日本に戻りつつある外国人観光客。彼らの日本に対する本音はあまり変わっていない(写真:PIXTA)

2022年10月11日、3年近く禁止されていた外国人観光客への日本の国境が再び開かれたことは、皆さんもご存じのとおりです。多くのフランス人も、観光で、勉強で、ビジネスで、ワーキングホリデーで、と日本への渡航を待ち焦がれていました。

私も秋にフランスから日本に帰国していたので、日本に戻ってきた外国人の姿を見るのはうれしいことでした。現在でも日本はフランス人のお気に入りの旅行先の1つです。そこで今回は「コロナ後の日本」を初めて訪れたフランス人たちが率直にどう感じたかを聞いてみました。

「肉の品質の高さに驚いた」

パリ郊外に住む20代のコンピューター・エンジニアのクレモンは、2週間の旅行で初めて日本を訪れました。親友が数カ月間日本に滞在していたのを利用してのことです。以前から日本に行きたいと思っていた彼はこの休暇をきっかけに、いつか日本に住みたいと思うようになったといいます。

「日本で一番印象に残ったことは」という質問に対して、彼は迷うことなく「食べ物!」と答えました。「外国に行ったときにさまざまな食事を試すことは、自分の料理の腕を上げるためのヒントになります。日本食は料理の中にさまざまなフレーバーがあり、とても興味深いものでしたが、私が本当に気に入ったのは、肉の品質です。焼肉店の牛肉はとても柔らかく、アッサリとしていて、大トロ寿司のような食感でした」。

1人で行った寿司屋ではとても歓迎されといいます。言葉が通じない外国人であっても、くつろぐことができたそう。ある寿司屋では4時間以上もカウンターで寿司を楽しみながら、さまざまな日本人に出会ったといいます。

もう1つ印象的だったのは、日本人同士にある尊敬の念だそう。日本人同士はもちろん、外国人に対する尊敬の念も感じたといいます。クレモンは「人々がつねに衝突しているパリとは、お互いに対する尊敬の念がまったく違う」と話します。

この点については私も同意見です。私自身、パリと日本の橋渡しをしていて、特に日本に到着した最初の日は、いつもこの違いを感じています。日本はフランスに比べても、また世界のほかの国々と比べても、礼儀と尊敬の念のレベルが非常に高いというのは、本当にその通りではないでしょうか。

東京の夜景、人々の親切さ、高い建物、その雰囲気すべてが、クレモンを子どものような気持ちにさせたといいます。「まるで子どもの頃に戻ったように、ワクワクするような環境に圧倒された気持ちになりました」。

なくしたスマホが本当に見つかった

東京を訪れたフランス人観光客が必ず口にするのが、治安の良さと盗難の心配がないことの素晴らしさです。新宿や渋谷、東京駅のような大混雑の中でさえ、バッグや財布、スマホにつねに気を配らなければならない、ということがありません。それどころか、電車の中で失くしたスマホを再び見つけることができるのは日本だけとも言われています。

東京に数カ月滞在していたフランス人青年ヴァンサンは、自分のスマホでこの"実験"をすることができました。彼はパーティーをした後、渋谷から早朝に帰ってきた地下鉄の中で眠ってしまったのです。そのとき、スマホを紛失してしまい、それに気づいたのは翌日でした。

日本語のできる友人と地下鉄の路線(多くの外国人にとっては大変複雑なシステム)を調べ、スマホの場所を特定し、駅に取りに行きました。「都市伝説」通り、スマホが見つかったのです。パリでは紛失物をこんなシステマティックに見つけられる仕組みはないので、いったん何かをなくしたら見つけるのはほぼ不可能です。ヴァンサンは日本人の誠実さや、顧客に対するサービスの質の高さに心底驚いたといいます。

日本の治安の良さは旅行者にとって日本人が思っている上にすばらしいものです。例えば、カフェでパソコンを机に置いたたままトイレに行ける、というのはパリで話しても誰も信じてくれないような「おとぎ話」です。特に夜1人で安全に出歩けるというのは、多くの女性旅行者にとって大きな「プラス」です。

24歳のラファエルは、ワーキングホリデービザで来日しました。このビザは30歳以下の若者であれば、働くことと観光を同時にできる人気の高いビザで、彼は秋葉原のフレンチレストランで、17時から22時まで働くことになりました。

シェフを含むチーム全員が日本人なので日本語も上達したといいます。オープンキッチンで、まるで家族のように和気あいあいとした雰囲気の中、「スタッフ全員が真剣に集中している」ところが気に入ったといいます。


秋葉原のフレンチレストランで働くラファエル(写真右)。円安のおかげで交通費以外は安く感じるといいます(写真:筆者撮影)

私が最初日本に来たときは、住所がシステマチックではないため、どこに行くにも「花屋を左」「お蕎麦屋さんを右」と言ったように、場所を覚えたり、探すのに苦労した覚えがあります。ですが、今はグーグルマップがあれば世界中どこでも自分の知っている近所のように動き回れます。実際、ラファエルも「東京の街は便利」と言ってはばからず、どこに行くにも近くに何があるかよくわかっているようでした。

ラファエルはまた、滞在中にW杯のサッカー日本代表の試合を見て楽しむことができました。上野のスポーツバーでは、負けても応援をやめないサポーターに感動していました。

東京の地下鉄は複雑すぎる?

11月に2週間ほど初来日したフランスのコメディアンのナタリーには、フランスのラジオ局「Europe 1」の番組で、日本について語ったときに出会いました。彼女は特に京都が印象に残ったそうで、紅葉や永観堂の夜間拝観、そしてあらゆるレベルの実用主義に魅了されたといいます。

一方でパリ出身である彼女にとっても、東京の大きさは「怖いほど」だったそう。特に地下鉄路線図の複雑さにおじけ付き、基本的にはどこへ行くにも歩くようにしていました。ただ東京ほど大都市は歩いて回るのは無理があります。

一度、彼女と両国で待ちわせた際も、彼女はなんと日本橋から歩いてやってきました(電車で来ることを勧めたのですが……)。その後、私たちは英語で落語を楽しんだり(外国人からの人気が高まりつつあります)、茶道に挑戦したりしました。日本の文化や伝統に触れられる機会はこれまで以上に関心を持たれているようです。

そんな日本を絶賛するナタリーが不満に思ったことは?「江戸東京博物館が休館していたことと、全国旅行支援の影響で東京と京都のホテルの週末予約が難しかったこと」だといいます。ですが、そのおかげで「カプセルホテル」を体験することができ、この体験もフランスで伝えていきたいと話していました。

今後も、日本に「戻ってくる」外国人の数は増えていくことが予想されますが、外国人が日本に求めていることや体験はコロナを経ても大きくは変わっていません。治安やサービスの良さ、人の親切さ、変わらない伝統や文化――日本に必要なのはけっして奇をてらうことではなく、ありのままのよさに磨きをかけることかもしれません。


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(ドラ・トーザン : 国際ジャーナリスト、エッセイスト)