妻は『私も愛してるわよ、家族として』と言った。なぜ男として見てくれないんだ……。気づくと僕は泣いていました。妻に愛されていない男として。わかった、じゃあ、しようと妻は言った。憐れまれているようなセックスをしました。虚しくて悲しくて、ちっとも楽しくなかった。『だって、あなたは家族なんだもの』と妻は言いました。継父が私を女として見られなかったのが今になるとよくわかる。でも継父は私を愛してくれていたのも知っている。娘として。私はあなたを夫として家族として、これ以上ないくらい愛してる。友里菜はいろいろなことを言ってましたが、結局、性的関係においては僕には興奮しない、と」
興奮だけが性ではない、安心感やリラックスした気持ちを求めたくなることはないのかと彼は尋ねた。「性を楽しめるのは興奮と刺激があるからでしょ」と友里菜さんはとりあわなかった。
「性というものに対する根本的な考え方が違うんですよね。友里菜は常識からはずれていることはわかっているけど、それが僕を傷つけていることには思い至っていないんだと思う」
洋輔さんは力なくそう言った。
関係を再構築したいのに…
それからコロナ禍に入り、さすがの友里菜さんもサークル活動を自粛すると宣言した。それによって離婚話も立ち消えになった。そもそも、洋輔さんには離婚に踏み込む勇気もなかったのだ。ふたりとも在宅ワークになったり出社したりを繰り返しながら今に至る。この間、家族としてはお互いに思いやりをもって暮らしてきた。娘は両親と一緒にいる時間が増えたのを単純に喜んでいた。
「この娘も友里菜と義母の血を引いているのかと考えると、少し不安ですが、友里菜に言わせれば娘は自分とはまったく違う人種だと思う、と。僕はコロナ禍をきっかけとして、夫婦関係を再構築したいと考えていました。友里菜にもそう言いました。友里菜が心のうちをさらけ出したことで、僕らにはもうタブーはなくなった。きみが相手をしてくれなかったら風俗に行ったことがあると打ち明けました。すると友里菜は、『知ってる。なんとなくわかってた。楽しめた?』というんです。普通の妻なら嫌がるものではないのかと思ったけど、友里菜は『あなたが楽しんだならよかったと思って』と。常識でははかれないんですよ。それを僕が心から理解するのはむずかしい」
こういうことは理解しあえるものではないのかもしれない。尊重しあえるかどうかしかないのではないだろうか。趣味と感覚が合うか合わないか。相手が自由にするのをいいと思えるかどうか。
「最近、友里菜はまた活動を始めたようです。友里菜の会社はコロナ禍をきっかけに、働き方が完全にフレキシブルになったので、彼女は時間をやりくりしてうまくやっているみたい。なんとなくわかるんですよ、彼女の興奮度合いが生活の中で見え隠れするから。以前は飲み会が楽しいんだろうなと思っていた自分がバカみたいだなと思います」
妻が自分の知らない世界を楽しんでいることへの嫉妬、ある意味で自分にはなじめない世界で生き生きとしている妻へのモヤモヤした気持ち、そしてなにより自分を男として見てもらえない寂しさ。
「夫婦関係を再構築、なんてきれいごとは妻には通用しないんですね。そもそも夫婦のありようの定義がまったく違う。今年のお正月休みに3人で旅行したんです。娘ははしゃいでましたね。妻も心から楽しそうだった。僕も楽しかったけど、いつも心の一点に曇っているところがある。妻のように晴れやかに笑えない。僕はどうしたらいいんだろうと妻に言ったんですよ。そうしたら『あなたのしたいようにするのがいちばんだと思う』と。それが離婚という形であれ、現状維持であれ、どちらにしても私は受け入れるよと言われて、ますます自分が小さく思えた」
性的なことは価値観を含めてすりあわせるのがむずかしい。しかも洋輔さんの場合、常識的な彼と、ありふれた言い方をすれば“奔放な”妻との間には、接点さえないのではないだろうか。いつかは妻もそんな世界に飽きるかもしれないし、性欲が衰えてくる可能性も高い。それを粛々と待つ手もある。そう言うと洋輔さんは、寂しそうな顔をして遠くを見つめた。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部