「石田泰尚 スペシャル・カルテット×『ファン・ゴッホ』展コラボ 『角川武蔵野ミュージアム音楽Day』」が開催

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2022年12月6日(火)、埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内「角川武蔵野ミュージアム」にて、ヴァイオリニスト石田泰尚氏ら気鋭のアーティストによるスペシャルカルテットと 「ファン・ゴッホ」展のコラボコンサートが開催。そこで今回は、石田泰尚スペシャル・カルテットのメンバーに、本コンサートの注目ポイントを教えてもらった。

【写真】出演する石田泰尚 スペシャル・カルテットのメンバー。石田泰尚、執行恒宏(ヴァイオリン)、坂口弦太郎(ヴィオラ)、阪田宏彰(チェロ)

企画展「ファン・ゴッホ ―僕には世界がこう見える―」は、1100平方メートル以上の巨大空間で展開されている体感型デジタルアート展。会場の壁と床360度に投影された映像と音楽で、ゴッホが見た世界を再現しながらその生涯を辿る、新感覚の展覧会だ。

そんななか、12月6日(火)に開催される「石田泰尚 スペシャル・カルテット×『ファン・ゴッホ』展コラボ 『角川武蔵野ミュージアム音楽Day』」では、ヴァイオリニスト石田泰尚がこの日のために用意したスペシャル・カルテットが演奏。場内を回遊しながら、映像や展示と共に、名曲を楽しむことができる機会となっている。

――今回は“絵画と生演奏による音楽のコラボレーション”ということですが、出演依頼があった際、どのように感じられたのでしょうか?

「これは手強い企画だと感じました。美術館での演奏ということだけを聞いていたときは、割と穏やかな内容を想像していたのです。蓋を開けてみたら、まるで違いました。ご依頼を受けてから、プロジェクションマッピングでゴッホの人生を辿る番組を拝見し、30分に詰め込まれた全8幕にわたる、めまいのするような濃密なメッセージを受け取りました。

ゴッホが魂を込めた絵から受けるインスピレーションを、暴力的と言っても良いくらい力強く表現する空間。そのど真ん中で演奏するということに驚きと興奮を覚えました」

――カルテットはどのようなメンバーで構成されていますか。今回のスペシャル・カルテットならではのポイントを教えてください。

「今回の演奏メンバーは、実はほとんどYAMATO String Quartet(以下YSQ)です。できればYSQとしてお引き受けしたかったのですが、ヴィオラの榎戸崇浩が出演できなかったため、NHK交響楽団の坂口弦太郎さんに出演していただくことになりました。

まずはゴッホの魂と共鳴するヴァイオリン石田泰尚の咆哮にご注目ください。そしてクラシックだけではなく、タンゴやロックも活動の柱に据えているYSQのレパートリーを惜しみなく投入した選曲にもご注目いただけたらうれしいです」

――ファン・ゴッホとのコラボを楽しむポイントや、1番のこだわりポイントがあれば教えてください。

「今回は既定の音源による通常上映と、カルテットの生演奏による上映が交互に行われます。両方をご覧いただいて、映像から受けるインスピレーションは音楽によって大きく変わることを感じていただけたらうれしいです。

生演奏では音源再生のように休みなく弾き続けることはできませんが、各幕の境目に合わせてオペラのように曲が移り変わります。映像に合わせるアンサンブルの緊張感もお楽しみいただけるでしょう」

――今回の曲目や、その選定理由を教えてください。

「第一幕『若き日のゴッホ』では、オランダの伝説的ロックバンド『フォーカス』の『FocusIII』を取り上げます。オランダに生まれたゴッホの自然を愛し人間に目を傾ける画風、そしてまだそれほど主張が激しくない色調を表現します。

第二幕『自然』では、ゴッホの『ひまわり』を受けてH.マンシーニの『ひまわり』を全曲演奏します。急激に個性を発揮しだした色調を、抑制された熱情で演出します。

第三幕『パリ時代』は、オランダを離れたゴッホが目にした異国の地。初めて街や村の風景が登場します。ピアソラがアルゼンチンを離れ、父の死に目にも会えなかった際の望郷の曲『アディオス・ノニーノ』を選曲しました。

第四幕『アルル』。『夜のカフェテラス』『アルルの寝室』にフォーカスして、ジャズをベースにした『ピンクパンサー変奏曲』の登場です。

第五幕『オリーブの木と糸杉』では、映像作家による不気味な糸杉の表現に着目しました。サン=ポールの精神病院に居たゴッホが描く糸杉を表現するのはキング・クリムゾンの『21世紀の精神異常者たち』です。暗い空に渦巻くゴッホの懊悩(おうのう)と、『21世紀〜』のうねりがリンクします。

第六幕『サン=レミ』の制作地は同じく精神病院です。映像はゴッホの視点と観客の視点の境目がなくなっていく鑑賞法を提案しているようです。ゴッホの内面へ誘うのは、『21世紀〜』に引き続きクリムゾンの『ムーンチャイルド』です。

第七幕『オーヴェールの平野』。ゴッホの活動を締めくくる『カラスのいる麦畑』に着目しました。カラスと一緒に飛び立ち、会場を支配するのは石田泰尚の咆哮です。曲はレッド・ツェッペリンの『カシミール』。

第八幕『エピローグ』でゴッホのパレットから魂の残像を見る曲は、E.モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』です」

――曲目の選定で苦労された点を教えてください。

「時間と切り離された芸術『絵画』に、時間の概念を与えるというアイデアが斬新でした。生演奏でこの映像に合わせるという企画ですから、映像と演奏の尺を合わせるという作業が非常に困難でした。なるべく隙間なく演奏するために、今回限りの楽譜を制作し、曲によっては抜粋し、今回のためだけの特殊なテンポ設定をしています」

――クラシック音楽や、弦楽器への、近年の世間の関心の度合いに対してどのように感じていますか?

「これまでの歴史がそうであったように、不安定な時代に差し掛かっている現代でも芸術・文化の力は増していると思います。今回の企画もそうであるように、歴史の残る文化を現代技術で再構築する試みも増えました。

あまたある芸術表現の中に等しい立場で放り込まれたクラシック音楽にとって、試練でもありチャンスでもある時代です。次々と生まれる新しい技術でも取って代わることができない弦楽器に対する関心は、これから最盛期を迎えるのではないかと想像しています。特に弦楽四重奏に向けられたお客さまの期待は、常々肌で感じています」

――今回の演奏はどういった人々に聴いてほしいでしょうか。また、会場では来館者にどんな風に過ごしてほしいでしょうか?

「機械が再生する、見事に映像と合わせた音楽と、その場で息づく人間が奏でる毎回違う演奏の2種類を比べて、映像から受ける感覚の変化を楽しんでいただきたいです。

本棚劇場・エントランスでは、石田泰尚とチェロのデュオという希少な演奏もご覧いただけます。複数の会場を移動して、非現実的な旅を体験するのも面白いと思います。自分たちも、鋭い感性を持つ皆さんの新しい文化への触れ方を知る機会を楽しみにしています」

取材・文=平井あゆみ

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