気になるふけの原因と対策法をご紹介します(写真:asu0307/PIXTA)

パラパラと頭から落ちてくる不快な「ふけ」。髪の毛や衣服に付着していると「不潔に思われてしまうのでは」と気にする人も多いだろう。実はどんな健康な人にもふけは生じているという。ふけには種類があり、その種類によって症状や原因も異なる。

ふけが生じるメカニズムや、ふけが過剰に出てしまう皮膚疾患、対策などについて、皮膚科専門医の近畿大学医学部教授の大塚篤司医師に聞いた。

「ふけは体の垢と同じく、古くなった頭皮の角質が新陳代謝して剥がれ落ちたもの。通常は洗髪することで自然に取り除かれているので目立つことはありません。ただし、なんらかの原因によって、頭皮の皮脂や皮膚常在菌のバランスが崩れてしまうと、ふけとして目立つようになってしまいます」と大塚医師は話す。

頭皮は体のなかでもとくに皮脂の分泌が盛んな部位だ。皮脂や汗などを栄養とする皮膚常在菌が存在していて、洗髪などで清潔が保たれていれば雑菌の繁殖を防ぎ、頭皮の健康に役立つように働いている。だが、皮脂が多くなると必要以上に増殖してしまう。

「この皮膚常在菌の正体はマラセチアというカビ(真菌)の一種で、皮脂の多い場所を好むのが特徴です。皮脂の多い環境下で増殖しすぎると、脂漏性皮膚炎という炎症を起こしやすくなります。脂漏性皮膚炎は皮膚の赤みや湿疹、かゆみなどを伴い、黄白色でベタベタしたふけやかさぶたのような大きめのふけが頭皮に生じます」(大塚医師)

2対1で男性に多い脂漏性皮膚炎

脂漏性皮膚炎は頭皮だけでなく、皮脂の分泌が盛んな顔の表面などにも生じる。とくに髪の生え際、Tゾーンなどだ。男女比は2:1で男性に多く、幅広い年齢にみられるが、乳児と中高年、とくに50歳以降に多いという。

「成人の脂漏性皮膚炎は、洗髪不足で頭皮を不潔にしているような場合を除いて、加齢による皮脂のバランスの乱れが主な原因です。ですから、皮脂の分泌が盛んな10〜20代よりも、ホルモンなどさまざまなバランスが崩れはじめる中年期以降に多くみられます」(大塚医師)

脂漏性皮膚炎の主な症状は「ふけ」だが、間違えられやすい症状や病気はあるのだろうか。

「ふけが出るという点では、尋常性乾癬(かんせん)と症状は似ています。尋常性乾癬とは、赤いブツブツした発疹ができ、やがてふけのようなカサカサした白いかさぶたができる皮膚の病気です。ただし、尋常性乾癬の場合は頭皮や髪の生え際のほか、膝や肘など外からの刺激が多い場所にも発疹が出ます。初期症状として爪の変形なども見られるため、頭皮だけでなく体にも何か症状が出ているかどうかでおおむね判別できます」(大塚医師)

このほか、柔道やレスリングなどの格闘技選手の間でよくみられる「ケルスス禿瘡(とくそう)」とも似ているという。

「ケルスス禿瘡は水虫と同じカビの仲間である白癬菌が頭部に感染して、ふけと頭皮の強いかゆみ、脱毛などが生じる病気です。競技者間の接触のある競技部内などで発生すると、体が擦れ合うことでこのカビをうつし合ってしまい、部内でみるみる病気が拡大します」(大塚医師)

脂漏性皮膚炎は他人にうつることはないが、ケルスス禿瘡は他人に感染する病気だ。また、ケルスス禿瘡のかゆみは激しく、多くの場合、脱毛も伴う。この違いで判別できるという。

また、ふけには乾いた「乾性ふけ」もある。これは過剰な洗髪などによる頭皮の乾燥で生じるふけだ。ちょうど、足のかかとなどが乾燥して白く粉を吹いた状態になるのと同じで、頭皮も乾燥すると皮膚の角質がふけとなりやすいという。

もともと乾燥肌の人やアトピー性皮膚炎の人は乾性ふけが生じやすいため、髪の洗いすぎによる頭皮の乾燥には注意が必要だ。

市販の薬用シャンプーも○

では、脂漏性皮膚炎はどのように治療するのだろうか。

「炎症による赤みもひどくなく、おもに皮脂の過剰によるふけ症状であれば、市販の薬用シャンプーで1日1回洗髪するだけで症状が改善することも多いです。気になる場合は、薬局やドラッグストアで薬剤師に相談してみてもいいでしょう。そして、なるべく頭をかかないようにすることですね。頭皮をひっかいて傷つけてしまわないことが、治りを早めるためにはとても大切です」(大塚医師)

脂漏性皮膚炎に効果があるのは、マラセチアの繁殖を抑える作用のあるミコナゾール硝酸塩を配合した薬用シャンプー・リンスだ。「コラージュフルフルネクスト(持田ヘルスケア)」や「メディクイックH頭皮のメディカルシャンプー(ロート製薬)」などをはじめ、さまざまなメーカーから発売されている。

「脂漏性皮膚炎の場合、洗髪時の洗い方も大切です。シャンプーはよく泡立てて洗ってください。爪を立てずに指の腹でやさしく洗うのがポイントです」(大塚医師)

洗髪不足は脂性ふけの原因になるが、洗髪のしすぎもまた、乾性ふけを発生させてしまうので注意が必要だ。もし頭皮が乾きすぎているなと感じたら、肌用のローションでこまめに保湿をしてもいいと大塚医師は言う。

病院やクリニックへの受診はどのような場合に考えるべきだろうか。

大塚医師によると、ふけ症状だけで受診する人は少ないが、かゆみ症状が出てくると受診が増えるという。

「頭皮のかゆみで仕事が手につかないなど、日常生活に支障が出るほどであれば、皮膚科専門医を受診してほしいと思います。かゆみはそれほどでもなくても、赤みや炎症がひどいケースや、頭皮から汁が出るようなケースも念のため受診しましょう」(大塚医師)

脂漏性皮膚炎でも皮膚炎が悪化すると脱毛症状もみられることもあるという。炎症が治まれば通常は再び発毛してくるが、炎症が強いと皮膚の組織が線維化して瘢痕(はんこん)化してしまい、髪を育てる毛包も破壊されて毛が生えなくなってしまうおそれもある。そうなる前に早めに受診したい。

医療機関では炎症部位に抗真菌外用薬(ケトコナゾールなど)を塗る治療が中心だ。炎症が強く、かゆみがある場合は、抗炎症作用のあるステロイド外用薬も使われる。

ふけの指摘には気遣いを

自分自身ではなく、家族やパートナーなど、身近な人のふけが気になることもあるだろう。周囲は気になっているが、本人は気づいていないというケースもある。そうした場合に、傷つけないようにさりげなく本人に気づかせるには、どのような声がけをしたらよいだろうか。

「ふけが出ていることを伝えるのはなかなか難しいですよね」と大塚医師。本人にしてみれば、不潔であることを指摘されたようなものであり、傷ついてしまう。


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「ただ、ふけが出ているということは頭皮にかゆみも出ているはず。関係性にもよりますが、比較的親しい間柄であれば、ふけには言及せずに『頭かゆくない?』と聞いてみてもいいでしょう。ご夫婦や恋人同士なら、無言でそっと肩についたふけをとってあげてもいいかもしれない。風呂場に薬用シャンプーをさりげなく置いておいて使ってもらうのもいいかもしれません」

デリケートな人間関係でのふけの指摘は難しい。ただ、工夫次第では傷つけずに間接的に気づかせる手段はかならずあると大塚医師は言う。ぜひ、お互いにとって適切な方法をみつけてみてほしい。

(取材・文/石川美香子)


近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授
大塚篤司医師

千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。

(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)