『祝祭のハングマン』(中山 七里)

はらせぬ恨み、はらします!?

 昨年だけでも6冊新刊を上梓されている中山さん。多作の鍵はインプットの量にあるという。

「小学生の頃から1日1冊ペースで、しかも好き嫌いをしないよう、いわゆる古典や名作とされるミステリーも手当たり次第に読んできました。書店で目をつぶって、文字通り手が当たった本を買うことも。その蓄積がプロ小説家としての底力になっています」

 2023年最初の新作となる本書も、摂取し続けた名作から生まれた。

「ずばり、現代版・必殺仕事人です。昔から好きなシリーズなんですが、執筆にあたりドラマを見直して気づくのは、仕事人というのは世代も性別もスキルもばらばらなメンバーの寄せ集めなんですね。なので、今作でも異なる個性の、普通なら出会わないはずの三人が、ある事件をきっかけに手を組むというところから始めました。ハングマン=私刑執行人の誕生の物語なので、前半でチーム結成の過程に説得力を持たせるのが重要だなと」

 警視庁捜査一課の女性刑事・瑠衣は歩道から突き飛ばされたらしき男の轢死現場に行き合わせる。奇しくも被害者の藤巻は瑠衣の父が勤めるヤマジ建設の社員だった。藤巻の死が殺人と断定された矢先、ヤマジ社員・須貝が地下鉄駅の階段で転落死する。事故か殺人か……。偶然とは思い難い死の連続に警察もヤマジ建設に疑念を持つが、会長と秘書は狷介に容疑を逃れる。そして第三の死者――瑠衣の父が工事現場で鉄骨の落下により亡くなる。

「必殺仕事人で主水が同心であるように、現代なら警察官がメンバーにいると事件に関わっていきやすい。ただ、今の価値観では司法の立場で私刑を容認するには、江戸時代とは違う葛藤があるはず。瑠衣がハングマンとなるのか否か、というのはテーマのひとつとして重視しました。登場人物の言動に筋が通っていて、魅力的に、読者に受け入れられれば、後半の事件は勢いに乗って読み進めてもらえるので」

 被害者の身内であるため捜査からも外され、父の死の責を誰にも問えない無念を抱えた瑠衣は、元刑事で探偵の鳥海を訪ねる。彼は独自で須貝殺しの犯人を追っていた。鳥海と、部下で情報収集のプロの比米倉から、ある計画を聞き衝撃を受ける瑠衣。法が罪人を裁けない時、自力で恨みをはらすことは果たして許されるのか……。反目しつつも“私刑”のためだけに団結する三者三様のあり方に引き込まれる。

「プロット段階で彼らの幼少期からこの先まで大体見通しているので、ハングマンたちに興味を持ってもらえたら過去・未来も書いてみたいですね」

なかやましちり 1961年岐阜県生まれ。2009年『さよならドビュッシー』で「このミステリーがすごい!」大賞受賞、デビュー。『護られなかった者たちへ』等著書多数。

(「オール讀物」2月号より)

◆中山七里さんの刊行記念インタビューが「本の話」ポッドキャストでお聴きいただけます