ユニークなバーガーが次々と登場するのもドムドムの強みだ。左から「びたびたバターフィッシュ」、「「丸ごと!!カニバーガー」、「ごぼうと生姜香る 味噌カツバーガー」(撮影:尾形 文繁)

かつて「ドムドムハンバーガー」といえば、多くの人が知るハンバーガーブランドだった。ところが、もともとの親会社だったダイエーの不振に翻弄され、400店舗もあった店舗が二十数店舗にまで縮小するなど、“絶滅危惧種“のハンバーガーチェーンに。

しかし、現在、「丸ごと!!カニバーガー」などの個性的なメニューがハンバーガーフリークの心を掴んだり、自社マスコットをあしらったアイテムが若者中心に人気を集めたりと、独自の路線で存在感を高めている。

こうした中、2021年3月月期黒字化を達成すると、2022年3月期も続けて黒字を計上。絶不調期を脱し、売り上げを回復させている背景には何があるのか。探ると、従来の外食チェーンの常識にはしばられない戦略を生み出す3つのキーワードが見えてきた。

自ら主張するより「共感」される道を選んだ

1つ目は「ブランドコンセプトの再構築」である。ドムドムが自らのブランドの強みを整理し、1つのコンセプトにまとめたのはコロナ禍前にさかのぼる。藤粼忍社長が兼務していた営業部長の兼務を解き、社長業に専念したタイミングだった。

「2020年にドムドムハンバーガーが50周年を迎えるにあたって、次の50年をどう描いていくかを考えていた」という藤粼社長。企業とのコラボレーションやイベント出店を通じて顧客の声を聞く中で、スタッフや顧客から深く慕われているブランドだと実感。そこで、自ら「こうしたブランドだ」と主張するより、顧客や従業員の人生に寄り添い、より共感されるブランドにする道筋を決めた。

ところが、このコンセプトが決まってすぐに新型コロナウイルスの感染拡大が起きた。社会環境が急激に変化し、多くの外食企業はどう経営をしていけばいいか迷っていたが、ドムドムはこの考え方を軸に、さまざまな施策を実施した。

1つが独自マスコット「どむぞうくん」のマークが入ったマスクの販売だ。マスク不足が深刻化する中、自社で生産体制を整えてマスクの製造を行い、2020年5月にまず従業員に配布し、その後顧客向けにも販売するようになる。これがメディアなどでも話題となり、結果的にEC事業の足がかりとなった。


「どむぞうくん」のマークが入ったマスク(撮影:尾形 文繁)

コロナ禍に決めた「花やしき」への出店

出店戦略にも、この考えが反映されている。通常、飲食店が出店先を決めるとき、店前交通量やライバル店の有無などからマーケットのポテンシャルを分析して判断を行う。しかし、ドムドムの場合、社会的な意味や顧客体験価値を重要視して出店先を決めている。顕著な例が、「ドムドムハンバーガー 浅草花やしき店」だ。


花やしき店は花やしきの中だけでなく、外からでも商品を買える(撮影:尾形 文繁)

同店は2020年9月にオープンした。今でこそコロナ禍が落ち着き、インバウンド客が戻ってきたので浅草も賑わっている。しかし、当時はGo To トラベルも始まってなく、観光地に人はまばらだった。

ましてや入国制限があった時期なのでインバウンド客はもちろんいない。それにもかかわらず出店を決めたのは、観光地である浅草の活性化が、日本経済の底上げにつながると判断したからだという。

「私が社長に就任するとき、一度出店をすべてストップしています。その前まで長く赤字が続いていたので社内には閉塞感が漂っていました。ですので、出店を行った方が社員は会社の成長を感じられて、閉塞感もすぐに打破できたかもしれません」と藤粼社長は話す。「しかし、ブランドとしてどこに向かうのか、お客様が何を求めているのかを把握しないまま出店しても成功を収めるのは難しいでしょう」。

そこで、軸となるコンセプトを固め、それに基づき社会的意義や顧客の体験価値を重視して出店をしていくことに決めたという。

「現在、浅草花やしき店の売り上げはとても好調。結果として、私たちの取り組みをたくさんのメディアに取材していただいたおかげで、幅広い世代の方に興味を持ってもらえました。そうした反響があったのも売り上げありきではなく、意義ありきで出店を考えたからだと思っています」(藤粼社長)

同社はまた、2021年3月に千葉県にある「市原ぞうの国」にも出店。「ぞう」が縁だとしているが、コロナ禍で多くのテーマパークなどが苦戦を仕入れる中での出店はまさに従来の外食の出店戦略とは異なるが、ここでも出店することの意義を重視したとしている。


コロナ禍中に「花やしき店」の出店を決めた藤粼社長(撮影:尾形 文繁)

2つ目が、「社内の風通しのよさ」である。ドムドムハンバーガーといったら、「丸ごと!!カニバーガー」などの個性的なメニューを思い浮かべる方も多いだろう。その背景にあるのが、社員が積極的に提案をしやすい環境だ。

そもそも同社の東京オフィスには藤粼社長をはじめ、取締役営業部部長、商品開発担当者、広報マーケティング担当者、営業サポートなど、7人しか常駐していないため、直接社長と顔を合わせる機会が多い。加えて、藤粼社長がオープンな性格ということもあり、コミュニケーションが取りやすい環境が整っている。


花やしき店のみで販売する「どむぞうくん焼印入り かりんとう饅頭」(撮影:尾形 文繁)

2022年は18種類の新商品を投入

そうしたメリットが特に現れているのがメニュー開発だ。

藤粼社長によると、同社ではメニュー開発者に対して「おいしい」ことは大前提に、その上で付加価値の高い商品を開発して欲しいと要請しており、それに則っている限り、提案されたメニューを否定することはない。担当者が自由にメニューを開発できる環境づくりに力を入れていると言い、新商品の試食は月に2、3回に及ぶ。取材した日も新メニュー案の試食を控えていた。

「そういった方向性を共有しているので、担当者とのコミュニケーションはとてもスムーズ。時には意見が分かれることがありますが、目指す方向性は同じなので、徹底的に議論しながらさらに面白いアイデアに昇華させることもできます」(藤粼社長)

試食と議論を繰り返してリリースされた新商品は、2022年は毎月ごとの新作が計12種と、コラボハンバーガーが6種類で、18商品あった。また、付加価値やユニークな視点を重視したメニュー作りに力を入れた結果、『丸ごと!!カニバーガー』などの商品が生まれた。


今も人気が高い「丸ごと!!カニバーガー」(撮影:尾形 文繁)

同バーガーは2019年にリリースされるや否や、3カ月分の在庫が1カ月で売り切れるほどの大ヒットを記録。その大ヒットを受けて20年に再販すると、今後は1カ月分の在庫が1週間で完売した。この他にも、店舗によっては『丸ごと!!カニバーガー』だけで250個以上販売したり、売り上げが120〜150%底上げされたりと、さまざまな記録を打ち立てている。

「丸ごと!!カニバーガーは冷凍のカニを各店舗に送って、冷水解凍してから衣を付けて店舗の厨房で揚げているので、店舗スタッフにオペレーションの負荷がかかります。他のハンバーガーチェーンではまずやらないでしょう。しかし、当社の場合、これまで数多くのヒット商品を世に出してきたメニュー開発の担当者を、店舗スタッフが信頼しているので実現できます」(藤粼社長)

「言いたいことが言える」「疑問を口に出すことができる」といった風通しがいい環境がドムドムハンバーガーの価値創造を促進させているのではないか。

マスコットの「どむぞうくん」のぬいぐるみも、そうした文化だからこそ誕生したといえる。もともとロゴやイラストでだに使われていた「どむぞうくん」を、「ぬいぐるみにしたい」という意見が初めて店長会議で出たとき、反対意見も多かった。しかし、意見の衝突を恐れずに議論ができた結果、しっかりとアイデアが練られた商品が実現し、再販のたびにすぐに完売するほどの人気を集めるまでになっている。


どむぞうくんの多色化にも反対の声があったという。それぞれ名前があり、青は「どむクルーズ」(撮影:尾形 文繁) 

リツイートキャンペーンはやらない

3つ目は、多面的なファン作りだ。コロナ禍で外食の絶対数が減り、新規集客に頼った営業が難しくなっている。その結果、重要性を増しているのが、ブランドのファンの存在に他ならない。実際、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などが明けた後、客の戻りが早かったのはファンの多い店だ。

ドムドムハンバーガーもファンづくりには力を入れている。特にツイッターを中心としたSNSには、新商品が出たら必ず食べに行ったり、遠方から定期的に店舗を訪れたりする熱狂的なファンも多い。また、バーガー店には足を運ばないものの、同社のアパレル商品などをツイートするファンもいる。


「ドムドム MA-1ジャケット」(写真:尾形 文繁)

外食チェーンの中には、新商品が発売される際にハッシュタグをつけてリツイートをすると商品が当たるなどのキャンペーンをするところもあるが、同社ではこうしたことはしていない。それは、「プレゼント狙いでリツイートされる方がいるのも事実。それだと私どもの商品に興味がなくてもリツイートできてしまうため、信頼関係は築けない」(藤粼社長)からだ。

リツイートキャンペーンに比べてSNSでのファン作りは地道な作業だが、自発的にツイートなどをしてくれるフォロワーのエンゲージメントは高いという。例えば、同社は2023年1月7日から2月26日まで「博品館TOY PARK銀座本店」の1階で期間限定のポップアップストアを開催中だ。

そこで「博品館TOY PARK」とのコラボレーションアイテムとして、博品館カラーのパープルの「どむぞうくんぬいぐるみボールチェーン」の販売を計画し、その告知を1月5日にツイッターでしたところ、4.8万人のフォロワーにもかかわらず、204.4万件のインプレッションがあり、4492件もリツイートされた。

結果として、オンラインショップでは2分程度でアイテムが完売しただけでなく、「博品館TOY PARK」のリアル店舗でも開催期間中の在庫が4日間で完売した。アパレルとの取り組みについても、ドムドム側が周知しなくてもファンが自発的に拡散してくれることが少なくないようだ。

企業とのコラボが認知度向上につながる

「ドムドムハンバーガーは、多くの店舗が町場のスーパーなどに出店しています。ですので、店舗で何かキャンペーンをやったとしてもお客様の反応は限定的。だからこそ、これまでリーチできなかった層にブランドを認知してもらうためには、企業とのコラボレーションは欠かせません。また、それを広める手段として、ツイッターやそこにいるファンの方々の存在は非常に大きいです」(藤粼社長)


(撮影:尾形 文繁)

同社ではツイッターを通して客の声を拾い上げ、それを営業施策や店作りなどにも生かしている。まさにファンづくりと、マーケティングの両面でツイッターの存在は欠かせないものとなっている。

会社やブランドに勢いがあるタイミングで、出店攻勢をかけるのも、飲食ビジネスを成功させる1つの定石だ。実際、藤粼社長のやり方をもどかしく感じる向きもあるだろう。しかし、コロナ禍では飲食店が感染拡大の原因になっていると批難され、その存在意義が問われた。また、外食の需要が減ったことで、これまでの成功方程式が通用しなくなり、生き残るには新しい顧客との関係性づくりも欠かせなくなっている。

こうした中で、話題を集め、着実に業績を伸ばしつつあるドムドムハンバーガーはコロナ禍以降の、新たな外食店の在り方を提示しているのかもしれない。

(三輪 大輔 : フードジャーナリスト)