男子バレー日本代表
郄橋藍 インタビュー後編

(前編:「複雑な気持ち」だったイタリアでの起用法。それでも「身につけられることがある」>>)

 2022年の男子バレー世界選手権で、日本代表はベスト16に進出。決勝トーナメントの初戦で東京五輪王者のフランス相手に善戦するも、フルセットの末に敗れた。攻守にわたってチームを支えた郄橋藍は、その敗戦に悔しさを感じながら、「日本にとっていい部分もあった」と感じた部分があるという。

 その経験を経て臨むセリエA2年目のシーズンは、開幕から2連続で試合全体のMVPに選ばれてから好調を維持。2年目で得た自信や、「バチバチした」という石川祐希との日本人対決についても振り返った。


イタリア・セリエAで対決した郄橋(左)と石川

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――2シーズン目のセリエAでのプレーについて詳しく伺う前に、2022年夏の世界選手権を振り返りたいと思います。キャプテンの石川選手が直前のネーションズリーグファイナルで足を捻挫して万全ではない状態でしたが、チームの雰囲気はいかがでしたか。

郄橋 石川選手が万全ではないからといって、チームとしてはそこを言い訳にはできないですし、相手にも「今の日本の弱みだ」と思わせてもいけなかった。その点は他の選手が補うことができて、チームとしてのダメージもそこまで大きくなかったように思います。僕個人としても、「シーズンを通してやってきたものを世界選手権で出し切ろう」という強い気持ちで臨んだので、動揺はありませんでした。

――対角を組んだ、同じ大学生の大塚達宣選手(早稲田大4年)とのプレーはどうでしたか?

郄橋 大塚選手とは年齢が近くてどんなことでも話しやすく、変に気を使わない選手なので対角でプレーできてよかったです。力を合わせて得点を取りにいこうという意識も共有できていました。もちろん、同じポジションを争う選手として負けられない思いもありますが、世界選手権はいい形で支え合うことができたと思います。

【初めての世界バレーでの収穫と課題】

――郄橋選手にとって初の世界選手権の試合でもあった、初戦のカタール戦は硬さもありましたか?

郄橋 どうなるかなと思っていたんですが、意外と硬さはなかったですね。内容もよくセットカウント3−0で勝つことができました。

――第2試合のブラジル戦は、第1セットは競り合ったものの、以降は一方的な展開で敗戦となりました。

郄橋 1セット目にかなりいい形を作れていたのに、それを取り切れなかったことで流れを持っていかれてしまった。そこは日本が追究していかなければいけないポイントです。強豪国が相手の試合こそ、最後の25点までをしっかり取る必要がありますね。

――予選グループ最終戦の相手だったキューバは、能力が高い選手が多くブラジル相手にフルセットに持ち込むなどチーム力もありましたが、うまく戦えて3−1で勝ちました。

郄橋 キューバの選手たちは身体能力が高く、これまで戦ったことがない未知の相手でもありました。でも、自分たちのいいバレーができて、それが結果にもつながったと思います。

――そして決勝トーナメント1回戦は、東京五輪で金メダルを獲得し、2022年のネーションズリーグも制したフランス。対戦国がわかった時はどう思いましたか? 

郄橋 フランスはどこのチームが相手でもいい戦いができる強いチームなので、「フランスか......」という気持ちにもなりました。でも、決まってしまったことはしょうがないですし、あまり気にしすぎず、しっかりフランス相手にも自分たちのバレーを展開するだけだと思っていました。

――フランス戦の第1セットは大差で取られましたが、そこからシーソーゲームの展開でフルセットでの惜敗。第1セットを取られてから盛り返せた要因は?

郄橋 第1セットは、やはりフランスを意識しすぎていたのか、チーム全体で力が入りすぎていた部分がありました。でも、試合が進む中でコンディションがすごく上がっていった。1セット目の取られ方を気にせず、気持ちを切り替えて2セット目に臨めたことが、競った試合にできた要因だと思います。

――最終第5セットは、一度は日本がマッチポイントを握ったところから逆転負けとなりました。

郄橋 日本としては収穫もあったと思います。フランス相手にあそこまで戦えるというところは証明できた。選手ひとりひとりが能力を上げ、高みを目指さなくてはいけないという思いが強くなりました。

【イタリア2年目のスタートは「最高の形」】

――実際に郄橋選手も、大会後には「やっていた直後はすごく悔しくてたまらなかったけど、時間を置くと、ちょっと見方が変わった」ということを話していましたね。

郄橋 そうですね。あと一歩のところで勝てなかった悔しさはもちろんありましたが、また自分を強くさせてくれるモチベーションになりました。日本の選手が、世界から注目されるきっかけにもなったと思います。セリエAでも、相手が「日本の高橋藍だ」と意識することも増えたかもしれない。それはいい刺激になりますし、そういった点でもフランス戦の惜敗は日本にとっていい部分もあったんじゃないかと思います。

――来年はパリ五輪の予選があります。それに向けての意気込みを聞かせてください。

郄橋 来年のことはあまり考えすぎないようにしています。まずはセリエAの2年目のシーズンで結果を出していくことが一番。そうして来年度の日本代表に選ばれなくてはいけません。そのために今はシーズンに集中して、しっかり成長していきたいです。

――その2年目のセリエAですが、ここまでの手応えはいかがですか?

郄橋 どういうプレーができるのかを見せるためにも、開幕戦はすごく大事だったので、2連続MVPで入れたことは大きかったです。昨シーズンよりも成長している姿をずっと見せていかないといけないシーズンですから、いい形でシーズンインできたことは、自信やモチベーションにつながりました。

――それでも、2連続でMVPに選ばれるとは思っていなかったのでは?

郄橋 そうですね(笑)。想像はしていませんでしたが、常に「自分の一番いいプレーを出す」ということにフォーカスしてやってきたので、それが最高の形で表れたのかなと思います。

――今シーズンのホームでのミラノ戦で郄橋選手の名前が呼ばれた際には、ひときわ大きな歓声が上がっていましたね。

郄橋 地元のファンから大きな歓声をもらえることは本当にうれしいです。応援はすごく力になりますし、期待される分、「それに応えなくてはいけない」といういいプレッシャーにもなる。それがモチベーションになり、成長につながっていると思います。

【石川との対決で意識したこと】

――応援の仕方も、「タカタカタカ」といった郄橋選手個人を応援するチャントがありますね。

郄橋 それもうれしいです。他にも、「ガンバレ、ガンバレ」「アリガト、アリガト」と日本語で声をかけてくれることもありますね。ファンの方たちに愛してもらえているんだな、と感じます。

――そのミラノ戦で、石川選手との2度目の日本人対決が実現しました。昨シーズンの対戦とどう違いましたか?

郄橋 昨シーズン、僕はリベロでの出場だったので、本来のアウトサイドヒッターで出場できた今年は「本当の対決ができる」と気持ちが昂りました。うれしさもありましたし、「石川選手に負けたくない」と思えたのも昨年との大きな違いですね。

 石川選手とネットを挟んでプレーすることは、自分にとってすごくいい刺激になります。石川選手の堂々とした余裕があるプレーは、相手チームから見ても勉強になるところが多い。結果はこちらが負けてしまいましたが、日本人対決ができることは成長のための糧になります。

――第1セットは競り合う展開になりましたが、試合の途中からお互いにサーブで狙っていませんでしたか?

郄橋 そうですね(笑)。たぶん僕が最初に狙い始めて、石川選手も狙ってくるようになった感じだと思います。そこはバチバチしましたね(笑)。

――石川選手が相手チームにいることで、やりづらさなどはなかったんですか?
 
郄橋 日本代表で一緒にプレーをしている時とは違うんですが......言葉では表しきれない不思議な感じでした。「相手に石川選手がいる」と思うことが、すでに意識をしているということですし、プレーにも少し影響がありましたね。スパイクを打つ時も、石川選手のほうには打たないこともあったり。同じ日本人選手、しかも自分が尊敬する選手がいるということで、意識する部分は多かったなと思います。

――やっぱり石川選手は今でも目標?

郄橋 目標......目標というか、選手として尊敬しています。その上で、「石川選手を超えたい」「違う選手になりたい」という思いもあります。石川選手の技術、意識の高さなどはどんどん自分のものにしつつ、僕ならではのプレーを確立していきたい。「郄橋藍」という選手の色を強くしていきたいです。

【プロフィール】
郄橋藍(たかはし・らん)

2001年9月2日、京都府生まれ。兄の郄橋塁(サントリーサンバーズ)の影響で小学校2年生よりバレーボールをはじめる。東山高校3年生時にはエースとして国体、春の高校バレーで優勝し、2020に日本代表初選出。2021年の東京五輪では全試合にスタメン出場し、男子バレー29年ぶりの決勝トーナメント進出に貢献した。現在は、日本体育大学に在学しながら、イタリア・セリエAのパッラヴォーロ・パドヴァで活躍中。