日本人の子どもが狙われた(※写真はイメージ)

写真拡大 (全2枚)

 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。一昨年『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、中国で起きた日本人の子どもの誘拐未遂事件について聞いた。

 ***

【写真12枚】「美しすぎる」と話題 露出度の高い衣装をまとったロシアの女スパイ【プーチンも絶賛】

 中国の公安省は昨年3月から7月末の間に、906件の誘拐事件を摘発し、1069人の容疑者を逮捕。長年行方がわからなかった子どもや女性1198人を発見した。逮捕者の中には、26年の間に11件の子どもの誘拐事件に関与していたり、23年前に女性2人と4人の幼児を誘拐した男もいたという。

日本人の子どもが狙われた(※写真はイメージ)

日本人の子どもが狙われた

「中国の東北地方の黒竜江省、吉林省、遼寧省などの農村部では、農業や工場などに従事する労働力が慢性的に不足していて、今でも人身売買が行われています」

 と語るのは、勝丸氏。

「そのために子どもや若い女性が誘拐されて、農村部に売られています。男の子は農場や工場で、女性は風俗店で働かされるケースもあります。公安省が定期的に取り締まりを行っているため、件数は一時的に減りますが、またすぐに増えてきます」

 公安省が最も多く摘発を行ったのは10年ほど前だ。朝日新聞(2012年2月23日付)記事には、こんな記述がある。

『警視庁公安部外事課』(光文社)

《中国は「誘拐・人身売買大国」だ。誘拐され、労働力や性の相手として売り飛ばされた子どもや女性は、過去3年間に警察に保護された数だけでも5万3千人余りに上る。政府は取り締まりを強化しているが、ある日突然家族と引き離される悲劇は後を絶たない。》

「誘拐されるのは、中国人だけではありません。外国人の子どもも狙われます」

 その頃、日本人の母子はこんな危険な目に遭ったという。

「広東省の広州市で、日本人の女性が小学生の息子と街を歩いていました。当時、子どもをダブルのトレンチコートの中に隠して連れ去る誘拐犯が多く、母親はそのことを知っていました」

 女性が先に歩き、男の子は後からついてきていたが、彼女は後ろを振り返った瞬間、「あっ」と声をあげた。

「そこには噂されていたトレンチコートを着た男がいたそうです。びっくりして息子を探したところ、近くにある木のそばにいたので、あわてて『こっちに来なさい』と言ったといいます。親子は、男にしばらく後をつけられたそうですが、なんとか難を逃れました」

自分の娘ではない

 10年前にも日本人の子どもの誘拐未遂事件があった。

「上海市の『カルフール』というフランス資本のスーパーマーケットで、日本人の30代の女性とその娘さんがショッピングをしていました。女の子は小学校低学年で髪が長く、後ろに垂らしていました」

 母親は化粧品を選んでいたため、数分間、娘から目を離した。

「母親が彼女を振り返ると、娘がいません。慌てた彼女は、店員に娘がいなくなったことを伝えました。店員はすぐに無線でガードマンに連絡、ガードマンの一人がスーパーマーケットの敷地内にいた不審な女に連れられ、泣いている女の子を見つけました。これは怪しいと『その子はあんたの娘か?』と問い質したそうです。女はそうだと答えましたが、女の子は助けを求めるようなそぶりをするので、母親をその場に呼んだそうです」

 ところが、母親は最初、自分の娘ではないと思ったという。

「女の子の髪がバッサリ切られていたからです。娘から『お母さん』と言われて、初めて自分の子だとわかったそうです。それにしても、僅か数分の間に髪を短く切ってしまうのですから、恐ろしい偽装工作ですよね。遠くから見ただけでは絶対自分の娘とは思わなかったはずです」

 子どもは一人、50万円から100万円で売られるという。

「河北省では2012年から2020年までの8年間で、実の子ども5人を次々に売却した男性が逮捕されましたが、5人で約18万元(約320万円)の利益を得ていたそうです。中国では、自分の子どもを売る親もいるのが現状で、人身売買の問題は根が深いと思います。中国で暮らす日本人は、街を歩く際、自分の子どもから目を離さないよう気を付けるべきです」

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部