WBC中国代表・真砂勇介【写真:荒川祐史】

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元ソフトバンク真砂、戦力外から3か月後に中国代表としてWBC出場

 わずか半年前までチームメートだった選手たちと久々に再会し、思わず笑みがこぼれた。9日に「カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC 東京プール」で野球日本代表「侍ジャパン」と戦う中国代表。主軸を打つのは社会人野球・日立製作所に所属する真砂勇介外野手だ。昨年10月にソフトバンクから戦力外通告を受けた。この日、元同僚の甲斐拓也捕手とすれ違い「野球を通じてまたみんなと会えるのはいいですね」としみじみと話した。

 両親が中国出身だった。自身は中国語を全く話せなかったが必死に勉強した。「簡単な言葉は覚えました」。英語も駆使してチームメートとコミュニケーションを図る。

 2012年にドラフト4位でソフトバンクに入団。パンチ力のある打撃が魅力で、右の柳田悠岐外野手、略して「ミギータ」の愛称でファンに親しまれた。2021年には自己最多の79試合に出場。打率.254の成績を残したが、常勝軍団でレギュラーを掴むことができず。2022年オフに戦力外通告を受けた。

 ソフトバンクからはスタッフとして球団に残る打診もあった。だが、現役続行にこだわった。12球団合同トライアウトを受けたが、NPB球団から声はかからず。12月に社会人野球・日立製作所へ。家族で茨城に引っ越した。

 それから約1か月後、社会人野球の選手としてチームに溶け込もうとしていた矢先だった。古巣・ソフトバンクのスタッフから1本の電話がかかってきた。中国代表として戦わないかという連絡だった。

「『え、まじか。嘘やん。こんなこともあるんや』って感じでした」。日系アメリカ人であるラーズ・ヌートバー外野手(カージナルス)が侍ジャパンに選出されたのはニュースで見ていたが、まさか自分に出場資格があるとは思っていなかった。真っ先に両親に電話で報告。両親も「凄いな」と驚いていた。

出場を決断すると初戦の相手は侍ジャパン「凄い縁だな」

 ただ、一方で、すぐに快諾したわけではなかった。まだ、日立製作所に加入して1か月。4月に大会は始まるが、WBCに出場すれば、2月のキャンプも参加できなくなる。プロ野球選手と違って社員契約。自分1人では決められなかった。ただ「(出られなかったら)後悔するやろうな」。そう意を決して和久井勇人監督に相談した。

「こんな機会ってないと思うので。けど、会社もあるし、複雑だったんですけど……」。そうっと監督に相談した。心の声は届いていたのか「行っておいでと。俺も行かしてあげたい」と快諾してくれた。

 会社側からも許可が下り出場を決断。奇しくも初戦の相手は侍ジャパンだった。「戦力外になってそのままホークス残っていたら出れてなかった。引退して野球やめてってなっても出れてなかったし……。凄い縁だなと思いますし、感謝していますね」。先発登板する大谷翔平投手(エンゼルス)と初対戦。「世界の大谷選手なんで、そこに立てるというのは幸せなこと」と喜ぶ。

 戦力外から3か月後に国を背負って戦う。急転直下から再び上昇を狙う「人生ジェットコースター」。野球を続けたからこそ、巡ってきたチャンス。「やるからには、勝ちを目指したい」。真砂の野球人生が、再加速する。(川村虎大 / Kodai Kawamura)