寒暖差の激しい春は睡眠習慣が乱れやすい季節です(写真:Graphs/PIXTA)

日中暖かい日が増えてきましたが、実は、寒暖差の激しい春は自律神経が乱れやすく、眠りすぎてしまったり、眠りが浅くなったりと、睡眠習慣が乱れやすい季節。そんな時期に役立つ毎日ぐっすり眠るための行動を、2万人以上の睡眠の悩みを解決してきた睡眠専門医・白濱龍太郎氏の最新刊『ぐっすり眠る習慣』から一部抜粋・再編集してお届けします。

寝る直前に歯磨きするのは絶対NG

寒さが和らぎ、日中ポカポカとした陽気も増えてきました。「春眠暁を覚えず(しゅんみんあかつきをおぼえず)」ということわざがあるように、ついうとうとしてしまいがちです。

そんな心地よさとは裏腹に、実は、春は睡眠にとって大敵な季節でもあります。なぜなら、「長く眠る=睡眠の質が上がる」ではないからです。

身体の疲れを取るためには、深く眠ることが欠かせません。どんなに長時間眠っても、眠りが浅いとしっかり回復できず寝起きも悪くなり、日中頭が回らなくなってしまうのです。せっかくの新生活に、初っ端から寝坊なんて絶対に避けたいですよね。

深く眠るためには、準備が大切です。わたしたちは「ブレーキのついていないクルマ」のように、3秒で走ることはできても、3秒で寝ることはできません。この構造を理解していないと、いつでもすぐ休めると思って無理をしすぎてしまいます。

眠るための準備として、夕食をとり、入浴し、最後に歯磨きをしてからふとんに入るという習慣が身についている人は多いと思います。

しかし、できれば今晩からはその習慣を見直してください。なぜなら、就寝直前の歯磨きはぐっすり眠るのを妨げるからです。

夜にきちんと眠りにつくためには、「メラトニン」という睡眠ホルモンの働きが必要です。このメラトニンは、日中の活動でできたセロトニンというホルモンを原料にして、脳の松果体(しょうかたい)で作られます。日が暮れて夜になるにつれ眠気が増すのは、このメラトニンの働きによるものです。

しかし、寝る直前に歯茎が刺激されると、せっかく生成されているメラトニンの分泌量が減ってしまうことがわかっています。メラトニンはとても繊細で、歯ブラシの刺激だけでもその分泌が抑制されてしまうのです。

しかし、歯磨きをしないで寝るのは衛生的に気になりますよね。

そこで、いい方法があります。夕食から寝るまでのあいだ、できれば就寝1時間前までに歯磨きを済ませるようにするのです。これで衛生面の問題もクリアできますし、もし気になるようなら寝る前に水でうがいをするのがいいでしょう。

寝る前スマホをやめれば100%睡眠の質は上がる

すべての生物には、生まれながらに「体内時計」というものが備わっています。これは「サーカディアンリズム」とも呼ばれ、「ある時間帯にはこういうことをしたい」と本能的に身体が欲する約24時間のリズムのことです。

ただ、このリズムは地球の自転周期よりやや長いので、どこかでリセットできないと就寝時刻がどんどん後ろにずれていってしまいます。

これを毎朝リセットしてくれるのが太陽の光。それをもとにしてセロトニンがつくられ、夜に睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌されるのです。

ですが、先ほどその繊細さをお伝えしたメラトニン、歯茎だけでなく、目からの刺激によっても分泌が抑えられてしまうことがわかっています。

寝る前にスマホやテレビ、PCなどを見ると、画面から発せられるブルーライトが脳の松果体を刺激し、メラトニンの分泌を抑えてしまうのです。

これが体内時計を狂わせ、「眠りたくても眠れない状態」をつくってしまいます。体内時計の乱れが悪化すると、睡眠相後退(そうこうたい)症候群となり、朝起きるのがとても困難になることもあります。

さらに、ブルーライトだけでなくスマホからの情報がストレスになることも見過ごせません。

今の時代、家にいてもスマホで仕事の連絡ができますし、SNSを見て他人に影響されることもあります。たとえば、せっかく家で休んでいたのに、上司からのメールを見てしまったが最後、「返信しなきゃ」ということで頭がいっぱいになってしまったという経験はないでしょうか。

有能な人ほど、情報を得るとつい次のアクションを考えてしまうので、1つボールを投げ返しても、「次は、次は……」と加速度的に反応しなくてはという意識が強くなり、休息とは程遠い状態になってしまうのです。

このように、つねに何か頭の中でぐるぐる考えてしまう状態を、「マインドワンダリング」と呼びます。これは、「心がさまよっている」という意味で、このような状態になると寝る時間になっても心が休まることがありません。

私も以前は、寝る直前までずっとPCを開いているような人間でした。ですが、それでは日中のパフォーマンスが上がらないことを自覚して、今ではすっかり寝る前にPCやスマホを開くことはなくなりました。

そうは言っても、スマホは時計代わりに使うし、目覚ましのアラームもセットしなければいけないから非現実的だ、と思う方もいるでしょう。そんなときの解決方法は、意外に簡単です。

ズバリ、前の日の昼間に目覚ましをセットしておけばいいのです。日中、昼間のうちに次の日の起床時間を決めて、アラームを設定してしまいましょう。これで、寝る直前にあわてて暗闇の中でスマホを開いてアラームをセットすることはなくなります。

大音量の目覚ましは脳を疲れさせる

こうやって寝る準備を整えて眠りにつき、いよいよ翌朝。大音量の「ジリリリ」という音で目を覚ましていませんか?

確実に起きられるなら悪くはない気がしますが、実はこれ、睡眠習慣としてはNGです。

脳の準備ができていない状態でけたたましい音で無理やり起きると、血圧を高めて起床の準備をするコルチゾールというホルモンがあわてて分泌されるため脳に負担がかかり、いまいちな目覚めになってしまいます。

そこで、アラームをかける場合は「邦楽」にするのがおすすめです。脳が日本語の歌詞を無意識下で認識することで少しずつ覚醒して、スッキリ起きることができます。

さらにこだわるならば、ゆったりしたリズムで始まって、そこからだんだんテンポアップしていくような曲がベストでしょう。こういった曲調の音楽を聴くことが、朝のいい目覚めにつながるとの研究報告もあります。

逆に、絶対に避けたいのが、爆音が鳴り響くような音楽です。眠っていて副交感神経のほうが優位にある状態から無理やり目覚めることは、自律神経と体内時計の乱れにつながります。体内のリズムが狂って心身のバランスが崩れた結果、うつ状態に陥るおそれさえあるので、くれぐれも注意してください。

少しの工夫で睡眠の質はアップする

また、どうしても朝が苦手な人に試してもらいたいのが、心理学で知られる「宣言効果」を使う方法です。これは、目標を紙に書き出したり、他人に宣言したりすることで目標達成に導く効果ですが、これを起床にも応用するのです。

次の日に楽しみなイベントがあるときなどは、不思議とスッキリ起床できた経験がある方も多いのではないでしょうか。まさにそれと同じ作用です。就寝前に起床時刻を強く認識することで、血圧を高めて起床の準備をするコルチゾールも分泌されやすくなり、スムーズな目覚めにつながります。


これを習慣に取り入れるのは、とても簡単です。就寝前に翌日の起床時刻を家族に告げるか、自分自身で数回「○時に起きる」と唱えるだけでOK。

毎日行えば起床に対する自身のモチベーションも上がり、やがて起床時刻の前に目を覚ますことができるようになるでしょう。この方法は、なにより継続して行うことが重要ですので、根気強くトライしてみてください。

そして、目覚めたらカーテンを開けるのも忘れずに。暖かくなってきたら、カーテンを開けっ放しで就寝してもいいでしょう。

このように、少しの行動に気をつけるだけでも、睡眠の質を高めることはできます。

世界にはきれいなものやワクワクすることがたくさんあるのに、疲れていてはもったいない。春こそ睡眠習慣を見直し、イキイキと新生活をスタートさせましょう。

(白濱 龍太郎 : 睡眠専門医)