なぜK-POPは世界で人気なのか。法政大学大学院の増淵敏之教授は「レディー・ガガやセレーナ・ゴメスなど、世界的なアーティストとコラボレーションするなど、いち早く海外市場を意識して展開していた。一方、日本はCD販売が中心という特異なマーケットになっている」という――。

※本稿は、増淵敏之『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

K-Pop Night Out at SXSW 2014(写真=Cindy Zimmer/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■北米市場への進出を視野に入れたK-POP

ドラマとともに注目すべきなのがK-POPである。そのグローバル展開の基盤を作ったのが、音楽系の制作、マネジメント会社だ。

韓国のポップミュージックをK-POPと呼ぶようになったのは、日本では1980年代後半にJ-POPという言葉が使われて以降のことである。韓国では演歌から派生したトロット、テクノミュージックの影響を受けたポンチャックなどの独自の音楽が作られてきたが、SMエンタテインメントの設立によって、潮流が変わっていく。

元アーティストであった創業者のイ・スマンが日本のアイドルシステムをベースにして、独自のアイドル育成方式を考案し、ダンスミュージックを意識したアイドルを育てていった。当初は国内市場に集中していたが、2000年代には北米市場への進出を視野に入れた。

■韓国のエンタメ会社は軒並み過去最高売り上げを記録

韓国コンテンツ振興院によると、2021年もK-POP市場は好況が続き、韓国の主要エンターテインメント会社が創業以来最高の実績を記録した。2022年2月24日、韓国の金融委員会の発表によると、HYBEの2021年の年間売り上げは1兆2577億ウォンで、史上最高を記録したという。また、営業利益も前年比30.8%伸びて1903億ウォンを記録した。BTSのアルバム販売の好調や米ロサンゼルスコンサートの興行などの結果と見られる。

韓国のエンターテインメント企業が年間売り上げ1兆ウォンを超えたのはこれが初めてだ。

「スポーツソウル日本版」によれば、SMエンタテインメントも、2021年、7000億ウォンを超える売り上げを成し遂げ、自己最高の業績を記録した。2021年の年間売り上げは21.0%増加した。営業利益は685億ウォンでなんと954.1%増えたという。HYBEと同様にアルバム販売枚数の増加が反映されたものだ。SMエンタテインメントは2021年、前年比約2倍の1762万1000枚余りのアルバム販売を記録した。

■営業利益が前年比300%超えのエンタメ会社も

YGエンターテインメントも2021年の売上高が3556億ウォン、営業利益が506億ウォンとそれぞれ39.3%、370.4%増加した。これも創業以来最高の業績だ。2021年のK-POPアルバムの販売枚数は、ガオンチャート(現サークルチャート)基準で5709万枚に達し、前年比36.9%増加した。アルバム輸出額も2億2083万6000ドルで62.1%も急増したという。

SMエンタテインメントは日本市場ではエイベックスと提携し、BoAや東方神起などを売り出していったことも記憶に残っている。所属していたアーティストはほかにスーパージュニア(SUPER JUNIOR)、少女時代、SHINee、EXO(エクソ)、レッド・ベルベット(Red Velvet)、NCTなどがいる。容姿端麗で実力のあるメンバーが揃っており、また世界規模のオーディションを実施していることでも知られている。主催イベントを含めて、ファミリー感が強い、制作マネジメント会社だ。

YGエンターテインメントは、ダンサーとして活躍したヤン・ヒョンソクが創業、BIGBANG、BLACKPINK、WINNER、iKON(アイコン)、TREASUREなどが所属している。過去にはSE7EN(セブン)や、「カンナムスタイル」で世界にK-POPブームを巻き起こしたPSY(サイ)なども所属していた。また、カン・ドンウォン(注)やチャン・ギヨン、イ・スヒョクなど、多くの有名俳優も所属しているという点でも知られている。

(注)2022年12月で契約終了。

■レディー・ガガとのコラボなど海外市場を意識

YGエンターテインメントは楽曲のクオリティはもとより、アーティストの個性を重視するといわれている。また、多くのアーティストが楽曲やパフォーマンスをセルフプロデュースできる。

なかでも注目されるのはBLACKPINKだろうか。韓国のガールズグループのアイコン的な存在で、2019年4月に公開された「Kill This Love」のMV(ミュージック・ビデオ)が24時間で5670万回再生を獲得し、アリアナ・グランデの「Thank U, Next」を抜いたうえ、3日間で1億回再生を突破した。アジアでの人気はもちろん、レディー・ガガやセレーナ・ゴメスなど、世界的なアーティストとのコラボレーションで北米での知名度も高い。

JYPエンターテインメントは、最近では日韓オーディション番組から誕生させたNiziUが話題になっているが、自らがアーティストであるパク・ジニョンが1997年に設立した。2PM、GOT7、DAY6、TWICE(トゥワイス)、ITZY(イッチ)、ストレイキッズ(Stray Kids)などが所属し、アーティストの育成において、人間性の教育に力を入れていることでも知られている。やはり、多くのアーティストを擁しながら海外市場を意識しての戦略構築に力点を置いている。

■韓国は日本と比べてレコード会社が強くない

世界的グループになったBTSが所属し、今、世界が注目する芸能事務所といえば、HYBEだ。先に挙げたSM、YG、JYPに比べると後発ではあるが、作曲家でプロデューサーのパン・シヒョクがJYPエンターテインメントから独立し、起業した。

2019年の営業利益は、韓国の芸能事務所大手3社のSMエンタテインメント(404億ウォン)とJYPエンターテインメント(435億ウォン)、YGエンターテインメント(20億ウォン)の合計を上回っている。オンラインに非常に強く、2022年上半期にはアルバム売り上げ1660万枚を突破している。

BTSは「LOVE YOURSELF 轉(てん) ‘Tear’」がアメリカの週間アルバムチャート「ビルボード200」で初登場1位に輝き、非英語圏の歌手が入りにくいチャートとして挙げられるビルボードのメインシングルチャート「HOT100」で、デジタルシングル「Dynamite」が初登場1位を記録するなど、K-POP界の歴史を数々の記録で塗り替えている。

また近年では、独自のファンコミュニティアプリ「Weverse」や、ゲーム、スターバックスなどとのコラボなどのビジネス構築にも積極的で、さらに後輩たちの育成にも力を入れている。

以上のように、音楽産業はドラマとは別の流れで成長してきたが、韓国の音楽産業のひとつの特徴としては、日本に比べて従来、レコード会社の力が強くなく、ゆえに制作、マネジメント会社がイニシアティブを取れたという点であろう。それはまた、日本のような重厚な歴史がなかったことも影響しているのだろう。既存の枠組みにとらわれることのない自由闊達(かったつ)な展開が可能だったということだろう。

■韓国では日本以上にドラマと音楽の融合が進んでいる

そして、音楽はドラマと見事な相乗効果をあげている。男性では、例えば『花郎』ではZE:A(ゼア)のパク・ヒョンシク、SHINeeのミンホ、BTSのV(ヴィ)が出演しており、グループで活躍している俳優では元東方神起のパク・ユチョン、キム・ジェジュン、2PMのオク・テギョン、INFINITEのエル、EXOのド・ギョンス、ASTROのチャ・ウヌなど枚挙に暇がなく、その他Rain(ピ)、チャン・グンソク、イ・スンギ、パク・ポゴム、チョ・ジュンソクなども音楽、ドラマでマルチに活躍している。

女性では、『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』などに出演したIU(イ・ジアン役)をはじめとして、アイドルグループのmiss Aのメンバーだったぺ・スジ、少女時代のユナ、BLACKPINKのジスなどがいる。IUは是枝裕和監督の新作『ベイビー・ブローカー』(2022年6月公開)に出演しており、日本でもさらに注目が集まっていくだろう。

日本でもアーティスト兼俳優は少なくないが、韓国でも日本同様に、もしくはそれ以上の音楽とドラマの融合が進んでいるし、現在の音楽には不可欠になっているMVにおいても俳優が出演する事例が数多い。

■日本は音楽に占めるCDの売り上げが75%もある

またOSTにも注目すべきだ。OSTは、直訳すれば「オリジナルサウンドトラック」ということになる。日本では映画のサウンドトラック盤を想起するに違いない。しかし、韓国の音楽市場はアメリカ同様、ストリーミング配信が大半を占める。これは韓国のデジタル政策の効用だ。日本では売り上げに占めるCDの割合が約75%だが、イギリスでは約35%、アメリカに至っては約20%となっている。

出所=『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか』

世界全体でもCDの割合は19.5%である一方、ストリーミング配信の割合は62.1%である(図表1)。ちなみに韓国は売り上げに占めるストリーミング配信の割合が約60%となっている。韓国にはCDショップは100店もないといわれている。

■コロナ禍で音楽サブスクの売上が世界的に増加

日本は世界の音楽市場で市場規模第2位の国だが、韓国とは売上構成が違う。ましてやアメリカでは権威あるチャート、ビルボードも楽曲の再生回数がランキングの大きな要素になっている。

国際レコード産業連盟(IFPI)の2020年の音楽売り上げなどをまとめた「グローバルミュージックレポート」によれば、コロナ禍でSpotify、Amazon、Apple Musicなどのサブスクリプションサービスの利用が増加し、全世界の音楽の収益は前年度比7.4%の増加、総売り上げは316億ドル(約2兆4999億円)に達し、6年連続の成長となった。最も売り上げたアーティストはBTSで、以下、テイラー・スウィフト、ドレイクが続いている。

韓国国内ではSpotifyのサービスへの参入が遅れていたが、2021年に開始された。以前はMelonが市場を寡占していたが、国内サービスではCJデジタルのプラットフォームを買収したジニーミュージック(GENIE MUSIC)やSKテレコムが設立したFLOなど他社の追い上げもあり、シェアを落としている。

■韓国はドラマの開始と同時にOSTが発売される

OSTの話に戻そう。韓国ではOSTが制作されないドラマはないといっていい。ドラマが開始されるとOSTのアルバムが発売される。日本とは違い、1話のなかでも数曲のOSTが制作され、ドラマを観終わった後もOSTを聴くことによって感動が再び、呼び起こされる。韓国ドラマの魅力のひとつに、このOSTとドラマの展開がマッチして効果をあげている点が指摘される。

例えば、大ヒットドラマ『愛の不時着』にも何曲ものOSTが登場するが、とくにペク・イリョンの歌う「Here I Am Again」は印象的で、ヒョンビンとソン・イェジンのツーショットを想起するファンも多いことだろう。『梨泰院クラス』では、Gahoの「はじまり」がOSTの代表的な曲で、パク・ソジュン演じるパク・セロイの純粋に生きるさまをイメージすることができ、その力強さから、前にひたむきに進むというメッセージソングにもなった。

また、人生の不条理を抱える中年の3兄弟と、若くして借財を背負い、身体の不自由な祖母の面倒を見るIU演じるイ・ジアンがお互いを癒やしていく物語の『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』だが、この作品ではエンディングに流れるSondiaのバラード「大人」がドラマをさらに印象的なものにしている。IUもライブなどでこの曲を歌っている。

■2週間で1800万再生を記録したOSTも

2021年の話題作のひとつでもあった『その年、私たちは』は、『梨泰院クラス』のキム・ダミ、『パラサイト』のチェ・ウシクの共演でも注目されたが、この作品のOSTであるBTSのVが歌う「Christmas Tree」は、MVの再生回数がわずか2週間で1800万回を超え、Melonでは、発売後72日間連続でTOP100にチャートインした。

増淵敏之『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか』(徳間書店)

また、この曲は韓国のOSTとしては初めてアメリカ・ビルボードのメインシングルチャート「HOT100」にランクインした。初登場は79位であった。ちなみにBTSのメンバーのうち、ソロで同チャートにランクインしたのはJ-HOPE、SUGAに続きVが3人目となり、ソロでもBTSメンバーの活躍はワールドワイドなものになっている。

韓国では、日本に比べて音楽ビジネスのあり方に独自性が見られる。CDが主体ではなく、あくまでサブスクリプションに軸足が置かれ、ドラマなどの映像メディアとの距離も近い。

今後はこの枠組みにほかのコンテンツも混合していくのだろうか。

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増淵 敏之(ますぶち・としゆき)
法政大学大学院 教授
1957年、札幌市生まれ、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。NTV映像センター、AIR-G’(FM北海道)、東芝EMI、ソニー・ミュージックエンタテインメントにおいて放送番組、音楽コンテンツの制作および新人発掘等に従事後、現職。著書に2019年『「湘南」の誕生』(リットーミュージック)、2020年『伝説の「サロン」はいかにして生まれたのか』(イーストプレス)、2021年『白球の「物語」を巡る旅』(大月書店)など多数。
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(法政大学大学院 教授 増淵 敏之)