スペイン戦の後半3分、同点ゴールを決めた堂安律【写真:ロイター】

写真拡大 (全2枚)

日本―スペイン戦のドラゴン分析前編「堂安のトラップは完全にマラドーナになった」

 サッカーのカタール・ワールドカップ(W杯)は1日(日本時間2日)、グループリーグ最終戦で日本はスペインに2-1で逆転勝ちした。1点を追う後半3分にMF堂安律、同6分に田中碧の連続得点で無敵艦隊を撃破し、グループ首位で決勝トーナメント進出が決定。元日本代表FW久保竜彦は「THE ANSWER」の電話取材に応じ、歴史的金星をドラゴンの目で分析した。前編は試合全体を総括し、「代表で一番好き」という堂安に慄(おのの)く凄みについて語った。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

 いやあ、あれでしょ。日本サッカー史上最高の試合やろ。初めて見たわ、こんな試合。

 こんだけね、昔の日本(と世界)みたいな差があるんかと。あんだけボールを持たれて、点を取られて、あと何点入るんやろって、そんな感じで見とった。苦しかったと思うよ、選手も。前田なんて、特に。追いまくっとったもんね。でも、前田のおかげで1点で持ちこたえたのもあると思う。

 ハーフタイムで絶対、森保さんの檄が飛んでるはず。で、選手交代で堂安と三笘。

 みんな、前がかりに行って。(堂安の得点の直前で)あの伊東のヘディングよ。スペインの(GKからの)クリアボールを伊東が競り勝った。伊東、ヘディング強いやん、みたいな。あそこで前がかりにガンッて行くっちゅうのがね。で、堂安にこぼれて。堂安の左、最高やったよね。

 でも、伊東のヘディングかな。チーム全体で前から行って、あのヘディングを狙っていた、こぼれ球を。ああいう切り替えが後半頭からできたのがすげえなって。

 堂安もコスタリカ戦は悔しかったと思うよ。それで、あのトラップ。一発で完璧に止めて、完全にマラドーナになったなって感じよね。堂安もあのトラップはめちゃくちゃ気持ち良かったんじゃないの。だから、あの自分のタイミングで勝負できたし、シュートまで行けた。

 あれがペナ(ペナルティエリア)の中でできるっていうのが、良い選手やなと。それは思ってたし、今回はあの相手だしね。

 スペインもすっげえ上手かった。強いし。日本が当たりに行ってるのに弾き飛ばされてたもんね、長友でも、鎌田でも。強い強いと思ってたけど。ボールを持ちながら相手を弾き飛ばすって、相当凄いことなんよ。

(日本の守備も)凄い大変と思うけど、それでも続けて(前がかりで)やったから1点で終わったと思うし。そういうのが浸透してたのが、でかいところなんだろうね。あんなに浸透させられるもんなんかなって思うけど。

 それをやったのはやっぱ凄いことやし、続けさせたのは森保さんよね。

爆発が生まれた後半立ち上がり、森保采配は「意思統一ができてた」

 森保さんもあんなに早く1点取られると思ってなかったと思うんよ。

 DFライン3人とも前半でイエローもらっとるわけやしね。かなり難しかったと思う。でも、1点取られてたから開き直ったじゃないけど、前から(攻める)というので思い切って2人替えてやったと思うし、それに応えたのが堂安やし、三笘やし。意思統一ができてたよね。

 勝つためになんでもする人って今までも言ってきたけど、選手も4年間一緒にいて、なんか持ってるもの、伝わるものがあるから、ああやって爆発できたと思う。堂安みたいな(個の強い)選手だと、不貞腐れて、ダメになるタイプだと思うんよ。それで外すという方法もあるし。

 堂安も今まで交代させられながら、良いあれ(パフォーマンスが)できてなかったかもしれんけど。ここで爆発できるっていうんは、森保さんのほんのちょっとしたことやと思うけど、やっぱり森保さんの姿を見て(選手に)伝わってると思うんよ。

 あともう一つ、気になったんは前半、長友と鎌田が言い合ってた場面よね。

 普通ならバラバラになりそうなところ。それがなんで、バラバラにならんくて、後半頭から爆発できたのか。それも理由があると思うんよ。

(後編「『長友と鎌田、言い合いしとったね』 久保竜彦は見た、空中分解の予兆から15分間での激変」に続く)

■久保 竜彦 / Tatsuhiko Kubo

 1976年6月18日生まれ。福岡・筑前町。筑陽学園高を経て、1995年に広島加入。森保監督(当時選手)とは7シーズンプレーした。2003年に横浜F・マリノスに移籍し、リーグ連覇に貢献。1998年に日本代表デビュー。ジーコジャパンとなった2003年以降は日本人離れした身体能力と強烈な左足でエースとして活躍したが、腰や膝など度重なる怪我により、2006年のW杯ドイツ大会は落選。以降、横浜FC、広島などを渡り歩き、2014年に引退。J1はリーグ戦通算276試合94得点。日本代表は国際Aマッチ通算32試合11得点。引退後は山口・光市に移り住み、コーヒー焙煎や塩作りなど、異色のセカンドキャリアを歩む。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)