WBC準々決勝イタリア戦、負傷を押してスタメン復帰した侍ジャパンの源田壮亮【写真:Getty Images】

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準々決勝で株を上げた選手たち

 野球日本代表の侍ジャパンは「カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC 東京プール」の1次ラウンドと準々決勝を勝ち抜き、米マイアミで準決勝(日本時間21日午前8時開始)に臨む。3大会ぶりの優勝へ歩を進める侍の中に、16日の準々決勝・イタリア戦でファンへ新たな一面を見せ、株を上げた選手たちがいる。その筆頭は、10日の韓国戦で試合中に利き手の右手小指を負傷しながら、敢然とスタメンに復帰しフル出場を果たした源田壮亮内野手(西武)だろう。

 源田は準々決勝で、小指に何重にもテーピングを巻いて固めた状態で守備に就き、3つの遊ゴロをさばき、8回の二ゴロ併殺でも一塁送球をこなした。こんな状態でも、昨年まで5年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞している源田の守備は、侍ジャパンにとって欠かせなかったのだ。本人は「グラウンドに立つからにはしっかりしたプレーをと思っていたので、よかったです。全然問題はないです」と涼しげに語ったが、問題大ありなことは、誰の目にも明らかだ。

 打撃では、テーピングで太くなった指がそのままでは皮手袋に入らないため、手袋の小指部分を切り落として外へ出していた。内角球に詰まらされファウルになったり、凡打するたびに、見ている者にも痛みが伝わってくるようだった。それでも7回1死一、三塁のチャンスでは、内角高めの148キロの速球を振り抜き、右前タイムリー。「その前の打席でチャンスを潰していた(5回2死三塁で遊飛)ので、次こそはと思っていた」と一歩も引かない意思を示す。

 栗山英樹監督は「僕はゲンちゃん(源田)に関して多くを語らないで来たけれど、全て終わったら、いろんな思いをお話ししたい。今は彼の、本当に命をかけていく感じのプレーを、ぜひみなさんに見ていただきたい」と感嘆。準決勝以降も、源田のプレーを刮目して見るべし――だ。

“追いロジン”再び、伊藤はイニング途中のピンチで慣れないリリーフ

 2人目は、伊藤大海投手(日本ハム)。最終的に9-3で大勝した侍ジャパンだが、4-0で迎えた5回の守りで、先発の大谷翔平投手(エンゼルス)が2安打2死球で2点を失い、なおも2死一、三塁のピンチを残して降板した場面では、にわかに暗雲が垂れこめた。ここで登場したのが伊藤だった。「マウンドへ向かう時、栗山監督からは、点を取られちゃいけないとは考えなくていいと言われましたが、あそこを任された以上、走者を還したくなかった。絶対還さないという気持ちで投げました」と向こうっ気の強さがあふれる。

 カウント1-2から真ん中低めに投じ、相手打者が見送った6球目の153キロのストレートは、日本中のファンがストライクで三振、と確信した1球だったが、球審の判定はボール。それでも気落ちすることなく、次の7球目の153キロで遊飛に仕留めチャンスを脱した。

 そして、伊藤の代名詞と言えば「追いロジン」。この日も、マウンド上で伊藤が立てたロジンの白煙が本塁方向へ漂い、相手打者が顔をしかめる一幕があったが、その後もロジンに手を伸ばした。2021年東京五輪の準決勝・韓国戦では、相手からクレームがついたほど。ルール上の問題はないが、ロジンを他の投手より多めに使うのは事実だ。「今日はいつもの倍、手汗が……無意識にロジンに手が伸びていました」と苦笑した。

 プロ入り後、専ら先発ローテの一角を務めてきた伊藤は、リリーフ登板には慣れていない。しかも、イニング途中のピンチの場面で登場となると、回の頭からと違い、さらにハードルが高い。この日の伊藤の仕事は打者1人を打ち取ることだけだったが、ダルビッシュ有投手(パドレス)にも、今永昇太投手(DeNA)にも任せられない役割を果たしたのだから、貢献度は大。精神力の強さが際立つ。準決勝以降でも、同様の役割を託される可能性がある。

「翔平らしさが出るのは実はああいう時」

 そして、大谷である。先発投手として1球1球、雄叫びを上げながら投げ込む姿には鬼気迫るものがあった。そして、両チーム無得点で迎えた3回無死一塁の打席では、まさかのバント安打で日本中をあっと驚かせた。相手守備陣は大谷に対し、一、二塁間を3人の内野手で固め、三遊間を三塁手1人で担うシフトを敷いていたが、その逆を突いた。慌てた相手の悪送球も誘い、無死一、三塁にチャンスが拡大。この回一挙4得点へつながっていった。

「理想はもう少し強めに(外野に達する打球で)、確実に一、二塁をつくれるバントだったけれど、結果的にそれ以上の一、三塁になったので、狙いとしてはよかったのではないかと思います」と振り返った。「あの場面では、引っ張ってゲッツーになることが最悪のシナリオなので、リスクを回避しながら、なおかつハイリターンを望めるチョイスをしたつもりです。結果的に一番いい形になって、ビッグイニングをつくれたのはよかったです」と理路整然と説明した。

 桁違いの飛距離の本塁打も魅力だが、相手の意表を突き、チームにとって最善の策を選択したセーフティバントも、大谷のクレバーな一面をファンに再認識させた。日本ハム監督時代にも5年間大谷を見守った栗山監督は「ずっと彼を見てきましたが、翔平らしさが出る時というのは、実はああいう時。この試合を絶対勝ちにいくんだと、野球小僧になり切った時に彼の素晴らしさが出てくる」と強くうなずいた。

 負けたら敗退の一発勝負では、こうして選手たちの新たな魅力が次々と見えてくる。今回の侍ジャパンの戦いは最多でもあと2試合。いまやそれでは物足りなく感じるほどだ。

(宮脇 広久 / Hirohisa Miyawaki)