富士フイルムの「X-H2」は、「X-H2S」とともに同社Xシリーズのトップエンドに位置付けられるミラーレスモデルです。両者の違いは、X-H2Sが有効2,616万画素のイメージセンサーを積み、電子シャッターによるフルフレームの高速撮影と、6.2K/30pおよび4K/120pでの動画撮影が可能であるのに対し、X-H2は高解像度モデルとして有効4,020万画素とし、8K/30pの動画撮影ができることなどとなります。静止画撮影の場合で考えると、一般的にスポーツなど動きものの撮影でなければ、高解像度のX-H2に注目が集まることはいうまでもありません。本レビューもX-H2にスポットを当て、前回の機能編に引き続き、今回は同モデルの生成する画像を見てみることにします。

その圧倒的な写りから、APS-Cフォーマットであることを忘れさせる富士フイルムの「X-H2」。ボディ単体の実売価格は29万円前後となります

4,000万画素超ながら高感度時の画質も上々

まずは、何はともあれキーデバイスから。繰り返しとなりますが、イメージセンサーは、有効4,020万画素の「X-Trans CMOS 5 HRセンサー」を採用。APS-CフォーマットのXシリーズとしては初の4,000万画素超えとしています。イメージセンサーの構造は、階調の再現性や高感度特性に有利な裏面照射型を採用しているのも特徴。加えてローパスフィルターレスとしており、高画素とともに極めて高い解像感が得られます。画像処理エンジンも進化した「X-Processor 5」の採用で、階調再現性や高感度での特性など、写りに大いに期待が持てるところです。

実際、その描写は文句のつけどころのないもので、ベース感度のISO125をはじめ低感度の階調再現性は不足をまったく感じさせません。評価の高い「フィルムシミュレーション」の絵づくりをしっかり支えるものといえます。特に定評のあるハイライトの粘りはこれまで以上のように思えることが多く、白トビするまでの限界が高いうえに、たとえ白トビしてもトーンジャンプしたような写りとはならず、滑らかに変化していくように感じます。ISO6400を超える高感度域においても階調再現性は良好で、実用レベルの写りが得られます。

さらに、キーデバイスによる解像感の高さも特筆すべき部分。前述のように、イメージセンサーがローパスフィルターレスということもありますが、それに加え4,000万画素という解像度が大きく影響。光の状態にもよりますが、立体感が極めて高く合焦した被写体が背景から浮かび上がって見えるほどです。それは、面積比で倍以上となるフルサイズフォーマットの写りと遜色ないものと述べてよいでしょう。

明暗比の高いシーンで、しかも露出を切り詰めたものとしています。石壁の微妙な色調の変化も忠実に再現しています。解像感の高さはいうまでもなく、それによる質感の再現性も圧倒的に思えます X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/800秒)・WBオート・ISO125・JPEG

フィルムシミュレーションは、デフォルトの「スタンダード」を選択。艶やかな色再現性は富士フイルムならではの絵づくりで、とても人気のあるものです。どのような被写体にも対応するオールマイティな絵づくりといえます X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF2.8・1/1400秒)・WBオート・ISO125・JPEG

高感度域では避けられないノイズの発生もよく抑えています。特にISO6400までは、カラーノイズ、輝度ノイズともよく抑えており、パソコンの画面で50%ほどに拡大して見ても気になることはほとんどないように思えます。解像感の低下についても同様で、ほとんど気にならないレベルです。より高感度になるとノイズが少しずつ目立ちはじめ、解像感も徐々に低下するようになりますが、それでもよく抑えているように思えます。ノイズリダクションの効きが強いと一般に解像感が低下するのですが、そこまでほとんどないことを考慮すると、高画素でありながら集光効率の極めて高いイメージセンサーと、強力な画像処理エンジンのなせる技といえます。その画素ピッチから高感度特性はあまり期待していなかったのですが、いい意味で裏切られた結果が得られるように思えます。

▲ISO1600

▲ISO3200

▲ISO6400

▲ISO12800

ISO3200ではノイズの発生はまったく気にならないレベル。常用できる感度といえます。ISO6400になると、わずかにノイズの発生が見受けられますが、閲覧する画像の拡大率によっては無視してよい程度となります。常用感度の最高ISO12800ではさすがにノイズが目立つようになります。しかしながら、ノイズの“粒”が揃った感じもあり、ノイジーな感じはしません

被写体検出AFは融通も利き、利便性は高い

AFの精度も写りに関わる部分としてチェックしたいところ。なかでも見どころは、新たに搭載された「被写体検出AF」となるでしょう。これは、メニューから動物/鳥/クルマ/バイク&自転車/飛行機/電車のいずれかを選択すると、カメラが自動で被写体にピントを合わせるものです。

「飛行機」と「電車」でトライアルしてみたのですが、捕捉精度は極めて高く、正面や横からのほか、「飛行機」では複雑な形状となる斜め後ろからとなった場合もしっかりと捕捉しました。また、「電車」に設定しているときに、走行しているバスにカメラを向けてみたのですが、そのような場合でも捕捉しました。おそらくバスの正面が通勤型電車などの正面と似ていたからかもしれません。時間があれば、動物や鳥なども試してみたかったのですが、飛行機、電車の結果からおそらくこちらも捕捉精度は高いものと察せられます。他社でも、このところ被写体検出AFを積極的に導入する動きが見られますが、富士フイルムも今後他のXシリーズや、中判のGFXシリーズで広く展開していくものと思われます。

被写体検出AFは「電車」を選択。コンティニュアスAFで撮影を行っています。特急型(?)でもしっかりと電車として認識し、前面部を捕捉し続けました。撮影者は、アングルや架線の影などに気をつけてシャッターを切るだけです X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF5.2・1/480秒)・WBオート・ISO125・JPEG

被写体検出AFで電車を撮る合間にやってきた水素バス。ものは試しと、カメラを向けたらなんと認識。クルマでも車両の形状などによっては、被写体検出AFが「電車」に設定されていても認識するようです X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF5.0・1/1250秒)・WBオート・ISO125・JPEG

左に行き違う車両、手前に電車の写真を写そうとする鉄道ファンのいる状況で撮影しました。被写体検出AFはもちろん「電車」。こちらに向かってくる電車の正面を画面から見切れるまでずっと捕捉していました X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF4.5・1/1400秒)・WBオート・ISO125・JPEG

被写体検出AFは「飛行機」。後ろ斜めから狙うことになったタキシングするB747もしっかり捕捉しています。ちなみに複数同じ被写体がある場合、一般的なAFと同様にカメラに近い被写体を捕捉し、ピントを合わせるようです X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF5.0・1/2200秒)・WBオート・ISO200・JPEG

真横でも被写体検出AFは確実にピントを合わせてくれます。そのため、ピントはカメラ任せにでき、撮影者はアングルにより集中することが可能。さらに、電子シャッターでの連続撮影ではブラックアウトしないため、被写体を追いやすく感じます X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF5.0・1/1900秒)・WBオート・ISO200・JPEG

電子シャッターも注目点のひとつです。最高1/180,000秒とし、「XF50mmF1.0 R WR」や「XF56mmF1.2 R WR」などの明るいレンズを絞り開放で晴天の屋外など使用したいときなど出番は多そうです。

ただし、ローリングシャッター現象については、被写体やカメラの動きなどによっては残念ながら目立つことも。以前の電子シャッターに比べれば程度は小さいのですが、スポーツなど動きの速い被写体や、流し撮りのように素早くカメラを動かす撮影では、まだまだ注意が必要です。電子シャッターによる連続撮影では、画面がブラックアウトしないため動き物の被写体が狙いやすいだけに、ちょっと惜しいように思えます。いまだ日進月歩の進化が続くデジタルデバイスだけに、今後に期待したいところです。

電子シャッター1/1600秒での写真です。カメラは選手の動きに合わせて動かしながら撮影。ローリングシャッターゆがみにより、背景の倉庫がゆがんでしまっています。ISO12800での撮影ですが、小さな拡大率での閲覧や、スマホで見る分にはノイズの発生はさほど気になりません X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1600秒)・WBオート・ISO12800・JPEG

電子シャッターでも、被写体の動きやカメラアングルなどによってはローリングシャッター現象の発生を抑えることも可能です。感度はISO6400。スマートフォンやタブレットなどの画面サイズに合わせた大きさで見る分にはノイズはさほど気にならないレベルです X-H2・XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR・絞り優先AE(絞りF5.0・1/2500秒)・WBオート・ISO6400・JPEG

完成度のさらに増したX-H2。それは写りも同様で、生成される画像を見るたびにAPS-Cフォーマットだからと言う引け目を感じるどころか、APS-Cで十分という思いにとらわれます。定評ある絵づくりは当然のことながら、階調再現性や解像感、高感度特性など、どれを取ってみてもフルサイズに対し引けを感じることなどありません。むしろ、ボディやレンズの大きさがひと回りほどコンパクトにできるのはAPS-Cサイズゆえのアドバンテージといえるでしょう。先般、X-H2の弟分と言える「X-T5」が発表されました。スペック的にはよく似ていますが、カメラとしてのつくり込みや、落ち着いたシャッター音をはじめとする五感に訴えかけるものは、こちらのほうが勝っており、Xシリーズのフラグシップに相応しいミラーレスモデルに仕上がっています。

日陰の被写体を撮影してみました。ホワイトバランスは「オート」を選択。光源の持つ雰囲気を残した上々の結果が得られました。わずかに残る青みが気になるようであれば、「ホワイト優先」か「日陰」を選択してみるとよいでしょう X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF2.8・1/200秒)・WBオート・ISO125・JPEG

スカッと抜けたクリアな写りです。こちらもフィルムシミュレーションは「スタンダード」。Xシリーズらしい色乗りのよい結果が得られました X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/680秒)・WBオート・ISO125・JPEG

ハイライトの部分はデータ上では白トビしていますが、パッと見は不自然な感じがしません。そんな巧みな画像処理もフィルムシミュレーションならではといったところです X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/220秒)・WBオート・ISO125・JPEG

こちらも露出を切り詰めて撮影。一見黒ツブレしているところが多そうに見えますが、実は階調を保持しているところがほとんどとなります。明暗比の高い被写体でも積極的にカメラを向けたくなります X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/220秒)・WBオート・ISO125・JPEG

バリアングルモニターを開き、ローアングルで撮影。光軸と液晶モニターがほぼ同じ位置となるチルト式ではないため、アングルを決めるのはちょっと難儀することも。シャッター速度は1/20秒ですが、手ブレ補正機構がしっかりと機能しています X-H2・XF16-55mmF2.8 R LM WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/20秒)・WBオート・ISO125・JPEG

著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら