この記事をまとめると

軽トラと軽バンは同じような商用車に見えるがオーナーからするとまったく異なるクルマとなる

■構造も異なっており、軽トラはキャブオーバー、軽バンはセミキャブオーバーとなる

■どちらもMTが基本となっているが、ダイハツ・ハイゼットにはCVTも用意されている

趣味のクルマとしても人気な軽トラと軽バン

 コロナ禍の新しい生活スタイルとして車中泊がムーブメントとなり、ローコストに車中泊仕様を作り込むベースとして「軽バン(軽1BOXの商用車)」が人気を集めているのは、ご存じのとおり。似たようなものとして軽トラの荷台にキャンピングカーに変身できる小屋を載せてしまう手法も流行りつつある。海外からの情報として、日本独自の軽トラをオモチャ的に楽しむという趣味が生まれているという動画やニュースを見たことがあるという人も少なくないだろう。

 本来、働くクルマとして生まれた軽トラ、軽バンであるが、ホビーの対象としていま注目のカテゴリーとなっている。しかし、この2台は門外漢からすると同じように見えるが、オーナー目線でいえばまったく異なるキャラクターを持っているといえる。

 筆者は20代の頃に、軽トラ「ダイハツ・ミゼットII」を愛車としていたことがある。そして、50代となった現在は軽バン「スズキ・エブリイ」をファミリーカーとして愛用している。そうした経験からいっても、軽トラと軽バンは似ているようでまったく違うクルマだと断言できる。

 そもそも構造からして軽トラと軽バンは異なっている。代表的なモデルとしてダイハツ・ハイゼットを例にすると、ハイゼットトラックはフロントタイヤの上に運転席があるキャブオーバーだが、軽バンのハイゼットカーゴはフロントタイヤの後ろ、エンジンの上に運転席を置くセミキャブオーバースタイルだ。

 いずれもエンジンを縦置きにするFRプラットフォームで、軽自動車ゆえに全長は同じ3395mmとなっているが、ホイールベースはトラックが1900mm、カーゴは2450mmと大きく異なる。ディメンション的な特性でいえば、ショートホイールベースのトラックは小まわりが効くのがメリット、ロングホイールベースのカーゴは高速安定性に有利といえる。

 もっとも異なるのは乗車定員だ。ハイゼットのデッキバンという特殊なモデルを除いて、ダイハツのハイゼット、スズキのキャリイともに軽トラは2名乗車となっている。その意味では2シーターのスポーツカーと同じように徹底した趣味のクルマといえる。

軽バンなら4人乗車も可能でファミリーカーとしても利用できる

 荷物についても基本的には剥き出しの荷台に置くことになるわけだから、濡れてもいいものしか積めない。逆に、オフロードバイクやマリンレジャーなど汚れることが前提の趣味を楽しむのであれば、軽トラというのは理想的なトランスポーターとなるだろう。

 一方、軽バンは簡素であってもリヤシートを備えているので乗車定員は4名。グレードによっては乗用タイプのリヤシートとなっていることもあり、ほとんど軽スーパーハイトワゴンに近い感覚で使うことができる。

 実際、筆者はエブリイバンを使っているが、家族3人で乗っていて狭いと感じたことはない。もちろん乗り心地については商用車らしい硬さがあって乗用車の域に達してはいないが、少なくともパッケージングとしてはファミリーカーたり得るのが軽バンだ。

 セミキャブオーバーということで室内長は軽自動車で最長クラスとなる。つまり、ラゲッジスペースが軽スーパーハイトワゴンより広く、使い甲斐があるというのも軽バンのメリット。濡らしたくない荷物を多量に積むことを前提とすれば、軽トラより軽バンを選ぶべきだ。

 そのほかにも違いはあるが、ここまでの話で軽トラと軽バンは似ているようで、まったく異なっていることが理解いただけただろうか。

 ところで、軽トラ・軽バンといった軽商用車はほとんどのグレードでMT設定が基本となっている。しかもハイゼット、エブリイ、キャリイともにFRであるからプリミティブにドライビングを楽しむモデルとしても評価されている部分はある。

 筆者もそうした部分を求め、あえてNAエンジンのMT仕様を選んでいるが、クルマではない趣味のトランスポーターとして軽商用車を考えているのであれば、ぜひとも候補に挙げてほしいのがダイハツのCVT仕様だ。

 重い荷物を積んだときの発進性を確保するため、商用車というのは基本的にローギヤードな変速比となっている。そのため巡航しているときもエンジンが高回転になりがちだ。しかもパッケージングとしてエンジンの上に座っているのだから振動やノイズが気になる。

 しかし、ダイハツがハイゼットに採用されているCVT車を選べば、MTよりはずっとマイルドで静かで快適なキャビンになる。小排気量エンジンはMTで操ってこそ楽しいという主張も賛成するところだが、日常の快適性に重きを置くユーザーからすれば、CVTという選択肢があることを感謝したくなることだろう。

 CVTの軽商用車を試乗する機会を見つけることは難しいかもしれないが、検討してみる価値はある。