在宅時間が延びた家庭が増えたためか、この数年は自宅で美味しいコーヒーを飲むための家電が増えています。そんななかでタイガー魔法瓶から、珍しいサイフォン式のコーヒーメーカー「Siphonysta ADS-A020」(以下、サイフォニスタ)が発表されました。推定市場価格が66,000円前後という高級モデルのサイフォニスタ、その使い勝手や味はどうか、新製品の発表会で実機をチェックしてきました。

一見するとなんの家電かわからないスタイリッシュなデザインのサイフォニスタ。発売は2月21日で価格はオープン、推定市場価格は66,000円前後。本体サイズは幅313×奥行き239×高さ366mm、重さは5kgです

サイフォニスタ本体(写真右)と、フラスコとロートの役割をする「シリンダー」(写真左)とよばれるパーツ。シリンダーを立てる専用スタンドも製品に付属します

○「お店で楽しむ」のが一般的なサイフォン式コーヒー

サイフォン式コーヒーとは、蒸気圧を利用したコーヒー抽出方式のこと。一般的なドリップ式とは一風異なる独特の味わいが楽しめるほか、熱湯がフラスコとロートを行き来する光景など、サイフォン式を好むコーヒー好きはたくさんいます。

ただ、蒸気圧をコントロールするために火力調整が必要なほか(アルコールランプやガスバーナーを使います)、抽出途中でヘラを使った攪拌(かくはん)が必要など、美味しく淹れるには技術が必要。抽出に10分以上の時間がかかることも多く、おもに「専門店で楽しむコーヒー」という印象があります。

今回のサイフォニスタは、サイフォン式の「抽出の難しさ」を家電にすることで自動化。加えてタイガー魔法瓶の持つ熱制御技術を応用し、「抽出時間の長さ」を最短2分40秒と格段に短縮しています。

発表会では、サイフォンコーヒーの競技会「サイフォニストチャンピオンシップ」にて数々の優勝実績を持つトップバリスタの中山吉伸氏が、サイフォン式の魅力を語りました。背景の写真は、古くからある手動のサイフォンコーヒーメーカー。喫茶店などで見かけたことがある人も多いのでは?

○酸味? 苦み? 抽出方法の違いで味のバリエーションが選べる

サイフォニスタの使い方は簡単。まず、シリンダーと呼ばれるパーツの下部に金属メッシュフィルターをセットし、コーヒー粉を入れます。その後、上部パーツに水を入れて本体にセット。水は最大290mlとなり、コーヒーカップだと約2杯分。マグカップなら中サイズのものに約1杯分なので、「コーヒーをガブガブ飲む」というより「一杯の味を大切に楽しむ」場面に向いています。

シリンダー部を分解したところ。左から、揚水パイプとつながっている金属メッシュフィルター、下シリンダー、ジョイント、上シリンダー、フタ。ジョイントとメッシュフィルター以外は食洗機の使用が可能です

下シリンダーにフィルターをセットし、コーヒー粉と水を投入。

カプセルを組み立てたら、本体に差し込んでロックします

シリンダーをセットしたら、あとは抽出方法を選んでスタートボタンを押すだけ。抽出方法は「味(酸味 ← → 苦み)」と「ボディの強さ(軽い ← → 重い)」をそれぞれ3段階から選択可能。

また、サイフォニスタ独自の2段階温度抽出法を採用した「Dual Temp」という抽出方法も選べます。このDual Tempモードは、抽出途中で湯温を下げるタイガー独自の抽出方法。雑味が出やすい抽出後半で湯温を下げることによって、コーヒー豆本来の個性がより際立つコーヒーを淹れられるそうです。

非通電時は丸形の模様のようにみえるデザインですが、シリンダーをセットすると自動的に電源が入り、メニュー表示が光って浮かび上がります。上の段が「味(酸味 ← → 苦み)」、中央の段が「ボディの強さ(軽い ← → 重い)」、一番下のスタートボタン横にあるのが「Dual Temp」用のボタンです

二段階温度抽出法の特徴と流れ

○タイガー魔法瓶ならではの「スチーム」と「ヒーター」技術を採用

サイフォン方式を知っている人から見て、サイフォニスタで驚くだろうポイントは抽出開始の早さ。一般的なサイフォンは、水を入れたフラスコの底をアルコールランプやヒーターで温めて水を沸騰させるため、沸騰までの時間が長いのです(お店では最初からお湯を使うことも)。

タイガー魔法瓶といえば、業界で「沸騰時間最速」といわれる電気ケトルのメーカーでもあります。サイフォニスタには、この電気ケトルで使われているのと同じプリントヒーターを採用し、すばやい加熱と繊細な温度制御を実現。サイフォニスタのスタートボタンを押してから20秒ほどで、コーヒー抽出の最初の工程である「蒸らし」が始まります。また、蒸らし工程ではコーヒー粉全体にスチームを吹き付けて、蒸らしムラを減らす工夫も。「熱制御技術」に強いタイガー魔法瓶らしいこだわりを感じる抽出方法です。



【動画】サイフォニスタでコーヒーを抽出するところ。一部、早送り再生しています(音声が流れます。ご注意ください)

一般的なサイフォンコーヒーは、下のフラスコに水、上のロートにコーヒー粉をセットしますが、サイフォニスタはあえて上下の役割を入れ替えているのもポイント。金属メッシュフィルターで淹れたコーヒーは、コーヒーの油分も多めに抽出されてより香り高く深みのあるコーヒーが味わえますが、コーヒーの微粉が混じるというデメリットもあります。サイフォニスタはフラスコとロートの役割を上下入れ替えることでコーヒーに混じる微粉の量が(一般的な金属フィルターを使用したサイフォンより)少なく、飲みやすくなっているとのこと。

動画を見るとわかるように、抽出後半ではサイフォン式ならではの「かくはん」工程もしっかりあります。抽出後にフィルターで濾過(ろか)したコーヒーが上シリンダーに噴水のように吹き上がる様子も面白く、「抽出工程も楽しむ」というサイフォン式ならではの楽しみ方もちゃんと味わえますね。

抽出後のコーヒーは、シリンダーの横にカップをセットして、抽出バーを引いて注ぎます。液だれもしないし、これは便利!

○味はどう?

コーヒーといえば、やっぱり気になるのは味。実際のところ、サイフォニスタで美味しいコーヒーは抽出できるのでしょうか? 毎日1.5Lのコーヒーを飲むというマイナビニュース +Digitalの林編集長が試飲。「口に入れると華やかな香りがまず鼻に抜けて、コーヒーのパンチや苦みもしっかり感じられます。なのに、コーヒーを飲み込んだあとは口の中に変な後味が残らず、スッキリとした印象」とのことでした。



当たり前ですが、見た目は普通のコーヒー。金属メッシュフィルターを採用しているので、光の加減で細かなオイルが浮いているのが見えました

サイフォン式コーヒーのプロである中山氏は、「サイフォンらしい香りの立ち方や、スッキリした味わいをここまで再現できるのか! と、うれしくなりました。プロが駆け出しのころに練習で淹れるサイフォンコーヒーより美味しい(笑)」とのこと

私たちよく利用する一般的なドリップコーヒーは、コーヒー粉に熱湯を通して濾過する「透過式」と呼ばれる抽出方法です。一方、サイフォン式はコーヒー粉を一定時間熱湯に漬け込む「浸漬式」と呼ばれる抽出方法。

タイガー魔法瓶は、この抽出方式の違いによって、サイフォン式はドリップ式では抽出されにくい一部の成分をより効率良く抽出できるとしています。このため、透過式(ドリップ式)と比べて複雑な香りや味(コーヒーの個性)を引き出しやすいそうです。参考までに、浸漬式(サイフォン式)は抽出後半で出やすい雑味を抑えて抽出できるため、深みのある味のコーヒーでも後味がスッキリしやすいんだとか。

見た目のかっこよさ、コーヒーの美味しさ、そしてコーヒーを抽出する過程のエンターテインメント性。さまざまな魅力があるサイフォニスタですが、実は日本に先行して2022年にアメリカでクラウドファンディングを実施しています。アメリカでは4日で目標金額を超え、最終的には目標金額に対して271%達成という高い注目度があったそうです。日本でも「サイフォン式コーヒー」が受け入れられるのか、発売後の動向に期待したいと思います。

マイナビニュース +Digitalの林編集長とサイフォニスタ。最大2カップ分ということで、インパクトのある見た目ですが比較的コンパクトな印象です

倉本春 くらもとはる 生活家電や美容家電、IoTガジェットなど、生活を便利にする製品が大好きな家電ライター。家電などを活用して、いかに生活の質をあげつつ、家事の手間をなくすかを研究するのが現在最大のテーマ。 この著者の記事一覧はこちら