台湾領空接近に無人機を飛ばす中国軍、直視すべき日本の戦力の「後進国」ぶり

中国軍のCH-4無人偵察攻撃機(写真:中国航天科技集団)
(北村 淳:軍事社会学者)
バイデン政権は台湾海峡問題において対中強硬姿勢を示しているが、その姿勢は本気なのか? という危惧が対中強硬派の米軍関係者たちの間で強まっている。
たとえば、台湾国防当局は、中国軍機がほぼ毎日のように台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入して台湾領空を脅かしている状況を詳細に公表している(本記事の最終ページの図を参照)。それにもかかわらず、米政府や国防当局、それに大手メディアはこのような緊張状態を米国内に向けて知らしめる努力をしていない。
たしかにバイデン政権は台湾に高額兵器類を大量に売りつけることには大いに関心を示している。しかしながら、中国による台湾威圧の実情を知らしめずして、単に兵器、それも強大な中国軍から台湾を防衛するのに効果的かどうかには疑問符がつくような兵器の売り込みを図っても、抑止効果を期待するには無理がある。
いくらアメリカ政府が台湾に対する“軍事的支援”を増強しても、中国軍機ならびに中国軍艦艇による台湾接近は増加し続けており常態化している。
そして、対中強硬派の人々が指摘しているように、ホワイトハウスもペンタゴンも大手メディアも、もはや日常となってしまった中国軍機による台湾ADIZ侵入や台湾海峡中間線越境といった軍事的威圧の現状を取り上げてはいない。
台湾威嚇作戦に投入されるようになってきた無人機
中国軍機による台湾上空への断続的接近は、中国軍機による日本上空への接近と同じく「グレーゾーン」と呼ばれる軍事的脅迫戦術の一環である。その目的は、台湾政府を威嚇し、台湾軍の装備を消耗させ、台湾軍の人員を疲弊させ、台湾国民の士気を低下させることにある。
軍用機や軍艦による接近戦術に加えて、サイバー戦や偽情報キャンペーン、台湾から外交的友好国を奪うための執拗な活動も、中国軍・中国政府は継続している。
中国側による航空機を繰り出しての台湾威嚇は、日常化していることに加えて昨今は無人機による接近が目立つようになっている。無人機といえども攻撃能力を有しているため、台湾側の防空戦力の緊張状態は続くことになる。
台湾航空戦力と台湾海上戦力は、中国側の威嚇接近に連続して対処し続けなければならないため、将兵も整備関係者も兵器類も消耗が激しくならざるを得ない。
台湾軍同様に自衛隊も中国軍機や中国軍艦艇の南西諸島への威嚇的接近に対処し続けているが、台湾空軍や台湾海軍の物質的精神的消耗の度合いは航空自衛隊や海上自衛隊以上であろう。なんといっても台湾の場合は、中国軍による奇襲攻撃・集中攻撃(短期激烈戦争)に引き続いての上陸侵攻が極めて現実味のあるシナリオだからだ。
今年(2023年)に入ってからだけでも、中国軍は
・BZK-005型UAV(無人偵察機:巡航速度180km/h、航続時間40時間、上昇高度8000m)
・CH-4型UCAV(偵察攻撃無人機:巡航速度330km/h、航続時間40時間、最大戦闘範囲2000km、対戦車ミサイル、誘導ロケット弾、50kg精密誘導爆弾、130kg滑空爆弾などを装填する)
・TB-001型UCAV(偵察攻撃無人機:最大航続距離6000km、航続時間35時間、上昇高度8000m、250kg爆弾4発、精密誘導爆弾、対地攻撃ミサイルなどを装填する)
といった無人航空機を台湾ADIZ内に送り込み、台湾上空に接近させ威嚇している。
とりわけUAV(無人航空機)は台湾海峡の中央線を行き来する威嚇作戦に用いられるようになっている。中国は世界最大の無人機開発・製造能力を擁している。したがって、今後無人機は、慣熟訓練も兼ねてますます台湾威嚇作戦に投入されるものと思われる。
中国が過去10年以上にわたって大規模なUAV増強計画を航空ショーなどで明示し続けてきたにもかかわらず、台湾空軍は無人航空戦力分野では後進軍隊にとどまっている。
そのため、中国軍による台湾攻撃に際しては、中国空軍は数百機の旧式戦闘機を改造した無人攻撃機を送り込んで台湾空軍機を誘い出し、疲弊させた頃合いを狙って新鋭戦闘機を繰り出して台湾空軍の290機(アメリカからの調達が完了すれば)の戦闘機を壊滅させることになろう。

中国軍のBZK-005無人偵察機(写真:洪都航空工業)
TB-001無人偵察攻撃機(写真:航空自衛隊)
日本の無人機戦力は最後進国レベル
ちなみに自衛隊の場合も、無人航空機戦力の分野では世界に後れを取っている。
中国軍やアメリカ軍の足元にも及ばない(というより比較することすらできない)のは言うまでもないが、フィリピン軍(小型無人偵察機を含めると1000機を上回る)や韓国軍(国産ステルス無人戦闘機を開発中)、その他のアジア諸国の軍隊などにも先んじられている。
このような「全く話にならない」状況は無人航空機に限らず、日本国内の無人艦艇や無人戦闘車などの開発・製造・調達状況も含めた無人機戦力分野では最後進国レベルに留まっている。
昨年末には、数年前に契約を交わしたグローバルホーク無人偵察機がようやくアメリカから自衛隊に届けられた。アメリカが日本に供与したバージョンのグローバルホークは、すでに時代遅れになったためとても中国軍などとは対峙できないとして、アメリカ軍では退役させている機種だ。
このように米軍で不用になった無人機を高額で購入するのならば、若干時間はかかるもののベンチャーを含めた国内メーカーに投資して国産無人兵器類を生み出す努力を開始しなければなるまい。現状を続けていれば、アメリカの軍事的属国というだけではなく、アメリカで不用になった兵器に気前よく大金を叩いてくれる「ゴミ処分場」と化すのは必至だ。
いずれにせよ、中国は台湾に対して(そして日本とりわけ南西諸島に対しても同様であるが)領空・領海への断続的接近作戦を執拗に継続して、台湾のADIZや接続水域に中国軍機や中国軍艦艇が姿を見せている状態を「日常の姿」と化している。
そして、アメリカが騒いでいるような軍事攻撃を実施しなくとも、いずれは台湾を事実上併合してしまう「戦わずして勝つ」すなわち「上策」の戦略を、「短期激烈戦争」というむき出しの軍事侵攻によって併合する「下策」の戦略とともに、着々と推し進めているのである。

台湾国防部が公表した中国軍機接近航跡図のうち無人機が加わっていた日を抽出したもの。機型表記の「BZK-005」は無人偵察機、「CH-4」「TB-001」は無人偵察攻撃機、「J-10」「J-11」「J-16」「SU-30」は戦闘機、「Y-8 ASW」は対潜哨戒機、「Y-8 RECCE」は偵察機(以下、同)
筆者:北村 淳