ジャイアンツ時代のバリー・ボンズ氏【写真:Getty Images】

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ボンズ氏とクレメンス氏は現代委員会での投票でも票を伸ばせなかった

 MLBのウインターミーティングが4日(日本時間5日)、米カリフォルニア州サンディエゴで開幕した。期間中は、米国内外の野球関係者や各球団のGM、選手の代理人らが一堂に会し、FAやトレードなど選手の去就についての直接交渉などが行われるが、この日は、米国野球殿堂現代委員会による殿堂入り選出者が発表されたが、候補者8人の中で注目を集めた、史上最多7度のMVPを獲得したバリー・ボンズ氏と史上最多7度のサイ・ヤング賞を受賞したロジャー・クレメンス氏はともに落選となった。【サンディエゴ=木崎英夫】

 歴代最多762本塁打のバリー・ボンズ氏(元ジャイアンツ)、通算354勝のロジャー・クレメンス氏(元ヤンキース)の両氏は、現役時代に禁止薬物使用が取り沙汰され、全米野球記者協会(BBWAA)による殿堂入り投票では選考最終年となる10年目の今年も落選。元選手や球界幹部、ベテラン記者の16人で構成される現代委員会による栄えある米野球殿堂入りへの選出機会を得ていた。

 圧倒的な実績を残すボンズ氏とクレメンス氏の落選に思う。

 2人はともに禁止薬物検査で陽性反応が出たことはなく、薬物の使用を一貫して否定している。しかしながら、ボンズ氏は、サンフランシスコ郊外の栄養補助食品会社「バルコ」がスポーツ選手に非合法の筋肉増強剤ステロイドを密売し、それで得た巨額利益の脱税が明るみに出た“バルコ・スキャンダル”の捜査で同社との親密な関係が浮上。裁判では嘘をついたとして有罪判決(再審で無罪)を受け、また連邦政府が家宅捜索した個人トレーナーの投与記録の中にも記載されていたと言われている。

 クレメンス氏にも禁止薬物使用疑惑は付きまとい、トレーナーのみならず、ヤンキース時代に絆を深めたアンディ・ペティット投手からは「使用していた」との衝撃的な証言が飛び出している。

 これらの経緯が障壁となり、記者投票による殿堂入りが果たせなかった両氏だが、元選手や球界幹部が含まれる現代委員会による今回の投票でも4票未満に終わったことで、選考基準には「輝かしい実績だけを評価するものではない」という考えが根強いことが浮き彫りになった格好だ。

米野球殿堂入りに影響する「人格」

 薬物に関して、MLBは見て見ぬ態度を取ってきた。

 元ヤンキース投手のジム・バウトンが執筆し、1970年に出版されたMLB史上初の暴露本とされる『ボール・フォア』には、アンフェタミン系の興奮剤「グリーニー」を多くの選手たちが常用していたことが赤裸々に描かれ、バウトンは仲間からもバッシングを浴びるというエピソードが生まれている。

 薬物検査がMLBで本格的に導入されたのは2005年のこと。それ以前に殿堂入りを果たした元選手の中には成績を上げるために何らかの薬物を使用していた者が存在すると言っても間違いではないだろう。では、米野球殿堂入りへ「人格」はどのように影響しているのだろうか。

 殿堂博物館のジェフ・アイドルソン前館長は以前、スポーティング・ニュース誌のインタビューで、殿堂入りの選考基準に関して他のスポーツと比較して「人格」に重きが置かれている側面があると指摘され、自身の見解をこう述べている。

「おそらく、我々はアメリカの文化と歴史の大部分を担ってきたからでしょうね。そして、我々の国で人格は大きな問題だからです。野球はこの国そのものを反映しています。なので、人格はどんな風にでも決められます。どんな人物が評価されるべきかについては、誰もがそれぞれ異なる意見を持っていることでしょう。この指針のポイントは、選出の対象になっている人物が球界の顔に泥を塗ることがないことを確かにすることなのです」

ボンズ氏に付きまとう、疑義などを示す記述符号「*」

 2004年4月13日、ウィリー・メイズを抜く通算661号を放ち、歴代3位に浮上したが、その直前に出たスポーツ・イラストレイテッド誌の表紙になった顔には「*」が付けられていた。「*」は疑義や注釈などを示す記述符号「アステリスク」で、バリー・ボンズがこの先も本塁打を積み重ねて、ベーブ・ルース、ハンク・アーロンを抜き歴代1位の最多本塁打記録を樹立したとしても、ステロイド疑惑からコメ粒のようなアステリスクマークが付くというメッセージが込められている。

 あれから18年――。歴代1位の記録は認められても、バリー・ボンズ氏の米野球殿堂入りには、野球人としての人格にも「*」が付けられたということか。

 今回の選考では、禁止薬物使用で出場停止処分を受けた通算3000本安打&500本塁打のラファエル・パルメイロ氏、過去に差別的な発言が問題視された通算216勝、2度の最多勝利&最多奪三振とワールドシリーズMVPを獲得しているカート・シリング氏も選出されなかった。

 アイドルソン前館長の「球界の顔に泥を塗る」が重く響く――。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)