2022年6月、文部科学省が「令和3年度 児童生徒の近視実態調査(2021年度実施)」の結果を公開し、多くの小中学生の間で近視が進んでいる実態が明らかになりました。詳しい解説を、目の健康について自身のYouTubeチャンネルほか、テレビや新聞、雑誌などでも発信している眼科専門医の平松類先生に、SBSアナウンサー牧野克彦が聞きました。

【写真を見る】小6児童の半数近くが「視力1.0」未満… 原因はスマホだけじゃない!近視予防に“1日30分”外に出る習慣を

平松;子どもの視力低下が年々進んでいることは、以前からわかっていたのですが、今回の調査で視力1.0未満の子が、小学1年生男子で20.5%、女子で21.1%、6年生男子で46.7%、女子で53.7%、中学3年生男子で57.5%、女子に至っては64.9%と年齢が上がるに連れて、非常に増えてきていることがわかりました。

さらにこれまで、視力低下の理由が単に近視なのか、ほかの病気も影響しているのかまではわからなかったのですが、今回の実態調査で眼軸(角膜から網膜まで)の長さを調べることができたので、近視が視力低下の主な原因であることも明らかになりました。

来年度以降もこのような調査を継続していくことで、近視の増え具合などより細かいデータを得られるようになると思います。

ゲーム機で動画を見る子も少なくないよう
子どもの近視が進んでいる理由、近視は予防できる?

牧野;近視が進んでいる、そもそもの理由は何でしょうか。

平松;よくいわれているのは、「外で遊ばなくなったから」ということですね。すでに中国、シンガポールをはじめとするさまざまな国から、外遊びをする子の方が視力がいいという研究結果が出ています。

スマートフォンやゲーム機などを含むデジタルデバイスを手元で見る時間が増えていることも、当然影響はあります。

牧野;外遊びが大切だというのは、外にいるとそういったデジタルデバイスに触れる時間が減るから、ということでしょうか。

平松;それももちろんありますが、外にいると屋内にいるのに比べ、自然と遠くを見る機会が増えるからです。「常に遠くを見るよう意識して」というほどではないですが、できるだけ遠くを見るよう日頃から心がけていただきたいです。

普段、外で遊ぶことがないという子には、1日30分でもいいので、外で遊ぶ習慣を持たせてもらえたらと思います。大人の場合も散歩を習慣化させるなどして、外で過ごす時間を積極的につくってください。

外で過ごすことがどうしても難しい場合、屋内でゲームや本を読んで過ごすのなら、子どもの場合は30分に1回、大人でも1時間に1回は顔を上げて、遠くを見るようにしてください。遠くといっても2m以上離れていれば十分ですので、屋内でもできることだと思います。

子どもでも紫外線対策は必要か

牧野;外は紫外線が目に悪いのではないかと気になりますが、いかがでしょうか。

平松;紫外線が目に与える影響については、まだ専門家の間でも議論中ですが、実は一部に近視にいい影響を与える光があるというデータもあるんです。こちらは慶応義塾大学から報告されています。

ただ、それでも基本的にはデメリットも多いので、あまり浴び過ぎないように気をつけていただきたいです。紫外線を浴び過ぎると、例えば、白内障や翼状片といって、白目が黒目にかかってくるような病気が出たり、目に傷がついてしまったりすることもあります。

牧野;浴びすぎには注意ということですね。子どもでもサングラスのようなものをした方がいいのでしょうか。

平松;目元が見えないほど濃いサングラスまでは必要ないですが、外で遊ぶのが長時間になる場合は、紫外線だけカットできる色付きのメガネがおすすめです。「少し気をつけてもらえれば」というくらいです。

すでに近視の症状がある場合は

牧野;すでに遠くが見えづらい、近視の症状が出ている場合はどうすればいいでしょう。

平松;まずは本当にただの近視なのか、その他の病気がないか、眼科を受診していただきたいです。

牧野;近視以外ではどういうことが考えられますか。

平松;子どもの場合は弱視といって、目の発育が悪かったり、大人だと白内障や緑内障の可能性もあります。実は緑内障は子どもでもなり得る病気ですので、検査もしないで近視だと決めつけてしまうのは怖いですね。

近視は治療できる? 進化する近視治療法

牧野;診断を受けて近視だった場合、治すことはできるのでしょうか。

平松;昔は、近視は治療のしようがないといわれていたんですが、現在は低濃度アトロピンとオルソケラトロジーという2つの治療法が知られています。前者はアトロピンを0.01%配合させた点眼薬を眼にさすというもの。それによって近視の進行を抑制する効果が期待できます。

牧野;進行しないようにする、つまり回復ということではなく悪化を予防するということですね。

平松;もう1つのオルソケラトロジーは、オルソケラトロジーレンズという特殊なコンタクトレンズを寝ているときにつけることで、起きているときは裸眼で普通に見えるようになるというもの。視力の回復、近視の進行抑制も期待できる治療法になります。ただ、どちらも保険適用外の自由診療になるので、費用は医療施設によって変わります。

医療は日々進化していますが、まずは治療する必要がない状態を保つことが一番です。この機会に目を休める習慣づけをして、一生付き合っていくパートナーを大事に労ってほしいと思います。