日本人女性が極端に子を産まなくなった5つの理由を探ります(写真:Graphs/PIXTA)

OECD(経済協力開発機構)のデータベースで見て「50歳の時点で子供がいない=生涯にわたって子供を持たない女性」の割合が、日本は27.0%(2020年)と先進国で最も高い。

日本のそれはフィンランド(20.7%)やオーストリア(20.06%)、スペイン(18.40%)を大きく上回っている。4人に1人が、生涯にわたって子供を持たない選択をしていることになるわけだが、深刻な少子化を裏付ける数字であり、その衝撃は大きい。

とはいえ、この数値はある程度予想されたものでもある。何と言っても、日本の出生数は近年大きく下落を続けており、2022年の出生数は77万人程度と、初めて80万人を下回るとの予想もある(「今年の出生数、推計77万人 少子化が一層加速、朝日新聞独自算出」/朝日新聞デジタル/2022年12月21日配信)。

内閣府の少子化社会対策白書によれば、日本の年間出生数は第1次ベビーブーム期には約270万人、第2次ベビーブーム期の1973年には約210万人もいた。それが1984年には150万人を割り込み、増加と減少を繰り返しながらも減少傾向が続いて、2019年には約86万5000人と初めて90万人を割り込んだばかりだった。2017年時点の将来推計人口では2022年は85.4万人と見込まれていた。コロナ禍の影響が少なくないとはいえ数年前の想定を大きく下回り、目も当てられないほどのスピードで子どもの数が減っている。

原因は、上がらない賃金、高い教育費、将来への不安?

日本の女性が子供を産むことに躊躇していることは、一生の間に女性が産む子供の数をあらわした「合計特殊出生数」を見ても明らかだ。2020年の段階では、日本の合計特殊出生率は1.34で、世界189位(世界銀行調べ)に位置する。最新の数値を見ると2022年には1.27程度に低下する見通しで、この数値は国際的にもかなり低いレベルと言っていい。

さまざまな報道を総合すると次のような点が関係していると言っていいだろう。

1.結婚しない人が増えた(未婚率の上昇)
2.生活するのに精いっぱい(貧困=非正規社員の急増)
3.子育てが大変すぎる(教育費の高騰、行政によるサポート不足)
4.将来への不安(年金制度の崩壊懸念、国の借金への不安)
5.子育て以外の選択肢が多い(価値観の多様化)

日本では一生結婚したことがない「生涯未婚率」がどんどん上昇している。生涯未婚率とは、統計的には50歳時の男女が一度も結婚しない状態を数値化した指標だ。日本の場合、2020年の段階で男性が28.3%、女性は17.8%に達しており、子供をもうける人も当然減ってくる。1980年当時、男性の生涯未婚率(50歳時)は2.60%(厚生省国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」平成7年より)、女性は4.45%(同)にすぎなかった。ほとんどの男女が結婚した頃から40年で状況は大きく変わった。

「収入や雇用の不安定さ」は生涯未婚の主因の1つに挙げられている。一方、発展途上国で出生数が大きく伸びている国では、貧困が出生数低下の原因にはならない。しかし、ある程度経済が発展してくると、結婚生活の延長線上にある出産、子育て、老後が大きく関係して、結局子供を作ることに二の足を踏んでしまう人が多くなる。

正社員と非正社員の格差も指摘

とりわけ、近年指摘されている問題が「正社員(正職員)と非規社員(非常勤職員)の格差」である。40〜44歳の非正規社員の男性の未婚率は70.1%(2020年、「非正規男性6割が未婚「普通の家族」は終わりつつある」/日経×woman、/2022年7月22日配信)というデータもある。

連合(日本労働組合総連合会)が2022年3月に発表した調査によると、非正社員として働く女性に対するインターネット調査では、初めて就いた仕事が正社員では「配偶者がいる:63.6%」「子供がいる:57.7%」に対して、同じく非正社員の場合は「配偶者がいる:34.1%」「子供がいる:33.2%」だった。初めて就く仕事が正社員か非正社員かで、大きな差が出る。

とはいえ、そもそも正社員であったとしても日本の賃金が一向に上昇していないのもネックなのだろう。今や日本は先進国の中では、最下位レベルに近い収入しか得られない社会になっている。OECDが発表した2021年の平均賃金をドルベースで見ると、韓国やスロベニア、リトアニアといった中東欧諸国にも抜かれている。正社員、非正社員にかかわらず、未婚の男女が急増したことの遠因にありそうだ。

「子育てが大変すぎる」のも、深刻な問題だ。まずは金銭面。住友生命のホームページによれば、幼稚園から高校までの教育費の平均は、すべて公立校で262万円(塾を除く)、すべて私立の場合で1235万円(同)になるそうだ。大学に進めば、国公立(文系)の284万円(実家から通学)〜私立(理系)は1648万円(同)に達する。これが実家暮らしでなく1人暮らしなら668万〜2032万円(同)もかかる。

単純に教育費が高いということもあるが、実は保育園や幼稚園、小中高と進学していく段階で、学校への送迎やPTA活動など、目には見えない形での負担が多いことも忘れてはならない。なぜ、教育費にこんなにお金と手間がかかってしまうのか……。50年前と比較した時に考えられるのが、政府による規制の乱発だ。

何か事故があるたびに「規制をしなかった政府が悪い」というマスコミの批判に対して、政府が慌てて、付け焼き刃的に制度を作り続けた結果であり、最初から子育てに対するポリシーが欠如した状態で教育行政を続けた結果といっていいだろう。それが何十年もずっと続いているのが現状だ。日本には地域で支え合うなど、安心して子供を産んで、育てる社会を作っていく必要がある。

企業も努力が必要だ。最近、伊藤忠商事が朝型勤務の導入による働き方改革によって、合計特殊出生率を1.97に伸ばしたことが評価されているが、長い目で見れば社員が子供をたくさん産むことが、その企業の成長にもつながっていく。

結婚制度そのものが限界に来ている?

ほかにも女性たちが子供を積極的に産まない、産みにくい理由はある。

ニューズウィーク日本版が2017年7月13日に配信した記事「婚外子が増えれば日本の少子化問題は解決する?」によれば、日本の婚外子は2.3%(OECD、2014年、最新値では2.4%、2020年)しかなく、1.9%(同、最新値は3.0%、2021年)の韓国と並んでOECD中、最下位水準になっている。

生涯子どもを持たない人の問題は欧州諸国でも一時は深刻な問題ととらえられていた。欧州の多くの国も合計特殊出生数が、人口減少につながる2.1を大きく下回っていたのだが、1980年に入ってから欧州諸国の多くは「第2の人口転換」と呼ばれる人口動態変化が起きて、合計特殊出生数が2.1のラインに近づいている。

その原因を調べると、これらの欧州諸国は日本と同様に結婚するカップルは相変わらず低いものの、同棲や婚外子が多いことがわかる。フランスは62.2%(2020年)、ノルウェー58.5%(同)、ポルトガル57.9%(同)が婚外子であり、しかも日本と違って何ら差別を受けることがない。

日本の場合、大手メディアも含めて、古いままの結婚観が根強く残っており、社会の多様化が大きく遅れてしまった。社会が多様性を受け入れないことも日本の少子化問題の要因の1つに挙げられる。

「将来に対する不安」も大きい。子供を育てることに不安を抱き、また自分の将来や自分の親の老後などを見ると、いつ年金制度が崩壊するかわからないと散々脅され、政府も莫大な財政赤字を抱えている状況では、安心して結婚もできないし、子供も作れない。

「子育て以外の選択肢が多い」というのも、実は大きな問題と言える。日本に限ったことではないが、価値観の多様化によって、家族を作るという概念そのものが欠如していく傾向にある。子育てはおろか、結婚にすら必要性を感じていない人間が増えている面も見逃せない。

安定した職を確保するのに苦労した就職氷河期世代が50歳前後になる数年後には、子どもを持たない人の割合はもっと上がり、合計特殊出生率も、ひょっとしたら1.0を切るレベルにまで悪化する可能性がある。

日本社会の構造変革が不可欠

現実的にどうすればいいのだろうか。これは政府が国債を発行して、マネーをばらまくことで解決されるような問題ではない。ここからは筆者の意見となるが、労働者の雇用条件を引き上げること、移民・難民の受け入れを増やすこと、シングルマザーの支援を充実させること、など日本社会を根底からひっくり返すぐらいの変革が必要なのかもしれない。

男女差別は無論のこと、シングルマザーや独身者に対する偏見がなくなり、積極的に子孫を残したいと願うことができる国づくりをしなければ、この問題は解決しない。

(岩崎 博充 : 経済ジャーナリスト)