千鳥

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 昨年末の「M-1グランプリ」を制したのは、岡山出身の同級生コンビであるウエストランドだった。ウエストランドという彼らのコンビ名も、地元にある商業施設の名前に由来している。ウエストランドが優勝したことで岡山県という地域が改めて脚光を浴びている。

【写真】ウエストランド、空気階段、かが屋…こんなにいる岡山芸人たち

 最近のお笑いコンテストなどで活躍する若手芸人の中には、岡山出身の芸人がちらほらいる。「キングオブコント」チャンピオンのハナコの秋山寛貴、空気階段の水川かたまり、「M-1グランプリ」ファイナリストの見取り図のリリー、東京ホテイソンのたけるなどは、いずれも岡山出身である。

 しかし、普段の彼らが岡山芸人として注目される機会は少ない。その理由は、テレビ出演時などの人前ではほとんど岡山弁を使わないからだろう。そもそも関西人以外の人は、他地域の人と話すときにあまり積極的に方言を使おうとしない傾向がある。岡山の人もそれに当てはまるのだろう。

千鳥

 ウエストランドの井口浩之も、歯に衣着せぬ毒舌芸で知られているが、方言はほとんど使わず、ひたすら標準語でまくし立てているのが印象的だ。

岡山に光を当てた千鳥

 そんな岡山弁をあえて自分たちの武器にしたのが、千鳥の2人である。彼らの岡山弁を人々が耳にする機会が増えたことで、世間にもそれが徐々に浸透していった。

 千鳥はもともとそこまで強く方言を押し出したコンビではなかった。大悟の方は以前から方言が強めの話し方をしていたが、ノブがそれを強調するようになったのはデビューから数年経ってからのことだ。

 ノブはいつからか「〜〜じゃ」「〜〜せぃ」「〜〜すなぁ」のように、わざと誇張したような岡山弁のツッコミを多用するようになり、今ではそれが1つのスタイルとして定着した。

 大阪での芸人活動が長かった千鳥の2人が使う言葉は、岡山弁と関西弁と標準語が微妙に混ざり合ったものになっている。だからこそ多くの人に聞き取りやすいのかもしれない。

 お笑い界は今も東京と大阪を中心に回っている。そこで使われる公用語も99%が標準語と関西弁である。そんな中で、千鳥の躍進によって岡山に光が当たり始めた。

大阪との距離感も影響?

 岡山は関西地方に近いが、関西の文化とは微妙に距離を置いているところがある。気候も温暖で暮らしやすいと言われていて、どこかのんびりした雰囲気もある。笑いの聖地である大阪に対して、地理的に遠くはないが程よい距離を保っているところが、芸人が育つ土壌としてはちょうどいいのかもしれない。

 かが屋の加賀翔による半自伝的小説『おおあんごう』(講談社)では、作中で登場人物が発する岡山弁の台詞の数々が印象に残る。タイトルの「おおあんごう」というのも、彼の父親が実際によく使っていたという岡山弁の言葉である。

 かが屋はコントを専門にしている。普段はそこまで方言を売りにしているわけではないが、ネタの中には加賀が岡山弁を使うものもある。方言を用いることで、独特の温かみや泥臭さがかもし出される効果がある。

 その言葉は乱暴なようで温かみがある。そんなどっちつかずの特徴を持つ岡山で生まれ育った芸人たちは、それぞれが一筋縄ではいかない魅力を持っているのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部