全国の空き家に目を付けて自分で使ったり、貸し出したりする「家投資」。空き家選びで大事なのはどんなことなのでしょうか(写真:foly/PIXTA)

現在、全国各地で「空き家問題」が深刻化しています。空き家の増加によって、公衆衛生や治安の悪化など、周辺地域にさまざまな悪影響が出ています。ところが今、その空き家に目を付け、「家投資」に励む1人の男性がいます。その男性の名は永野彰一(32歳)。

永野氏は「山」への投資で注目される若手投資家ですが、現在は「家」への投資を並行して進めており、その体験を『一生お金に困らない家投資の始め方』にまとめて出版しました。なぜ空き家に投資するのか? メリットは? リスクはないのか? 3回にわたり永野氏に聞きました。

1回目:ひょんなことから1円で7LDKの家を買った男の話

僕が初めて家を買ったのは2016年のことで、26歳のときです。250万円の販売価格で売り出されていた長野県岡谷市の一戸建てを180万円で購入しました。

その頃は不動産の素人ですから、世の中に格安の家があることなど想像したこともなく、70万円の値引きだけで有頂天になり、「これで東京と長野の2拠点生活ができる!」と大喜びしたものです。

住めない家を選んではダメ

実際に住んでみると、不動産業界では不人気の「旗竿地」(道路に接している部分が細長く、その奥に敷地がある土地)であったため、車庫入れのたびにクルマがブロック塀にぶつかって傷だらけに。これでは売りたいと思っても誰も買ってくれません。トイレが汲み取り式だったことも、不便を感じた理由のひとつです。

仕方なく、現在も事務所として自分で使っていますが、最初から上手くいくことを期待しても、なかなか思い通りにはいきません。1軒目は、勉強や実験のつもりで、「失敗しても仕方がない」くらいの覚悟を持って、まずは第一歩を踏み出すことが大切です。

「どの家を選ぶか?」で迷ったら、単純に「ここなら住める」と思えるような家を選んでおくことが重要です。自分が住みたいと思える家であれば、2軒目や3軒目を買ってからも、そのまま住むことができます。

借り手がいれば、賃貸に出して家賃収入を得ることができます。借り手がいなければ、自分で住み続けることもできます。「自宅用」と「賃貸用」の両輪で考えられる家であれば、選択の幅が広がるだけでなく、ムダがありません。まずは、「自分が住める家」を探すことがセオリーです。

実際に僕が買った「自分が住める家」の例をご紹介しましょう。

この物件は新潟県上越市にある、建築費が4000万円という3階建ての白亜の豪邸を120万円で買いました。これは僕が持っている家のなかでもトップクラスの豪邸で、外観や内装なども一切リフォームする必要がなく、風呂やトイレもめちゃくちゃキレイな、まさに大豪邸です。

この家は、知り合いの不動産会社から、「家投資や山投資をやっている永野さんに買ってほしい」と名指しで紹介された物件です。持ち主は、相当な資産家らしく、「使わなくなったから、別にタダでもいいんだけど」みたいな話だったようで、僕は120万円で買うことにしました。

なぜ120万円も出したのかといえば、自分が本気で住んでみたいと思ったからです。僕はこれまでに何千軒もの家を見てきていますが、ここまでの豪邸というのはめったに出会えません。きちんとした根拠があるわけではなく、「120万円でこの家に住めるのなら、安い買い物だな」くらいに判断したのです。

そうした判断の一方で、僕の頭の中には、こんな考えも浮かんできました。

「これだけ自分が住みたいと思うのだから、賃貸に出したら、すぐに借り手がつくかもしれない……」

自分が住みたいと思って買った家ですが、「賃貸に出してみたい」という思いが強くなり、不動産会社に連絡して、賃貸の申し出をしました。すると、すぐに月7万円の家賃で借り手が決まりました。

上越市の相場で考えると、7万円の家賃は妥当な金額ですが、これだけの豪邸ですから、割安感は相当なものだと思います。月7万円の家賃収入があれば、購入代金の120万円は1年半で元が取れます。入居者に喜んでもらえて、1年半を過ぎれば利益が生まれるのですから、お互いにとってメリットがあります。この家を通して、「これが僕の理想とする家投資の在り方だな」と改めて感じ取ることができました。

「自分が住めるか」が基準 

先にも書きましたが、家投資を進めていくうえで、僕には大切に守っているポリシーがあります。それが自宅用でも、賃貸用であっても、家を選ぶときには、「自分が住みたいか」、「自分が住めるか」を基準にしているということです。

不動産投資家のなかには、「自分では住みたくないけど、他人が住むならいいかな」という考え方で家を選んでいる人がたくさんいます。このマインドは、やっぱり「良くないよな」と思っています。

「どうせ他人が住むのだから、安く買えれば何でもいいや」という自分勝手な考え方が問題なだけでなく、そのマインドでやっていたのでは、将来的に家投資が「手詰まり」になることが明白だからです。

手に入れた家を賃貸に出して、借り手が見つからなければ、自分がそこに住むことで、ムダな出費を抑えながら、次の一手を考える……というのが、家投資のセオリーです。最初から「自分では住みたくない」と考えていたのでは、その選択ができませんから、確実に行き詰まることになります。正義感とか親切心の問題ではなく、人としても、投資家としても、二重の意味で「やっぱり、良くないよな」と考えてしまうのです。

もう1つ、僕が投資している物件をご紹介します。この家は北海道旭川市の知り合いの不動産会社から、「安い家が出ました」と連絡があって、1円で購入した物件です。

現在は、北海道の活動拠点として、「自宅」兼「事務所」、時々「別荘」のように使っており、リフォーム用の資材庫としても活用しています。

3LDKの室内は経年劣化によってシミが目立っていましたが、最初から賃貸に出す気はなく、自分で使うつもりだったから、何もリフォームはしませんでした。ここに行くのは、年に2〜3回くらいで、避暑地として夏の間しか使いませんが、ホテル代がかからないので助かっています。

北海道の活動拠点といえば、普通は札幌を考えるのでしょうが、地図を見てもらえばわかる通り、旭川というのは北海道のほぼ中央に位置しています。僕は日本全国どこへ行くにも高速道路は使わず、下道をクルマで走って向かいます。旭川に行くだけでも大変ですが、周辺の地価が圧倒的に安いというメリットがあります。家投資をするためには、経済の中心地ではなく、立地の中心地であることも大事な要素となります。

札幌を拠点にしても、その周囲は土地の値段が高いため、安い家の数は限られます。交通の便が悪いことは最初からわかっていますが、旭川の方がはるかに家投資には向いているのです。

1円で買えた理由は「遺産相続」

この家が1円で買えた理由は、「遺産相続」が関係しています。

立地的には、旭川でもとくにいい場所にあり、建物を解体すれば、土地だけで何百万円かで売れるようなところですが、遺産を相続する立場の人たちが揃って受け取りを拒否したため、僕のところに1円で回ってきたのです。


その家を相続した場合、いい場所にある物件ですから、相続税評価額は200万円とか300万円くらいになって、相続した人は多額の相続税を支払う必要があります。それを第三者に1円で売ってしまえば、土地の価値というのは売れたときの値段で決まりますから、そこは「1円の土地」となって、高額な相続税を支払わなくても済むのです。

相続する側からすれば、普通に売っても税金で持っていかれるだけならば、持ち主が生きている間に、いくらでもいいから早く売ってしまおう……と考えたわけです。こうしたことは、遺産相続ではよくある話です。
 

(永野 彰一 : 投資家・事業家)