子どもを怒鳴ってしまう親たち。いったいどうすれば抜け出せるでしょうか?(写真:プラナ/PIXTA)

【質問】

マイペースな小2娘の朝の準備が遅いことにイライラして「早くして!」と怒鳴ってしまいます。

怒らないためには、親が心を満たすことが必要ということで何かで満たしてみたり、アンガーマネジメントをやってみたりしても、心がなかなか安定しません。マイナス方向のことを言わないようにしようと思うのですが、いざその場面になると感情に任せて怒鳴ってしまいます。そして怒鳴った後は子どもに謝っています。怒鳴らないようにするには何ができるでしょうか?

(仮名:安西さん)

子どもは言葉の内容より“親の感情”を受け取る

「早くして!」「遅れるよ!」という言葉が連呼される朝の風景。お子さんがいる家庭では珍しくないことだと思います。朝のみならず、「片付けて!」「宿題は!」と親が早くやってほしいことをあれこれ伝え、「親の思いどおりにやらない」と、そのたびにイライラしたりします。

やがてイライラはガミガミに変わり、さらに怒りの感情レベルが上がると怒鳴るという状態にまで発展したりします。この段階では、もはや感情のコントロールは困難です。

しかし、「声かけ」で子どもが変わることはまずありません。なぜなら、言葉には感情が乗っているからです。

とくに子どもは、親が言っている言葉の内容よりも“親の感情”を受け取っています。ですからイライラしながら発している言葉、ましてや怒鳴る言葉は、感情をただぶつけているだけで、内容はまったく伝わっていません。

ご質問された状況を変えていくためには、仕組みを作って回す方法があります。一定期間行うと習慣化されるため、イライラの種は徐々になくなっていきます。

仕組みは無数にあります。例えば、子どもはゲームであれば簡単に自主性を発揮して喜んでやりますね。これを活用して、たとえば「○分でできたらポイントゲット」など、ゲーム的要素を日常に取り入れた仕組みを考えてみるのです。

最も簡単な仕組みとしては、お子さんがマイペースで朝の支度に時間がかかるのであれば、早く起きればよく、そのためには早く寝るというサイクルを作ってゆとりを持たせる仕組みを作ります。もちろん、生活パターンが各家庭によって異なるので、どのような仕組みにするかは実情に合わせて検討する必要があります。

しかし、仕組みを作っても、効果が出るまでに一定の期間がかかります。それまでの間に親のイライラが出てきて、また声かけ(怒鳴り)に変わることもあるので簡単ではありません。

「叱る・怒る」の問題点は「続ける」こと

声かけにしても、仕組みにしても、感情のコントロールが重要です。安西さんが自らの感情のコントロールを図ろうとさまざま努力されてきたことはすばらしいと思います。しかし、それはもうやめたほうがいいと思います。

もちろん、感情のコントロールができる人はそのまま行えばいいのですが、これまでいろいろ試してみて難しい結果だったということは、「そもそも怒鳴るという感情をコントロールしようとすること自体が適切ではない」ともいえます。

以上から、安西さんのご質問への回答は「怒鳴ってもいいし、怒鳴った後は謝らなくていい」となります。

意外な回答に驚かれるかもしれません。

もちろん怒鳴ることを肯定しているわけではありません。実際、筆者はこれまで「子どもを叱り続ける人は知らない3つの原則」を記事や書籍でも書いてきました(参考記事)。

筆者は「叱る・怒る」が問題なのではなく、「叱り続ける、怒り続ける」ことが問題になると考えています。つまり、同じ状態が続いているのに、まだ同じ手段を使い続けてしまうことが問題だということです。さらに問題となるのは、怒った後に親が自己嫌悪に陥ることです。怒ること以上に自己嫌悪のほうがはるかに不健全であると考えています。

「では、やはり怒鳴ることはやめなければならないのではないか?」と思うかもしれませんが、ここで次のことを考えてみてください。

「怒鳴ることはやめたほうがいいです」と言われたら、一般的に「怒鳴ることを我慢する」方向に進むのではないでしょうか。それが感情のコントロールであると。

怒鳴ることを我慢している間は、心は怒鳴ることを意識しています。その結果、一時的に怒鳴らなくなっても、その怒りのエネルギーは蓄積し、やがて別の場面で大きな“噴火”を起こす可能性は否定できません。

つまり長期的にみれば、我慢することで、怒鳴るエネルギー量が減るどころか増えているかもしれないのです。ですから筆者は「怒鳴ることをやめたほうがいい」とは言わないようにしています。

子どもとできる「怒鳴ること」への対策

では、ここからが具体的な対策のお話になります。

怒鳴ることをやめずに、怒鳴ることを減らすにはどうすればいいでしょうか?

それは「子どもと共通の話題を持つ」「子どもと“雑談”の時間を積極的に取る」ことをお勧めしてします。

人は一度に2つの相対する感情を心の中に同居させられません。例えば、ワクワクしながらイライラすることは通常できません。つまりマイナスの感情を減らしたいのであれば、プラス感情が湧き出る時間を多くすれば、結果としてマイナスは減っていきます。

また、怒鳴ることを意識しているうちは、心がそれに支配され、怒鳴り続ける結果になります。

ですから、怒鳴ることをやめようとするのではなく、別のことに意識を向かわせるように行動を起こしてみてください。

いくつか事例をご紹介します。

(1)「最近、猫を飼い始めたのですが、それによって親子喧嘩が、大げさな話ではなく驚くことに10分の1に減りました」

→「え?それで変わるの?」と思うかもしれませんが、意外とシンプルに人間の感情は変わっていくものです。もちろん、猫である必要はありません。親子で共通の話題になることや媒介してくれる存在があるだけで変わっていくものです。

(2)「家だと親子という閉じた人間関係になるので、ママ友とそのお子さんと一緒に遊ぶなど、とにかく自分自身が癒やされる時間、楽しい時間を作ることが大事だと痛感しています」

→子育て中はなかなか自分の心を上げていく時間を確保することが難しいこともあります。しかし「忙中閑あり」という言葉もあり、短い時間でも見つけることや、子育てそのものを観察対象としてアウトプットしていく方法もあります。観察しているときは感情が後退するためイライラが減少していきます。

親子関係にこそ雑談をたくさん取り入れたい

(3)「雑談や諭すことを心がけていたら、怒りの感情が出てこなくなりました。怒るのを我慢することとも違う何か不思議な感覚で、注意や指導する事はあってもイラつかないようになりました」

→筆者は雑談の効果についてこれまでさまざま発信してきました。上下関係がないテーマである雑談をすることで両者に信頼関係が生まれることが知られていますし、そのような報告を実際多数受けています。

人間関係全般にわたり、雑談の効用は大きいといわれていますが、親子関係にこそ雑談をたくさん入れてみてください。さらにその結果として、子どもが自主的に勉強するようになった事例は枚挙にいとまがありません。

以上まとめると、「怒鳴ることをやめるのではなく、怒鳴ってしまってもいい。それはそれで終わらせ、別のことに意識を使っていきましょう」ということです。

すると、いつの間にか怒鳴っていない自分に気づくことができると思います。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)