「心臓」にも悪影響を与える「睡眠の質」を下げるよくある4大NGを紹介します(写真:プラナ/PIXTA)

生活習慣病、血管、心臓など内科・循環器系のエキスパート「血管の名医」として知られ、日々多くの患者と接する医学博士の池谷敏郎氏。

テレビ番組『あさイチ』(NHK)、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)やラジオ番組などに多数出演し、楽しくわかりやすい解説が好評を博している。

過去15キロ以上の減量に成功し、その減量メソッドを全公開した15万部のベストセラー『50歳を過ぎても体脂肪率10%の名医が教える 内臓脂肪を落とす最強メソッド』に続き、『60歳を過ぎても血管年齢30歳の名医が教える 「100年心臓」のつくり方』を上梓した。同書は発売6日で3刷2万部を突破するなど、話題を呼んでいる。

「人生100年時代」を最期まで満喫できるかどうか健康長寿のカギを握る「『心臓の健康』にいい生活」を、運動、食事、生活習慣、メンタルなど、あらゆる観点からアドバイスする1冊だ。

その池谷氏が「"心臓"にも悪影響を与える『悪い睡眠』よくある4大NG」について解説する。

睡眠の質」が悪いと、心臓にも負担がかかる

私は長年、血管、血液、心臓などの循環器系のエキスパートとして数多くの患者さんたちと接してきました。そのなかには「夜中に何度も目が覚めてしまう」「眠りが浅い」などの症状を話す患者さんも少なくありません。


実は、「心臓の健康」に「睡眠」は大いに関係があります。

睡眠中には「副交感神経」が優位になり、血圧・心拍数は下がります。ところが眠りが浅かったり、睡眠不足が続いたりして「眠りの質」が低下すると、「交感神経」が優位な状態になってしまいます。

すると、「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」などのホルモンが分泌されます。これらのホルモンは心臓を収縮させて、血圧や心拍数を上昇させる働きをもちます。

つまり睡眠の質が低下することは、そのまま心臓の負担になってしまうのです。

では、睡眠の質はなぜ下がってしまうのでしょうか。

じつは、普段の生活のなかに、知らないうちに「睡眠の質」を下げてしまう原因が潜んでいるのです。

ここでは「心臓に悪影響を与える悪い睡眠『4大NG』」を紹介しましょう。

1つめは、「『深酒の寝落ち』は睡眠ではない」ということです。

「適量のお酒」はOKだが「過度のお酒」はNG

【1】「深酒の寝落ち」は睡眠ではない

お酒が好きな人から、「毎日の晩酌が楽しみ」「寝る前のお酒は欠かせない」という話を聞くことがあります。お酒は適量であれば、血流をよくして血圧を下げるので「動脈硬化を予防する作用」も期待できます。問題は「飲みすぎ」です。

飲酒後は心拍数が増えますが、アルコールの血管拡張作用により血圧が下がります。しかし、飲みすぎると、お酒を肝臓で代謝するときに発生する「アセトアルデヒド」が「交感神経」を緊張させて、心拍数とともに血圧を高めて心臓に負荷をかけてしまいます。


お酒を飲みすぎると、お酒を肝臓で代謝するときに発生する「アセトアルデヒド」が「交感神経」を緊張させて、心拍数とともに血圧を高めて心臓に負荷をかけてしまう。そのため、「深酒」は「睡眠の質」を下げてしまうことにつながる(イラスト『「100年心臓」のつくり方』より)

「お酒を飲まないと寝つけない」という人も多いと思いますが、お酒を飲んで寝るのは生理的な眠りではなく、いわゆる「寝落ち」。じつは、「気を失っている」のと同じことなのです。

「寝落ち」した後は、熟睡できなかったり、途中で目が覚めてしまったりと睡眠の質」を下げることにつながっていきます。

お酒の飲み方は「睡眠の質」に大きく関わっていくので要注意です。

【2】「寝る前のスマホ」は大きく睡眠の質を下げる

2つめは、「寝る前のスマホ」利用です。

今やスマホは、普段の生活でもなくてはならないほど、重要なアイテムになっています。

仕事で使うことはもちろん、仕事が終わって家に帰っても、ついついスマホを長時間見てしまうという人も多いと思います。さらに、枕元まで持っていって、寝る直前までスマホを見ている人も少なくないでしょう。

しかし、スマホの画面から発せられる「ブルーライト」は「睡眠の質」を下げてしまいます「ブルーライト」は「交感神経」を刺激するため、安眠を妨げてしまうからです。

スマホを見ることで、自分が楽しめてリラックスできるのならいいのですが、「睡眠の質」をよくするためには、寝る2〜3時間前からは、スマホを見ないようにすること。とくに、寝る直前は厳禁です。

3つめは、「『寝返りが打ちにくい』ことも『睡眠の質』につながる」ことです。

【3】「寝返りが打ちにくい」ことも「睡眠の質」につながる

関係なさそうに見えがちですが、「寝具」は「睡眠の質」と大いに関係があります。人は眠っている間に寝返りを打つなどして結構、動くものです。このときに「寝返りが打ちやすい寝具」であることが重要です。


睡眠の質」には寝返りがうちやすいことも大きく関係する。「寝具」が合わないと寝返りが打ちづらくなりやすく、その結果、寝ている途中で起きてしまったり、眠りが浅くなったりと「睡眠の質」に影響が出てきやすくなる(イラスト『「100年心臓」のつくり方』より)

寝具は、最近ではさまざまな機能のものがありますが、体が沈み込んでしまうようなものだったり、枕が合わなかったりすることも、寝返りが打ちづらくなってしまう原因のひとつになります。

寝返りが打ちづらくなると、「寝ている途中で起きてしまう」「眠りが浅い」など「睡眠の質」を下げてしまうことにつながります。

枕1つでも「睡眠の質」は変わりますので、一度、寝具を見直してみるといいかもしれません。

【4】「深部体温」の調節がしにくい「ナイトウェア」要注意

もうひとつ、「ナイトウェア」も睡眠の質に大きく関係します。

人は睡眠中に「深部体温」が下がります。この「深部体温」を上手に下げることも、「睡眠の質」と関係があります。「深部体温」を下げることで「脳内の温度」も下がり、脳を休めることができるからです。

「深部体温」を下げるためには、末端から上手に熱を逃がすことが大事です。また人は睡眠中に少なからず汗をかくものですが、これも体温の調節のためです。適度に気化熱で体温が逃げたほうが「深部体温」が下がるからです。

しかし、あたたかいほうがいいといって、モコモコに着込んでしまうと「深部体温」が下がり切らず、その結果、熟睡しづらくなって「睡眠の質」を下げてしまうことになってしまいます。

私は、汗をよく吸い取ってくれて通気性もよい「スポーツウェア」をおすすめしています。「たくさん汗をかかない程度の涼しい格好で寝る」ことが「睡眠の質」にとっては大切なことです。

睡眠の質」を上げて「100年心臓」を手に入れる

理想の睡眠時間は7〜8時間ほどですが、睡眠時間は少々短くても熟睡を心がける」ことが「睡眠の質」を上げるためにも大事なことです。

「心臓の休息タイム=就寝時」には、ムダに「交感神経のスイッチ」を入れないような工夫が必要ですが、決して難しいことではありません。普段の生活をちょっと見直すだけで「睡眠の質」はぐんと上がります

「夕方以降に飲むカフェイン入りのコーヒーやお茶」を控えることも、かなり有効です。

みなさんも「睡眠の質」を上げる工夫をして、「心臓にやさしい休息タイム」をつくり、人生100年時代を最期まで満喫できる「100年心臓」を、ぜひ手に入れてくださいね。

(池谷 敏郎 : 医学博士/池谷医院院長)