PGAツアーのジェイ・モナハン会長

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 男子ゴルフのPGAツアーと新興のリブゴルフの対立は、ゴルフ界に混迷をもたらし続けている。そうした中、両者が“新制度”の導入を発表した。ゴルフファンが困惑するのも当然の複雑すぎるその内容をできるだけ分かりやすく解説する。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

【写真】PGAツアーに背を向け、新たにリブゴルフへ移籍した注目の4選手

「よくわからない」フェデックスカップの仕組み

 やや昔にさかのぼるが、2007年からPGAツアーは「フェデックスカップ」なる制度を導入した。年間を通じて積算する独自のトランキングで、シーズンエンドには上位者だけが出場できるプレーオフ・シリーズを創設。さらに、年間王者には最終戦のツアー選手権終了時にビッグボーナスが与えられる。

PGAツアーのジェイ・モナハン会長

 以後、フェデックスカップは、再三にわたる「改革」と「改良」を繰り返しながら現在も続けられている。だが、あまりにもシステムが複雑な上、毎年のように変更が加えられることもあって、米国のゴルフメディアでさえ詳細を正確に理解している人は少ないというのが現実だ。

 それほど複雑となれば、世界各国のメディアはフェデックスカップを詳細に報道することを避けるようになる。そして「面倒くさい」と感じたゴルフファンは、フェデックスカップは「よくわからない」「どうでもいいや」という具合に興味を失ってしまう。

 対立が激化するPGAツアーとリブゴルフは、お互いが「対抗策」として新たな制度を創設しては実施している。しかし、両者とも相手の間隙を突くことが目的のせいか、どんどん制度を複雑化させている。このまま進んでいくと、フェデックスカップがそうであったように、ゴルフファンの興味関心はすっかり薄れてしまうのではないかと心配になる。

リブゴルフ出場の道は開けた

 サウジアラビアの政府系ファンドの支援を受けて昨年6月に創設されたリブゴルフは、2年目のシーズン初戦を2月24日から3日間、メキシコのマヤコバで開催した。その直後、リブゴルフは2024年の新たな出場資格等々を発表。しかし、複雑きわまりないその内容のすべてを正確に把握するのはなかなか大変である。

 もちろん、グレッグ・ノーマンCEOが率いるリブゴルフ側も、意図的に複雑なシステムを作ろうとしたわけではないだろう。しかし、複数年契約を結んでいる選手を筆頭とする特定の選手の既得権益を守りながら何かを変えようとしているため、まるで増改築を繰り返す建物のような複雑な構造になってしまった。

 ざっくり説明すると、リブゴルフには48名が出場できるのだが、今季1位から24位のトップ24名は「シード選手」となって来季も出場できる。そして、25位から44位の20名はチーム間のトレードや下部ツアーに当たるアジアツアー行きの対象となり、45位から48位の下位4名は「シード落ち」ならぬ「アジアツアー落ち」となる。だが、たとえ下位4名になっても、12チームいずれかのキャプテンから「ウチに来ないか?」と声を掛けてもらえれば、来季はそのチームでプレーすることが可能になる。

 敗者復活の道はもう1つある。新設される「予選会」で勝ち残る道だ。予選会は4日間72ホールで行われる予定で、参加の基本条件は世界ランキング200位以内とされている。

 だが、まるでマスターズや全米オープンなどのメジャーの本戦出場資格のごとく、「全米アマや全英アマ、アジア・パシフィック・アマチュアなどの優勝者は、リブゴルフの予選会に参加できる」という規定には仰天させられた。

 さらに、すでにリブゴルフの実質的傘下にあるアジアツアーには年間10試合のインターナショナル・シリーズが設けられており、そのシリーズで1位の選手は、翌年、リブゴルフへの出場が可能になる。そして、2位から5位は予選会2日目から、6位から32位は予選会初日からの参加が可能となるのだが、ここまで聞いただけでもその複雑さに少々うんざりさせられる。

 ただ、外部からリブゴルフへ入る登竜門が設けられたことは大いなる進歩であり、日本人選手にも道が開けたと言うことはできる。一方で、その道をどんどん進んでいくことは、現状ではPGAツアーに背を向けることを意味しており、「二兎は追えない」という点だけは注意が必要だ。

「人気選手を出場させるためでは」との批判

 さて、PGAツアーが今季から開始している新施策は、さらに複雑きわまりない。従来のレギュラー大会を賞金総額2000万ドル級の「格上げ大会」にグレードアップするなどして、メジャー4大会を含めた年間20試合への出場を「トッププレーヤー」に義務付けるという大改革を敢行中だ。

 しかし、この時点ですでに「わかりにくい」と感じるのではないだろうか。どの試合が格上げされ、どの試合が格上げされなかったのかも「よくわからない」状態。格上げされなかった大会の行く末に至っては、「まったくわからない」。

 そんな中、42年間もタイトル・スポンサーを務めてきた自動車メーカーの本田技研工業は、今年限りでスポンサーから降板。2月23日から開催されたホンダ・クラシックが長い歴史に自ら終止符を打った。これは複雑な大改革がもたらした副作用の犠牲になった典型例だが、その矢先、PGAツアーは2024年からの「格上げ大会」のさらなる改革を決め、ゴルフ界をざわつかせている。

 新たな改革は一層複雑なシステムとなる見込みだ。メジャー4大会やプレーヤーズ選手権などを除いた一部の「格上げ大会」は、来年からは出場人数を70〜78名ほどに絞り、予選落ちのない4日間72ホールの形式に変更される。

 そして、出場できる70名強の選手は、前年のプレーオフ・シリーズ第2戦となるBMW選手権に出場した50名が主体となり、フェデックスカップ・ランキングや世界ランキングに基づいて10数名が追加される予定だ。

 目新しいのは、「格上げ大会」ではない通常の大会で優勝すれば、すぐさま次なる「格上げ大会」への出場が可能となるという点だ。逆に首を傾げさせられるのは、人数を絞ってスター選手を集結させるのが「格上げ大会」であるはずなのに、スポンサー推薦の枠は残されるという点だ。

 米メディアや一部の選手からは「タイガー・ウッズや不調でも人気だけは衰えない選手を出場させるための枠では?」と指摘されており、今後、物議を醸すことは必至であろう。

 ともあれ、できるだけわかりやすくシンプルに説明したつもりだが、それでも「何がなんだかよくわからない」と感じた方々、それは「当然」で「ごもっとも」だと思う。

 プロスポーツは、ファンに親しまれ、愛されてこそ。そして、選手たちはモチベーションを抱き、腕を磨いてこそ、いいパフォーマンスが導き出される。複雑怪奇な新制度合戦は、徐々に本来の軌道から外れつつあるのではないかと思えてならない。せっかくの努力が本末転倒とならないことを祈るばかりだ。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やテレビ・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部