時間がかからず、成果にも結びつきやすい提案資料の作り方をご紹介します(写真:ヤシの木/PIXTA)

パワポの資料作りに時間がかかりすぎる――。そうした声をよく聞きます。一般的には1スライド当たり平均1時間ほどかかると言われており、単純計算だと10ページの資料を作るのに10時間かかってしまいます。しかし、元マイクロソフト役員で、業務のムダ取りコンサルタントの越川慎司氏は「資料作りに時間をかければかけるほど、結果に結びつかなくなる」と警鐘を鳴らします。時間がかからず、成果にも結びつきやすい提案資料の作り方について、越川氏の著書『仕事ができる人のパワポはなぜ2色なのか?』より、一部、抜粋、再編集してお届けします。

5万ファイルをAI分析してわかったこと

上司や役員に対して行う「絶対に通したい企画」のプレゼン。

他社には絶対に負けられないプレゼン。

そんな「勝負どころ」のプレゼンで、あなたはどんな資料を作るでしょうか。

きっと、気合を入れて、見た目も美しく、説得力のある文章を並べてデータや図が満載の立派なパワポ資料を作ろうと思う方が多いでしょう。

しかし、実は「立派なパワポ」ほど、相手を説得しづらくなるという事実を、あなたはご存じでしょうか。

私は、元マイクロソフトでパワポの責任者で、独立した2017年以降に5万ファイルのパワポ資料をAIで分析し、そこに使われている要素を分析しました。その結果、商談での成功率がもっとも高いパワポは1スライド当たり「105文字以内」、使われている色は「3色以内」でした。

3色以内といっても、そのなかで「2色」の割合がもっとも高かったのです。

なぜでしょうか。

ヒントはパワポを作る側ではなく読む側の立場に立つことです。プレゼンの席では、説明を受けながら同時に資料に目を通すことが多いはず。そこで、要素がぎっしりの資料を見せられても、読むことも難しいでしょう。

色数も多すぎると、目移りして目が疲れます。実際に2色の資料が相手にもっとも理解してもらいやすかったのです。

「相手の立場に立つ」という言葉は、いろんな場面でよく聞きますが、提案資料の作り方一つとっても、本当の意味で実践できている人は少ないのです。

仕事の本質を理解していれば、結果として色数も文字数も少なく、作る手間を省いた提案書づくりができます。

「短い時間で成果が出る」パワポ提案書3つの条件

本当に説明に自信がある人は、大勢の前でプレゼンテーションをするときであっても、ホワイトボードの前に立って、必要なことは、その都度、手書きしながら説明を進めたりします。逆に、凝りに凝ったパワポやエクセルの資料を投影しながら説明する人は、実は自信がなかったりするもの。

どこの会社にも一人は「パワポの達人」とでもいうべき資料作りの名人がいるかと思います。もちろん全員がそうとは言いませんが、パワポ達人は、意外と実質的な成果を生み出していないものです。

達人なだけに、会議などで説明するときに、ついパワポに頼ってしまうのかもしれません。あなたも、もし、カラフルで、文字やグラフを詰め込んだ、凝りまくりのパワポ資料「デコパワ(=デコラティブパワポ)」を作っていたら要注意! あなたの作る資料は、説明を受ける人たちの目をチカチカ、頭をクラクラさせているかもしれません。

豪華な資料ほど、作るのに時間と労力がかかります。せっかく、何時間も費やして作った資料が伝わらないのでは、時間のムダ。努力が浮かばれません。お客様へのプレゼン資料なら、成約にもつながらず、骨折り損のくたびれ儲けです。

では、改めて資料5万ファイルを分析した結果得られた、「読んでもらえるパワポ資料」の条件について、詳しくお伝えしましょう。

●画面の文字数は105文字以内

5万ファイルのパワポ資料における、「1画面に入っていた文字数」の平均は385文字でした。作った人はよかれと思っているのでしょうが、この文字数では、進んで読んでくれる人はいません。事実、1画面に300文字以上入ったパワポ資料を作っている営業担当者はあまり実績が出ていませんでした。

逆に、営業成績が高く、会社内でエースと呼ばれているような方たちが作るパワポの「1画面に入っている文字数」を分析してみると、平均値の3分の1から4分の1、たったの105文字でした。

パワポ1枚の文字数はこの105文字以内にしてください。

文字を羅列するよりも、少ない文字数で、「要は何か」ということが10秒で伝わるようなパワポ資料が成果につながります。

●画面に使う色は3色以内

「メラビアンの法則」を1度や2度は耳にしたことがあると思います。

簡単に言えば、「人は55%の情報を視覚から得ている」という法則。ですから、相手の目を疲れさせてはいけないのです。

カラフルで、原色がバンバン使われているパワポ資料は、それだけで見る人の目が疲れてしまい、それ以上続けて見る気力を失うことがわかっています。

ポイントは「相手の目を疲れさせないこと」

わかりやすいパワポ資料の条件は、「相手の目を疲れさせないこと」。パワポ資料に使用する色は、「原色以外で3色以内」がベストです! 具体的には、真っ赤よりはあずき色、真っ青よりはダークブルーです。

色数は3色以内と言いましたが、仕事ができる人の約4割は2色を使っていて、割合としては一番多いというデータもあります。

さらに高度なテクニックでは、白色をうまく使うと、より効果的だということもわかっています。白色とは、たとえば余白とか、白抜き文字のこと。重要な情報の周りに余白を入れたり、目立たせたい言葉を白抜き文字にしたりする。白抜き文字には、ろうそくのような効果があり、相手の頭に残りやすいことがわかっています。

●対角線を意識する

パワポ資料を見たとき、人の視線というのは、左上から右下に向かって、対角線上に移動します。そのうえで、興味を持ったら左上から右上へと移動するのです。

ですから、それを意識して、キャッチーな内容を左上に持ってくるようにする。目線誘導で、対角線上にアイコンを置くのが効果的です。

実際に、126社、1万8817人の営業担当者に2カ月間、上記の方法をトライアルで実践してもらった結果、資料の作成時間はマイナス20%を実現し、商談の成約率は22%アップしました。

あなたの足を引っ張る「名もなきムダ仕事」

あなたが「よかれ」と思ってやっていた、情報量もりもりの資料づくり。ひょっとすると、今まで「ムダ」だとは気づいていなかったのではないでしょうか。

実は、仕事にはこのように自分では気づかないムダな仕事が山のように隠れています。


それこそが、あなたを「残業沼」に引きずりこみ、やや大げさな言い方が許されるなら、日本の生産性を下げる要因になっていると思うのです。

私はそれを「名もなきムダ仕事」と名づけました。

この「名もなきムダ仕事」がやっかいなのは、自分でもムダだと気づいていないか、あるいは何となくムダだと感じていても「そういうものだから」「昔からそうしている」「先輩や上司からそう教えられた」という理由で、削減の対象から無意識のうちに外してしまうことなのです。

名もなきムダ仕事には、パワポ資料づくりに限った話ではありません。

他にも、よく考えたらムダでしかないのに、ルーティンで続けてしまっている以下のような仕事も当てはまります。

●半分以上を「世間話」に費やす会議・打ち合わせ
●大量に届くCCメールのチェックに半日かかる
●週報、日報を詳細に書き込むのに時間と手間がかかる
●上司に提出した書類のやり直しを何度も命じられ、いつまでたっても終わらない

こうした、生産性アップと関係のない「名もなきムダ仕事」は、あなたの日常業務に常につきまとっています。

私は、「名もなきムダ仕事」をなくすようにしてから、仕事を2割以上カットでき、週休3日を5年以上続けています。私が代表取締役CEOを務める「株式会社クロスリバー」のメンバーも全員週休3日・週30時間稼働です。

自分の時間が増えれば、それを家族のために使うもよし、自分のスキルアップにも活用できます。もしも、あなたが仕事の遅さに悩んでいるようであれば、仕事のどこかに「名もなきムダ仕事」が潜んでいないか、改めてチェックをしてみてはいかがでしょうか。

(越川 慎司 : クロスリバー代表取締役)