2度目は生還とならなかった

写真拡大

 メガネがトレードマークの芸人の命を奪ったのは、あまりに恐ろしすぎる病だった。急逝した笑福亭笑瓶さん(享年66)を襲ったのは一体どんな病気なのか。専門医と経験者が語る。

 ***

【写真を見る】笑瓶さんへの思いを語った笑福亭鶴瓶、山田邦子

 訃報が伝えられたのは2月22日のことだった。死因は急性大動脈解離。2015年12月にも笑瓶さんはゴルフ場で同じ病気を発症し、その時はドクターヘリで運ばれるも、手術はせず生還していた。つまり、今回は2度目ということになる。

「笑瓶さんはその後、たばこをやめて仕事をセーブするなど、生活習慣を改善していったそうですが……。あまりに突然のことで関係者は絶句しています」(芸能記者)

 実はこの急性大動脈解離、あまりに厄介な病気なのだ。

2度目は生還とならなかった

 そもそも、大動脈とは体の中心にある最も太い血管のことで、内側から内膜、中膜、外膜の3層構造になっている。何らかの原因で内膜に傷がついたり、穴が開いて血液が中膜に流れ込むと、血管の層が縦方向に一気に裂け、激しい痛みに襲われる。それが大動脈解離だ。裂けてしまう原因として一番多いのは動脈硬化とされている。

 特に恐ろしいのは高い致死率、そして、何の前触れもなく突然発症すること。

仕事のストレスをためやすい50代は要注意

 昭和大学横浜市北部病院循環器センター長で心臓外科医の南淵明宏氏が解説する。

「発症すると24時間以内に3割、1週間も放置すると8割以上が死亡するといわれています。さらに突然発症するため、発症前の患者さんの状況がはっきり分からず、どのような人が発症しやすいか、あまり把握できていないのです。ただ、高血圧で大動脈が拡大している人は要注意。大動脈は最も太い箇所でも30ミリなので、これが40ミリ、50ミリになっているとかなり危険です」

 ほかに気を付けるべき因子として、

「遺伝性を否定できないので、親類でかかった人がいたり、また管理職として仕事上のストレスをためやすい50代は注意した方がいいでしょう」(同)

「亡くなる直前まで元気いっぱい」

 発症した場合、その箇所がまた問題だと、さる心臓外科医。

「脳に向かう上行大動脈が裂けた場合、何をおいても手術です。上行大動脈全体を人工血管に交換する手術を行います。他の臓器に向かう下行大動脈だけが裂けた場合は、降圧剤で血圧を下げ、裂けた部分が塞がるまで経過観察するか、良くならなければ同様の手術となります」

 本誌(「週刊新潮」)に度々コメントを寄せてきた芸能評論家の肥留間正明氏(享年73)も笑瓶さんと同じ病気で2月18日に命を絶たれた。

 肥留間氏の長女が語る。

「その日は、軽井沢のイベントに参加するため、自らハンドルを握って車で出かけました。途中、群馬県富岡市内のコンビニに立ち寄って、ATMで現金を引き出す際にバタッと倒れてしまったんです。サワーのストロング缶を毎日2、3本空けるほどで、亡くなる直前まで元気いっぱいでした」

体中に引き裂かれるような痛みが

 もちろん、九死に一生を得た人もいる。

「その時は体中に“バリバリバリ”と引き裂かれるような痛みを感じて、生まれて初めて“ギャー!”と叫びました」

 とは8年前に大動脈解離に襲われた司会者の大木凡人氏(77)。

「その時私は自宅のトイレにいたのですが、壁を伝って何とかリビングまで行き、携帯電話で救急車を呼びました。運ばれる時の血圧は183。普段は高くても120くらいで、悶絶死するかと思ったほどの痛さでした」

 それから2、3日は記憶がなく、手術を行い、1カ月の入院を余儀なくされた。

 現在は3カ月おきに通院して、CTスキャン、血圧などの定期検査を受けている。

「いまはすこぶる元気で、飲みに行くと3軒から4軒ははしごします。お酒はなんでも大好きなのですが、水を無理にでも飲むように心がけています。ただ、つい先日、医師から“裂けた患部が少し広がってきている。手術するかもしれません”と言われ、大変ショックを受けました。さらに笑瓶さんの件もあって怖くなり、健診に行くのをやめようかと思うほどで……」

 先の南淵氏は言う。

「大動脈解離は得体のしれない病気で私もいつ発症するか分かりません。ですから、普段からの自己管理が大切です。また、大動脈が拡大していないか見るために5年に1度程度CT検査を行えば、早期発見につながります」

「週刊新潮」2023年3月9日号 掲載