「舞いあがれ!」の史子役で異彩を放った八木莉可子 今後も注目すべき若手女優の“凄さ”とは

NHK連続テレビ小説(朝ドラ)「舞いあがれ!」がいよいよ3月31日に最終回を迎える。朝ドラといえば、約半年にも及ぶ長丁場な作品だけに途中から登場する追加キャストも多い。そのなかには、序盤から登場しているキャラクターよりも強烈なインパクトを残すサブキャラもいる。とりわけ本作で異彩ともいえる存在感を放ったのは、第19週の「告白」から登場した秋月史子だろう。
【写真】優しい笑顔とハイブランドを着こなす姿…八木莉可子は“ギャップ”も魅力的
演じた八木莉可子は、清潔で爽やかな雰囲気を漂わせつつも、その特徴的な太眉などでキリッとした凛々しさや意志の強さ、内に秘めた情熱などを感じさせられる点が魅力の1つ。今後要注目の若手女優の1人であることは間違いない。その凄さを探ってみよう。

ポカリスエットのCMで注目度が急上昇
現在21歳の八木は2001年7月7日、滋賀県で生まれた。幼いころからモデルになるのが夢で、14歳のときに現在の所属事務所・エイジアクロスが初めて開催した大規模モデルオーディション「#THE NEXT ASIACROSS MODEL AUDITION 2015」に参加する。応募者7851人の中からグランプリに選ばれ、ViVi賞とパナソニック賞も同時受賞した。
その後、人気モデルで事務所の先輩でもある水原希子の妹分としてモデルデビューを果たす。翌年8月にはファッション雑誌『Seventeen』(集英社)の「ミスセブンティーン2016」に選出。21年3月発売の4月号をもって卒業するまで、同誌の専属モデルを務めた。
デビュー間もない16年4月には「ポカリスエット」(大塚製薬)の新CMブランドキャラクターにも抜擢されている。同CMといえば、若手時代の綾瀬はるかや川口春奈、中条あやみらが起用された“新人女優の登竜門”。この時のオーディションでダンス審査に臨んだ八木は、通っていた中学校の伝統行事だったソーラン節を披露した。
CMは若い世代の情熱を伝える内容で、シリーズ最初の“エール編”では300人のダンサーに交じり、本格的なダンスに初挑戦。その後は制作されるたびにダンスの規模が拡大し、難易度もアップしていった。特に彼女を含む総勢4348人の中高生と“ガチダンス”に挑戦したバージョンは圧巻のひとこと。視聴者にかなり大きなインパクトを与えた。
NHK大河ドラマにも初出演
このCM初出演から約3カ月後、今度は待望のテレビ地上波ドラマ出演が決定する。黒島結菜主演の「時をかける少女」(日本テレビ系・16年7月〜8月放送)で演じたのは、主人公・芳山未羽が通う高校の同級生・大西敦美。ネットアイドルの顔も持つ今どきの女子高生を初々しく演じきった。
ネット配信系も含めこれまでのドラマ出演数は計13本、映画は計4本。その中には主演を務めたNHK大津放送局開局80周年記念ドラマ「キャンパスで会おう!」も含まれているが、インパクトという意味で注目するなら18年7月クールの連ドラ「チア☆ダン」(TBS系)だろう。
ドラマ「チア☆ダン」は、福井県の高校チアリーダー部が全米チアダンス選手権大会で優勝するという実話を描いた映画『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』(17年3月公開)の9年後が舞台。そこで八木が演じたのは、土屋太鳳演じる主人公・藤谷わかばの親友で、チアダンスに興味がない文化系女子の柳沢有紀だった。
先のポカリスエット以外に、中古車情報サイト「グーネット」のCM(17年)でもキュートなダンスを披露した八木を、あえて“踊らない役”にキャスティングしたのである。八木はその期待に応え、主人公を支える重要なキャラクターの1人を好演した。
昨年は「鎌倉殿の13人」でNHK大河ドラマにも初出演。のちに平賀朝雅(山中崇)の妻となる、北条時政(坂東彌十郎)とりく(宮沢りえ)の娘・きくを演じ、その“和服美人ぶり”はドラマの中で際立っていた。
初登場からインパクトがあった「舞いあがれ!」の史子
そして朝ドラ「舞いあがれ!」である。演じたのはヒロイン・岩倉舞(福原遥)の幼馴染で、歌人の梅津貴司(赤楚衛二)のファン・秋月史子。史子は自らも短歌を詠むものの、誰にも見せられないでいた。そこで、偶然目にした貴司の短歌に心を打たれ、貴司になら自分の短歌を見せられると考えて、遥々会いに来る。
八木自身が普段から短歌を詠んでいることもあり、「ときに……」や「忌憚なきご意見を」といった古風な言葉遣いがうまくハマっていた。しかし、何と言っても初登場の場面からしてインパクトが大きかった。
貴司が主人を務める古本屋「デラシネ」に、遠慮がちに「こんにちは」とやって来た史子は「やっと会えました」とまずは感慨深げな表情をみせる。そして自作の短歌を読んでもらい、貴司から好意的な感想を伝えられると突如すすり泣きを始めた。さらに貴司が差し出したハンカチで涙を拭きながら、「短歌は、私の……命ですから。それ否定されたら生きていかれへん」と、ドキッとするような一言を発するのだ。
そしてトドメは帰り際だ。傍にいた舞に「あの、奥様ですか?」と尋ね、舞が否定すると「良かった」と笑顔を見せたのである。この一連の演技で観る者が感じたのは、史子にはどこか“重たい雰囲気”が漂っているということ。貴司に自作の短歌を差し出す時の上目遣いも印象深かった。
史子は基本的におとなしく内気な性格だが、「梅津先生(=貴司)の短歌の一番の理解者は自分である」という思い込みが強く、貴司の素朴な短歌を評価せずインパクトや読者受けを重要視する担当編集者のリュー北條(川島潤哉)に激高するなど、危うい面も併せ持っていた。
ひねりのあるヒロイン役でさらなる飛躍か?
普段の八木は大人びたルックスの正統派美人で、高い透明感がある。それだけに、マウントを取るような敵役の史子は、観る者により“驚き”を与えただろう。穏やかな幼馴染関係を続けていた舞と貴司の間に突如現れ、波風を立てる役回りだったが、同時に芯の強さとピュアさを兼ね備えていた史子は、本作の中で“特異な光”を放ったと言っていい。
複雑な役柄を好演した演技巧者ぶりで今後、業界内での八木莉可子の注目度はますます上がるに違いない。その手始めが、NHK総合の「夜ドラ」枠で4月3日から放送予定の「おとなりに銀河」である。
主人公は売れない漫画家の久我一郎(佐野勇斗)。八木はヒロインの五色しおりを演じるが、実は「流れ星の民の姫」という難しい役どころだ。ファンタジー要素やコメディ要素も含みつつ、温かく優しい恋の物語で、果たして八木はどんな新境地をみせてくれるのだろうか。
いずれは朝ドラのヒロインになりそうな逸材だけに、これからもその演技から目が離せない。
上杉純也
デイリー新潮編集部