前田吟さんが語る“熟年再婚”秘話 歌手・箱崎幸子さんとの初デート、架空の話で考えた口説き文句

「まるでストーカーですよね(笑)」
「それはもう突然、天から降ってきたというか、風に吹かれて飛んできたというか。だからこのチャンスを逃しちゃいけないと……」
【写真を見る】仲睦まじい様子で取材に応じた“新婚”カップル。前田吟さんの再婚相手・幸子さんは笑顔が印象的
俳優の前田吟さん(79)は、昨年6月に再婚した、歌手の箱崎幸子さん(74)との出会いについてそう振り返る。
昨年1月の成人の日、久しぶりに呑みに出かけた東京・荻窪の商店街で、すれ違った幸子さんに一目惚れをした前田さん。そのまま後をついて行き、彼女が入ったスナックに足を踏み入れたという。
「まるでストーカーですよね(笑)。79歳にもなって恥ずかしいけれど一目惚れでした。それで、こっそりスナックのドアを開けたものの、お店のママから“ごめんなさい、いま満席で……”と言われてね。ただ、僕が“あ、どうもすみません”と応じたら、マスクをしていたのに声だけで“前田吟”だと分かったみたい。よくよく聞くと、お店のマスターが俳優さんで、以前に何度も共演したことがあった。そんなご縁で満席のお店に入れてくれたんです」

ふたりの関係を結ぶ“ご縁”はそれだけに留まらなかった。
「彼女はお店で歌を唄っていて、その後、少しだけ言葉を交わしました。彼女は“前田さんの奥さまのご出身は福島のいわきですよね。実は、私もいわきなんです”と。僕は“そうなんですか。だけど、残念ながら妻は他界しちゃったんだよ”なんて話をしてね」
「お母さん、からかわれてるんだよ」
前田さんは一昨年、約50年連れ添った妻を病で亡くした。闘病生活は15年ほどに及び、その間は前田さんが家事をこなし、3食すべてを作っていた。そして、「全部捨てないと新しい人生は始まらない」と思い、亡き妻の記憶のある家財道具などを全て処分。子ども4人はすでに独立しているため、結婚の早かった前田さんにとって、高校生以来の独身生活を送っていた。そんな時に出会ったのが幸子さんだった。
「彼女は帰り際に『惜別』というCDをくれました。その曲を自宅で聞いているうちに、恋心が募ってきて……。知り合いに電話番号を教えてもらって電話をかけ、“結婚を前提にお付き合いをしたい”と告白しました」
一方の幸子さんにとって、前田さんからの猛アタックは驚天動地の出来事だった。「もうビックリですよ。最初は半信半疑で、子どもに相談しても“絶対おかしいよ。お母さん、からかわれてるんだよ”と言われましたね」
実は、幸子さんも伴侶を若いときに亡くしている。夫は「熱海の夜」のヒット曲で知られる歌手の箱崎晋一郎さん。その志を継いで彼女も歌手となり、地元の福島県いわき市で歌の店を経営しながら3人の子供を育てあげた。
「私の人生は、こんなふうに田舎にいて終わるのだと思っていました。まだまだやりたいことや、やり残した夢がたくさんあるけれど、何もできないんだろうなって」(幸子さん)
ところが、前田さんの登場で人生は思いがけないことに。
初めてのデートは「山手線一周」
二人の初デートは昨年3月。渋谷のハチ公前で待ち合わせ、山手線を一周しながら話をするというものだった。
そこで前田さんは、「レコード会社からデュエットの話が来ている」という“ありもしない話”で口説いた。
「彼女を月に何度か呼び出すために考えたんです。デュエット曲を出すとなったら、一緒にレッスンしたり、音合わせする必要があるでしょう。実際には、そんな話はないんだけどさ(笑)。とにかく少しの時間だけでも彼女と一緒に過ごしたかった」
さらに、具体的にどこで一緒に住もうかという話も。すべては猛スピードで進行し、初デートから3ヵ月後に入籍を果たした。幸子さんが語る。
「彼からのアプローチは、私にすれば夢と希望でしたね。最初は戸惑いましたけど、話をするうちに真面目な人間性が見えてきて、いい人なんだなと感じるように。正直なところ、私は夜にお店をやっているので、彼の出演するドラマはほとんど観ていませんでした。だからこそ、最初からひとりの男性として見ていましたし、純粋に惹かれていった感じです」
入籍にこだわったのは、芸能人としておかしな噂を立てられたくなかったため。そして、お互いの子供たちのために、きちんとケジメをつけて付き合いたかったからだ。
口説き文句の「デュエット曲」が現実に
前田さんが続ける。
「僕が惹かれたのは、夫を病気で亡くし、東日本大震災を経験しながらも、子どもたちを育てあげた彼女の強さです。僕は役柄でもわりと強い女の人との夫婦役が多くて、『男はつらいよ』で倍賞千恵子さん演じる“さくら”は、優しそうな印象だけど芯の強い女性。『渡る世間は鬼ばかり』で共演した長山藍子さんや泉ピン子さんもそうですよね。しかも、ドラマだけでなく、現実でも強い女性に惹かれてしまう。色々な経験を積んだ、歴史のある女性ですね。さらっと綺麗な人生を送った人には燃えないんですよ」と前田さんは笑う。
幸子さんは前田さんの誠実さに惹かれた。
「純粋にひとりの男性として素敵だと思いました。とにかく嘘がない、有言実行型の人。デート中に体調を崩した私を介抱しれくれたことがあって、その優しさにも打たれました。そういうことを子どもにも話して、“お母さんね、ちょっと飛び込んでみようと思ってる”と伝えたんです」
入籍後、軽井沢の別荘で一夏を過ごし、昨秋から前田さんの家で暮らし始めた。家事を苦にしない前田さんは、幸子さんと一緒に料理もつくる。幸子さんに主治医を紹介したり、沖縄に旅行に出かけたりして、新しい人生を楽しんでいる。
「長く付き合っていないぶん、新婚生活はとても新鮮ですよ。限りある人生だけれど、二人ならば勇気を持っていろいろなことに挑戦できる」と前田さん。
今計画しているのは、芸能生活60周年を記念して、前田さんの出身地である山口県防府市を訪れ、老人ホームの慰問でデュエットすること。嘘から出たまことで、3月22日には二人のデュエット曲「凪の風景」が発売になる。夫婦の二重唱は始まったばかりだ。
デイリー新潮編集部