菅義偉の人生相談はグラドルの女優宣言」芸人とラッパーが“話芸”で政治を身近にしたい理由とは

時事芸人のプチ鹿島と、ラッパーのダースレイダーが選挙戦を追ったドキュメント「劇場版 センキョナンデス」が2月18日より順次全国公開される。「選挙」を「お祭り/フェス」と捉える二人にとっての言論、人間、テロ、日本、そして民主主義とは。

選挙は「自分との対話ができる機会」

――お二人は芸人とラッパーという「話芸」を生業にされていますが、なぜ政治を話題にしているのでしょうか?

プチ鹿島(以下P) コロナ禍によって、WEBやSNSを見る時間も長くなったと思うし、そこで政治的な議論が起こると、そこに真面目に向き合いがちだったと思うんですね。それは本当に良いことだと思うんですけど、一方で「僕らしかできないアプローチの仕方」もあるなと思って。

同じ芸人でも、為政者をわかりやすく攻撃するようなSNSの使い方もあると思うし、それを否定はしないけど、僕らはもっと面白さや可笑しみの部分を「イジり」たいなと。

ダースレイダー(以下D) 政局や政治家の名前を知らなくても、まず面白く聴けるというのは、僕ら二人の「話芸」として心がけてる部分ですしね。

P 僕らはジャーナリストではなくて、あくまでもやっぱり「芸人とラッパー」。だからこそ、その二人が話すから生まれる掛け合いの面白さを出したいし、政治や批評の前に、まず単純に「話芸として」視聴者を楽しませたい。

D それは菅(義偉)さんが官房長官から総理大臣になるタイミングで、強く感じましたよね。

P 官房長官時代に、「プレジデント」で菅さんが人生相談の記事を始めたんですよ。菅さんの人生相談好きは一部の人には知られてたけど、いよいよそれを大っぴらにするときがきた!と。

D もう、僕らとしては「あのグラビアアイドルが遂に脱いだ!」的な興奮でしたよ(笑)。

P しかも人生相談なのに、ほとんど自分のことしか話してなくて、これはかなり自意識の部分も出しているし、いわばグラドルの女優宣言だなと(笑)。

D そうしたら実際に総裁選に立候補して、総裁になったんですよね。

P そういう周辺情報からも、政治家の意識の動きも感じることができるし、良い悪い、貶す褒める以外の面白がり方やイジり方を、僕らはしたいんです。

――映画の中でもお二人は事柄に対する「賛否」は明言されませんね。ただし「チェック」「ウォッチ」はしている。

D この映画でやっているような、「候補者をチェックする」という事が当たり前になって、有権者がこういうスタンスで選挙や政治を見るようになると、世の中がマシになると思うんですよね。少なくとも自分が気になることを聞く、確認するという意識を持つだけでも、ずいぶん変わると思う。

P どうしても「投票」というと、候補者のすべての政策を把握しないといけない、そうじゃないと投票や政治参加できないみたいな風潮があるし。

D 「ちゃんと勉強してから投票しろ!」みたいにマウントを取ってくる人もいますよね。

P それが原因で投票率が低くなってる部分もあると思うけど、そこまでシリアスに考えなくてもいいはずなんですよ。例えば何かを質問したときの返しに中身がなかったり、演説でやたらと難しい言葉を使ってたりしたら、「そんな人に自分の代理は任せられないな」でいいと思う。

D 同じように「民主主義を守れ!」「選挙にいくべきだ!」と強い言葉で押されると、引いちゃう人もいると思う。もっと敷居が低くてもいいはずなんですよ。近所のお祭りに行く感覚で。

P しかも、投票日に投票すれば、その結果はその日にわかるんですから、展開も早い(笑)。

D そしてその投票が正しかったのかを、それからのその人の行動や、世の中を見ることで答え合わせができる。その意味でも、選挙は「自分との対話ができる機会」だとも思うんですよね。

芸人とラッパーが世相を斬るYouTube「ヒルカラナンデス」

――そもそも、ラッパーと芸人という、職能の違うお二人がタッグを組んだキッカケは?

D 時事やニュースをラッパーがラップで伝える「NEWS RAP JAPAN」という番組が、Abemaで2016年に始まったんですよね。

――呂布カルマやサイプレス上野などが登場する、ラップでニュースを斬るという番組でした。

D 僕はその司会だったんですが、その企画段階で『ラッパーだけだと情報的に緩いものになるから、コメンテーターとして宮台真司さんとプチ鹿島さんを迎えましょう』という事になって。

P ダースさんとは面識がなかったんですが、僕が出てるラジオなどをチェックしていてくれて、その縁でお声がけくださって。足掛け3年ぐらいやったのかな。面白い番組でしたね。

D その番組が2019年の3月に終わったんですが、同じ時期に僕が自伝(「ダースレイダー自伝 NO拘束」)を出して、そのトークショーを鹿島さんと二人でやったんです。

P 密に会ってた訳ではなかったし、トークイベントもなんの打ち合わせもせずに話し出したのに、3時間喋りっぱなしで。それで、ダースさんとは「手が合うな」(注:プロレス用語で「相性がいい」といった意味)と改めて感じたんですよね。

D それからもお互いにゲストで呼ばれたイベントなどで人前で一緒に話す機会は多くて。

P その流れで2020年の4月から、ダースさんの家から配信するYouTube番組「ヒルカラナンデス」を始めたんですよね。ビューワーに視聴を習慣づけるためにも、金曜の昼からレギュラー放送しようと。


――放送開始から3年を迎え、YouTubeとしても長寿番組になっています。

D 最初はこんなに長く続くなんて考えてなかったから、こんな裏番組をイジるようなタイトルにしちゃって。

P 日本テレビに怒られたらいつでも変える覚悟はありますよ。だって僕らが100パーセント悪いから(笑)。このYouTubeも事前に全く打ち合わせをしてないんですよ。でもその週にあった時事ネタを話してたら1時間、2時間はあっという間に過ぎてしまう。

D 鹿島さんは新聞14紙の読み比べを欠かさずしているし、僕も海外報道をチェックしたり、お互いに情報をたくさん持っているんで。

P 話してても心地いいんですよね。ダースさんだったらどんな話を振っても大丈夫という安心感もあるし、ダースさんや視聴者の反応を見て、好感触だったからこのネタは他の媒体でも使おう、とか。そういう「ネタがけ」の場でもある。話しながら初めて思いつくフレーズもあるし。

D 自民党の山本朋広衆院議員が、自身の「マザームーン」発言に対する記者の質問に、なにも答えずに歩いて出ていったことに対して、鹿島さんが「あれが本当のムーンウォークですよ!」とか(笑)。

P そういうフレーズは会話の中じゃないと出てこないから(笑)。

喜怒哀楽のすべてが詰まった「選挙」を
楽しまないなんてもったいない!

――お二人が「選挙」を通して感じていることはなんでしょう。

D 「一応、日本は民主主義国家ですよね」という前提に立った時、選挙を通して「主権者は誰か」ということを、候補者に態度で見せなくちゃいけないということですよね。

P 当然だけど、政治家は僕らの代理として国会に行くわけです。国会議員だからエラい、なになに大臣だからへつらうんじゃなくて、いや、この人はあくまでも代理人で、選ぶのは僕らなんだよ、という意識をもたないとなって。

D だから選挙に出る人は「私を国会に送り出してください」「国のために働かせてください」というわけですよ。そして、その資格があるかどうかをチェックするのは、こちらの「力」でもある。

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

P だから横に並んで話を聞いて、人となりを知って、それによって判断するということを、当たり前にしたいんですよね。

D その意味でも、誰しもが「一票という力」を持っている。ジョン・レノンがいうところの「パワー・トゥ・ザ・ピープル」が選挙の本質なんですよね。でも、それをなんとか忘れさせようと、気づかせないようにしている空気があるし、それに対してのツッコミが、僕らのやってることなんですよね。

P だから、僕らは実は至って普通のことをやってるだけなんですよね。同じように、選挙も「そこにあるもの」だから、まずそのスタート地点に立つのが大事だと思いますね。

――お二人が現在注目している選挙区や候補者はいますか?

P この映画的に言うと、共産党の辰巳孝太郎さんと、維新の会の吉村洋文さんがおそらく戦うであろう、大阪府知事選とか。

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

D 立民から自民に鞍替えして話題になった今井瑠々さんもどうなるのか。

P そういう全国的な注目選挙区もありますが、まずは自分の地元を見ると面白いかもしれないですよ。ちゃんと視点を持てば、どんな選挙区にも見どころはあるし、絶対エモくなります。だって候補にとっては、ここで「先生」になるか、普通の無職の人になるかの瀬戸際だから、必死の姿が見えるんですよ(笑)。

その意味でも、本当に喜怒哀楽のすべてが、選挙には詰まってるんですよね。それをタダで見れるんですよ? 楽しまないなんてもったいないでしょ!

取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/下城英吾

『劇場版 センキョナンデス』

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

2023年2月18日(土)より
渋谷シネクイント、ポレポレ東中野 ほか 全国順次ロードショー
現在 全国30館に拡大中!

「選挙は最高のお祭りだ!」のはずが・・・

野次馬のつもりだったラッパーと芸人が、安倍元首相銃撃事件の日の選挙戦を記録。

監督・出演:ダースレイダー(ラッパー) × プチ鹿島(時事芸人)

大島新(『なぜ君は総理大臣になれないのか』監督)プロデュース最新作!

https://www.senkyonandesu.com