大阪桐蔭・前田悠伍選手(写真提供・プロアマ野球研究所)

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チームを牽引する“世代ナンバーワン左腕”

 3月18日に開幕した第95回選抜高校野球。昨年の覇者である大阪桐蔭(大阪)が、史上初となる「2度目の選抜制覇」に挑むことで注目が集まっている。本記事では、プロ注目の選手を中心に、大阪桐蔭の実力を分析したい。【西尾典文/野球ライター】

【写真】プロ球団のスカウトが「大阪桐蔭で一番プロに近い野手」と語った注目株も

 チームの柱となる選手は、世代ナンバーワンの呼び声高い、サウスポーの前田悠伍である。多くの有望選手が集まる大阪桐蔭のなかで、1年秋から主戦投手となった。昨年の選抜では、2試合、13回を投げて1失点(自責点0)、23奪三振という圧巻の投球で、チームの優勝に大きく貢献した。

大阪桐蔭・前田悠伍選手(写真提供・プロアマ野球研究所)

 最速148キロをマークする高速左腕であることに加えて、高校生離れした投球術が光る。プロのスカウト陣からは、前田の実力を高く評価する声が聞かれる。

「1年生の秋から前田をチェックしていますが、相手チームの上級生に対しても、完全に上から見下ろして投げているように見えました。試合の勝負所をよく理解していて、ここで抑えれば、チームの勝ちに大きく近づくイニングでは、明らかに、(球速がアップするなど)ボールの質がいい方向に変わります。一言で言えば、『投球が大人』だといえますね。こういう部分は、指導者が教えてもなかなか身につくものではありません。(昨秋の大阪大会で右わき腹を痛めるなど)体のいろんな所が痛かったようで、いい時に比べると、状態は半分以下だったと思います。それでも、近畿の強豪校に負けなかったのは凄い。選抜はまだ打線が仕上がっていないチームが多いため、前田を打ち崩すことはかなり難しいでしょうね」(関西地区担当スカウト)

大阪桐蔭で一番プロに近い野手

 一方、大阪桐蔭の“有力対抗馬”と目される仙台育英の須江航監督は、「前田くんの出来でチームのランクが2段階から3段階くらい変わる。それくらいの存在だと思います」と語る。昨年、夏の甲子園で東北勢初優勝を成し遂げた名監督の言葉だけに、実力者が揃うチームにあっても、前田の“存在感”は絶大だといえそうだ。

 それに加えて、4月から2年生となるメンバーに楽しみな選手がいる。パ・リーグ球団のスカウトは、“ある外野手”が特に気になったという。

「新チームからレギュラーを掴んだ野手のなかでは、徳丸快晴に最も驚かされました。ボールをとらえる感覚がとにかく素晴らしい。どのコースの球にも対応できますし、高校生でここまで弱点の少ないバッターはなかなかいないですね。西谷監督が3番に固定して、起用し続けているのもよく理解できます。3年生を含めても、大阪桐蔭で一番プロに近い野手は徳丸かもしれません」

 徳丸は、一昨年の「夏の甲子園」を制した智弁和歌山の4番、徳丸天晴(現・NTT西日本)を兄に持つ。中学時代から強打者として知られ、「カル・リプケン12歳以下世界少年野球大会日本代表」として世界の舞台を経験している逸材だ。前出のスカウトの言葉通り、徳丸は、秋の明治神宮大会の4試合で、16打数8安打7打点と、中軸打者として役割を十分に果たしている。

両親がスリランカ人の大型スラッガー

 このほか、投打で将来性が高い境亮陽、140キロ台中盤のスピードを誇る右腕の南陽人、両親がスリランカ人で、大砲候補のラマル・ギービン・ラタナヤケ。これらは、すでにスカウト陣がチェックしている2年生選手たちだ。

 境は運動能力が抜群で、中学時代に陸上100mでジュニアオリンピックに出場した経験がある。秋の明治神宮大会、クラーク記念国際戦で7番、センターとして先発出場すると、ホームランを含む4打数4安打の大活躍を見せた。

 身長173cmと投手としては小柄な南は、躍動感溢れるフォームが持ち味だ。秋の明治神宮大会決勝、広陵戦ではリリーフで2回を投げて2失点で降板したが、4奪三振を記録している。

 そして、ラマルは身長185cm、体重85kgの大型スラッガー。近畿大会の彦根総合戦で4番を任されて、2本のツーベースを含む3安打を放っている。彼らの存在は、上級生にも大きな刺激になっていることは間違いないだろう。

大きな課題は“守備”

 しかしながら、盤石に見える大阪桐蔭にも選抜連覇に向けて“不安要素”はある。特に、大きな課題は守備面だ。昨年、レギュラーだった選手は卒業し、全員が新しいメンバーに入れ替わっていることから、経験不足な感は否めない。大阪桐蔭は、昨年11月に行われた秋の明治神宮大会を制しているが、4試合で失策4を記録している。うち、2つが失点に直結するタイムリーエラーだった。

 西谷浩一監督も、秋の明治神宮大会の優勝インタビューで、「守備面の課題が多く出た大会で、細かいミスも多かった。これからまた鍛え直します」と守備面の課題について言及していた。

 これまでの大阪桐蔭は、昨年までレギュラーメンバーをほとんど固定して戦うスタイルだったが、秋の近畿大会と明治神宮大会ではスタメンが入れ替わることが多く、チームの完成度が“発展途上”である感は否めない。

 多くの野球ファンのなかには、昨年の選抜、秋の明治神宮大会の戦いぶりを見て、大阪桐蔭が“優勝して当たり前”という雰囲気が漂っている。だが、経験豊富な選手が少ない中で、さらに勝ち進むことは簡単ではない。西谷監督は常々「甲子園は足し算ではなく、掛け算で選手が成長する場所」と話しており、選抜連覇のためには、大会が始まってからの選手の成長が大きなカギとなりそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部