GYAO!とU-NEXTの歴史を振り返ると、2000年代後半の「日本における動画配信サービス黎明期」が見えてくる(写真:MediaFOTO/PIXTA)

2023年3月でのサービス終了が発表された無料動画配信サービス「GYAO!(ギャオ)」と、サブスクリプション型の有料動画配信サービス「U-NEXT(ユーネクスト)」が、もともと同じルーツを持っていたことをご存じだろうか。

時代に左右されたGYAO!とU-NEXTの歴史を振り返ると、2000年代後半の「日本における動画配信サービス黎明期」が見えてくる。

18年愛された「GYAO!」の終了発表

2023年1月16日、Zホールディングス(HD)と、同グループのヤフー、GYAOの3社は、3月31日をもって、「GYAO!」を終了すると発表した。動画領域の経営資源を、ZHDグループのLINEなどが運営する縦型動画サービス「LINE VOOM」に集中することを理由としている。

これに先駆けて、LINEのライブ動画配信サービス「LINE LIVE」と「LINE LIVE-VIEWING」も、経営資源の集中を理由に、3月末に終了すると発表された。なお2023年度中に、LINE VOOMへライブ配信と視聴機能を追加予定で、そちらを後継サービスとする方針だ。

GYAO!は、ミュージシャンのプロモーションビデオや、ドラマやバラエティ、アニメなどのテレビ番組(過去の名作から、最新作の見逃し配信まで)などを配信するほか、放送局とタッグを組んだ、オリジナルコンテンツも手がけている。

とくに意欲的なのは、ラジオ番組の映像版スピンオフで、元SMAP木村拓哉さんの「木村さ〜〜ん!」(TOKYO FM「木村拓哉 Flow」とのコラボ)や、とんねるず木梨憲武さんの「木梨の貝。」(TBSラジオ「土曜朝6時 木梨の会。」)、元乃木坂46山崎怜奈さんの「山崎怜奈の#ダレマナ 〜誰かに学びたかったこと〜」(TOKYO FM「山崎怜奈の誰かに話したかったこと。」)といった番組を独占配信している。

18年愛されたGYAO!の終了発表を受けて、ツイッターでは惜しむ声が相次いでいる。

「GYAOが一番好きやのに悲し過ぎるよ…」

「たくさんの幸せをありがとうございました」

「最近になって古いアニメとかを見る習慣ができていたんで残念ですね」

そもそもGYAO!を生み出したのは、有線放送事業者のUSENだった。2005年4月に「完全無料のブロードバンド放送」として、「GyaO」(当時の表記)を開始。当時USENは、音楽事業を手がけるエイベックスや、映画配給会社ギャガへの資本参加を行っており、「デジタルコンテンツプラットフォーム」構想の一環として、定着しつつあった常時接続による動画配信サービスに進出した。

GyaOは、どのネットワーク事業者や、インターネットプロバイダに契約していても利用できることをセールスポイントに、コンテンツに挿入されるCMやバナー広告、番組スポンサード、顧客プロフィールに基づくセグメント広告による収益を見込んでいた。

キラーコンテンツのひとつが、2006年11月スタートの「GyaOジョッキー」。平日夜の生配信番組で、アイドルやお笑い芸人と、視聴者がチャットで直接コミュニケーションできるのが特徴だった。この番組、当初は一般ユーザーからの番組企画も公募していた。実は、当時ただの高校生だった筆者もアイデアを投稿して、打ち合わせまで進んだのだが、結局のところ実現しなかった。真相は不明だが、最終的に「全員プロで行こう」となったのだろうか。

いま振り返ると、このエピソードがあった2006年の秋冬は、動画配信サービスにとって転換期だった。前年に誕生したYouTubeが11月、グーグルに買収された。そして12月には、ニコニコ動画がプレサービスを始めた。

このあたりを境に、ユーザー投稿型の動画コンテンツが好まれるようになる。当初は違法コンテンツの多かった投稿型サービスに対抗すべく、権利関係のしっかりした「公式配信」をアピールするも、受け入れられるまでには、想像以上に時間がかかったのではないか--というのが、ネット大好きアラサーである筆者の肌感覚だ。

「Yahoo!動画」から「GYAO!」へ

USENは2008年10月、GyaOを分社化。2009年4月にはヤフーの子会社となり、9月に「Yahoo!動画」とサービス統合された。そして2014年10月に、大文字の「GYAO!」へリニューアルされて現在に至る。

そんなGyaOの兄弟サービスとして、2007年6月に誕生したのが「GyaO NEXT(ギャオネクスト)」だ。当初はインターネットに接続した端末(STB)と、テレビを接続するもので、「完全無料」をうたったGyaOとは異なり、初期費用と月額使用料、端末代金(レンタルもしくは購入)が必要だった。

GyaO NEXTは、GyaOのヤフー売却後も、USENが持ち続けた。そして2009年12月、「U-NEXT(ユーネクスト)」に名称変更される。この事業は2010年12月に、子会社のU-NEXT社に承継され、同時にU-NEXT社の全株式を宇野康秀氏(当時USENグループ会長)へ譲渡した。

その後、U-NEXT社は2014年に、東証マザーズへ上場(現在は東証プライム)。2017年にはUSENと経営統合して、USEN-NEXT HOLDINGSとなり、現在に至る。いまではSTBなしで、パソコンやスマートフォンで、映像コンテンツを楽しめる。

「兄弟」がサービス終了の憂き目にあうなか、USEN-NEXT HOLDINGSのコンテンツ配信事業は堅調だ。2023年8月期の第1四半期決算(1月12日発表)では、前年同期比の売上高が11%増となった。営業利益率は8%減だが、「為替影響によるコンテンツ調達原価の増加等により微減益」と説明。

前四半期比では、売上高が3%増、営業利益率が38%増で、「ユーザー増による売上増に加え、利益率がやや改善したことで増益」としている。課金ユーザー数は第1四半期時点で283.7万人(前年同期比14%増、前四半期比3%増)だ。

「通信と放送の融合」への期待が高まっていた

筆者はGYAO!が、時代に踊らされた存在だと考えているが、そこには公式配信とユーザー投稿の関係性に加えて、補助線をもう1本引く必要があるだろう。いわゆる「ライブドア事件」だ。ライブドアによるニッポン放送(フジテレビ)買収騒動が、資本業務提携での和解に着地したのは、GyaOスタートと同じ2005年4月だった。

しかし、2006年1月に当時のトップが逮捕されると、状況が一変する。3月にフジテレビが保有するライブドアの全株を、宇野氏が取得すると発表。USENとの業務提携も行われ、GyaOとライブドアの相互送客がスタートした。なお宇野氏は翌年8月、「新経営陣・新体制を安定株主としてサポートする目的・役割を終えた」としてライブドア株を手放している。

その後ライブドアは、韓国NHNの日本子会社NHN Japanなどと経営統合し、大ヒットしたコミュニケーションアプリと同名の「LINE」社へと移り変わり、ヤフー(ZHD)と経営統合されている(なおライブドア事業は2022年12月、ミンカブ・ジ・インフォノイドに譲渡されている)。

ニッポン放送買収やGyaO誕生に前後して、日本国内では「通信と放送の融合」への期待が高まっていた。産官学それぞれに動きがあったが、NHKプラスや、民放テレビ局によるTVer(ティーバー)、テレビ朝日とサイバーエージェントのABEMA(アベマ)などが一般的になるのは、それから十数年の月日を要した。

「時代を先取りしすぎた」というのは簡単だが、礎があってこそ、いまがある。次世代に向けたレガシーとして、GYAO!に思いをはせてみるのも、また一興ではないだろうか。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)