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不動産投資は、収益を上げられる可能性がある一方で、思わぬトラブルが発生するリスクもあります。建築工事中に業者から「追加工事代金」を請求されるトラブルもその一つです。本記事では、みずからも不動産投資家であり、不動産取引に関する法律実務に精通した弁護士・山村暢彦氏が、著書「失敗しない不動産投資の法律知識」(中央経済社)より、「追加工事代金トラブル」の原因と予防法、発生した場合の解決方法を解説します。

建築工事の「追加工事代金トラブル」は未然に防げるか?

◆アパートの建築は設計会社・建築会社に頼めばよいだけではない

皆さんは、建築工事を「無事に」完了させるだけでも、かなりの難易度になることをご存知でしょうか? 「設計会社・建築会社に頼めばいいだけなんじゃないの?」というのは、もっともな疑問です。

相続などで承継した土地に、サブリースを含めてマンション建築するようなことが非常に流行っていますが、実際に自ら土地を仕入れてアパートを建てるための設計や建築を行うのは設計会社であり、建築会社ですから、不動産投資家自身で設計や建築の知識が必要なわけではありません。

しかし、土地仕入れ建築スキームの場合、本来の不動産投資で発生していた「不動産取引」「賃貸経営」上のリスクに加え、「建物建築のリスク」が加わってきます。

前置きが長くなりましたが、実例をもとにトラブルと解決事例をご紹介します。

◆そもそも建築工事は、最高難易度の契約類型!?

建築請負工事トラブルの「あるある」なのですが、追加工事代金に関するトラブルは非常に多いです。当初5,000万円の設計建築一式工事で契約していたにもかかわらず、追加工事等が発生して、最終金額が6,000万円になってしまったというケースです。

施主の不動産投資家からすれば、「聞いてない! 後出しで値段を上げるな!」という言い分になり、施工会社の建築会社からすれば、「当初の見積にない工事が増加した! 部材もグレードの高いものに変更したじゃないか!」という言い分になることが多々あります。本当にこの追加工事代金トラブルは、よく発生します。

なぜこのようなトラブルが多くなるか。一言でいうと、その原因は建築請負契約(リフォーム契約)の性質、特殊性にあります。

近年、悪質リフォーム会社などが問題になり、建築会社側の法務体制の杜撰(ずさん)さだけがクローズアップされがちですが(それもなくはないのですが)、私はそれだけではないと思っています。

施主も施工会社もどちらも建築請負契約の難しさを理解して進めなければ、お互い非常に痛い目をみることになります。

建築請負契約は、契約金額が高額であることもあり、細かい仕様等を決め切らずに、「総額○千万円」のような定め方をすることが多いです。

もちろん、見積書、仕様書には、大まかな部材と工事概要から、総額○千万円と見積はするのですが、工事を進めていく中で、追加工事や仕様変更等をしていくことも非常に多いのです。

特に、地盤、建築規制、土中埋蔵物等々、工事を開始してみないとわからないこともあります。仕様についても、実際に工事してみると配置等の関係で部材を変えないといけなかったりすることもあります。

この辺りは、実際に建築請負工事の実務をみていると、契約時にすべて決め切ることの困難さは嫌というほどわかってきます。

契約における法律と実務のジレンマ

他方、法律、契約の基本からすると、「契約締結時点で、工事内容・工事代金を決めておきなさい」というのが基本的な考え方です。

トラブルが生じた場合には契約時点の取り決めをもとに解決していかねばなりません。ただ、実務上は、契約時点では、すべてを決め切ることはできず、ほとんどの工事で工事内容の追加変更をしていかねばなりません。

そうすると、実際上は、工事しながら工事内容を変更することでより詳細が決まっていくという実務と、契約時点で取り決めをしっかり行っておきなさいという法律(法的に整理すると、本来は、契約時の建築請負工事契約だけではなく、追加変更の必要が生じたその都度、契約内容の変更契約がなされたと整理できます)との間でギャップが生じてしまいます。そのため、追加工事とその代金で、揉め事が非常に多くなるのです。

要は、変更したら、変更内容とそれに対する工事代金をお互いしっかりと取り決めなければならないのです。ただ、これができておらず揉めるケースが非常に多いわけです。

工事会社:「当初と設計を変えなきゃいけないので、工事内容を〇〇〇に変更してやっておきますね」

不動産投資家:「了解しました! よろしくお願いします!」

こんなやり取りだけで、工事内容を変更してしまいがちです。

そして、工事完成、建物引渡しの段階になって、以下のようなやりとりが交わされることになってしまうことになるのです。

工事会社:「工事内容に変更があったので、追加で200万円かかりました。こちらもお願いしますね!」

不動産投資家:「えっ、聞いてないんだけど」

工事会社:「えっ、言いましたよ。作業員の人件費などでこっちもお金かかってるので、絶対払ってください」

不動産投資家:「いや、聞いてない。当初の融資計画にもないし、払いたくても払えないよ……」

建築工事トラブルは、本当にこの手のトラブルが非常に多いです。

私の専門分野とは少し離れるのですが、IT系のシステム作成やプログラム作成契約についても同様の難しさがあるようです。

「○○プログラム」や「△△システム」作成契約などと一式の金額で契約するものの、契約後に発注者からの仕様や機能の変更が多岐にわたり、再三、費用や変更内容等を協議しなければならない内容になっています。

システム開発に携わっている方はよくおわかりかと思いますが、プログラム制作契約も建築請負契約もどちらも最高難易度レベルの契約類型だと思います。

したがって、双方が「動いていく、生きている」契約内容だ、契約した時点で終わりじゃないんだと認識しておかないと、いろいろと齟齬が生じ得る契約類型だと言えます。

「追加代金トラブル」の解決方法と対策法

では、現実的にどのように対策すればよいのか? 実際にトラブルになった際の解決方法からみていきましょう。

実際にあった事案というのは、追加工事代金等でトラブルが生じてしまい、私のほうで介入し、契約書関係、工事内容を精査し、追加変更等に関する双方のやり取りに関する物的資料を検証し、仮に裁判になったとしたら、どういう見通しになるかを現状残っている資料から一つ一つ検証していったというものです。

結果、不動産投資家も、建築会社側も、残っている資料を基にした、私の提案した和解内容を軸に精算することに納得していただき、その件は何とか解決することができたのですが、この追加工事代金トラブルは訴訟になるケースも多く、いまでも類似の案件を抱えています。

結局、対策方法として以下の2つが非常に大切です。

(1)建築工事契約は、非常に難易度が高いものだと、双方が理解する

(2)そのうえで、追加変更内容を、しっかりと文面で残していく

一番良いのは、追加変更内容ごとに議事録を作成し、個々の変更内容ごとに工事内容の変更合意書を作成することです。建築業界でも、追加工事内容を書面化することが常に意識されてきています。

たとえば、複写式のA4の用紙を準備しておき、必ず担当者が変更工事内容とそれに対する見積額の変更等を書面に記載し、施主の署名捺印をもらい、その後、各自一枚ずつその書面を保有するというような段取りです。

ただ、実際にここまで毎回、書面に変更内容を反映するのは、建築会社側の協力がなければ、作業量的にも難しかったりします。そのため、最低でも、メールやLINE等でも良いので、「電話ではなく、文面に残す」という変更内容の証拠化作業が非常に重要です。

特に、土地仕入れ新築スキームで依頼する工務店等は、建築費を抑えるために紹介などで知った中小の工事会社に依頼することが多く、契約書関係や契約の実務に工事会社側が精通していないケースが多いです。

そのため、施主である投資家の側で、工事内容を残す、証拠化するという意識を持たないといけません。

山村 暢彦

弁護士法人 山村法律事務所

代表弁護士