バンタンデザイン研究所では「世界で一番、社会に近いスクールを創る」という理念のもと、すべて現役のクリエイターが講師を務めている。今回は、そんなバンタンデザイン研究所の渡邉講師に「人物デッサン」のオススメ本を紹介していただいた。渡邉講師曰く、人物デッサン上達のために一番重要なのは「練習量」。ただ、何も考えずに描く20枚と頭を使って考えながら描く20枚とでは雲泥の差が出てくると言う。では「何を考えれば良いのか?」「クロッキーとは何なのか?」と感じた時に、これから紹介する本をめくってみると、そのヒントが随所に散りばめられている。これからデッサンを始める人、もっともっと上手になりたい人、ある程度描けるようになってこれからオリジナル性を求めたいと思っている人、それぞれに合う本を読んで頭のどこかに心に響いたヒントを置きながら練習を続ければ、上達スピードも右肩上がりになるだろう。目次初心者の悩みを解決する   
「イチバン親切なデッサンの教科書」『イチバン親切なデッサンの教科書』   難易度★☆☆☆☆ (初心者向け)ページ数191ページ 価格2,145円(本体1,950円+10%税)発売日2018年4月4日著者上田 耕造 著出版社新星出版社Amazonで見る学び始めの一冊にピッタリ! 基礎学習と初心者の悩み解決に人物以外にも「デッサン」について、かわいいイラストと共に分かりやすく丁寧に基本を教えてくれる一冊。とても読みやすく、これからデッサンを始めてみたい! という人にはとてもおススメできる内容になっている。この一冊があれば、静物や風景デッサンも学ぶ事ができるし、初心者のよくある悩みはある程度解消できるだろう。可愛いイラスト付きで飽きることなく読み進められる鉛筆以外にもさまざまな道具を紹介しているので、これから道具を揃えようと思っている人にも大変参考になる。また、デッサンをするにあたって、補助をしてくれる道具や紙の紹介なども分かりやすく教えている。(鉛筆の持ち方も記載されているが、この部分は自分の持ち方と違うので、参考にはなるが、少し考え方が違うかも……。)まずは道具の準備から人物デッサンをするにあたって、自分は「クロッキー」をとても重要視しており、常日頃から学生に「観て描く! 観て描く!」を癖にする事がデッサン上達の近道と伝えている。この本でも「クロッキー」をするにあたっての考え方や必要性を分かりやすく紹介していて、中でも「描けない」ということは腕が悪いということではなく、「見えていない」ということに尽きますという言葉がとても響いた。デッサンの基本となるクロッキーの必要性をわかりやすく解説木炭やパステルにも対応
「人物デッサンのすべて」『人物デッサンのすべて』     難易度★★☆☆☆ (初心者向け)ページ数160ページ 価格1,980円(本体1,800円+税10%)発売日2011年1月20日著者ロバート・バレット 著、佐藤実 訳出版社マール社Amazonで見る木炭やパステルで重厚感のある人物デッサンを描きたい人にタイトル通り、人物デッサンに特化した一冊。簡単な道具の説明から、プロポーションの見方、筋肉と骨格、顔や手足等各パーツの特徴のとらえ方……とロジカルにそれぞれのテーマに沿って描き方を説明してくれている。各ページの上部にテーマが書かれているのだが、この言葉がとても分かりやすく、人物を描く上で重要なヒントになっている。全文章を読まなくても、このテーマタイトルとデッサンの写真を見るだけでも非常に勉強になる構成だ。重要なポイントが見出しに分かりやすく書かれている10章にある「服のシワ」の描き方は、目から鱗の内容。自分で着衣の人物を描くとき、常に服の下にある人体は意識してきたが、デザインの要素としてシワを見ることはあまりなかったのでとてもおもしろい内容だと感じた。着衣のシワもしっかり観察しよう著者がアメリカ人なので、掲載されている参考作品の人物はすべて欧米人である。そのため、日本(アジア)人をモデルに人物作品を描きたい人には、少し参考になりづらいかもしれない。また、木炭やパステルを使った表現方法が多いので、鉛筆を使って時間をかけてしっかり描きこみをしたい人は後に紹介する「人物デッサンテクニック」のほうがオススメである。この本は、重厚感のあるドラマチックな人物を描きたい人にオススメしたい。美大受験も目指せる 
「人物デッサンテクニック」『人物デッサンテクニック』    難易度★★☆☆☆(初心者向け)ページ数158ページ 価格1,980円(本体1,800円+税10%)発売日2019年2月18日著者小能 一樹 著、戸川 馨 監出版社誠文堂新光社Amazonで見る鉛筆でしっかり描きこみたい人、美大受験を目指す人に先に紹介した「人物デッサンのすべて」とは対照的に、鉛筆を使った人物デッサンテクニックに焦点を当てて丁寧に紹介した一冊。鉛筆を使って、写実的にしっかり描きこみたい人にはおススメできる一冊である。これから芸大、美大受験を目指す、中学生、高校生にも非常に参考になる本だと思う。美大受験を目指す人の参考になる内容がたくさん掲載している参考作品のそれぞれに、制作時間、紙、使った鉛筆を紹介しているのがとてもおもしろい。デッサン開始から完成まで丁寧に、開始10分でこんな感じ、60分でここまで……と時系列に沿って進み具合を紹介してくれている。芸大卒の著者と同じように進めるのにはもちろん大変な鍛錬が必要となるが、プロがデッサンを完成させるために、どのような事を考え、どのように段階を踏んでいくかを見られるのは、初心者にも大きなヒントになるだろう。プロのデッサン過程が段階ごとに紹介されている顔をよく見て描きこむ人は多いが、デッサンのリアルさは案外、手・足といったディティールをしっかり描き込むことによって生まれるものだ。本書では、手や足のとらえ方も丁寧に紹介されているので、その点も参考にしたい。クロッキーからデッサン上達をめざす
「人物デッサン攻略77のポイント」『人物デッサン攻略77のポイント』       難易度★★☆☆☆(初心者向け)ページ数127ページ 価格1,980円(本体1,800円+税10%)発売日2016年3月23日著者大友義博 著出版社日貿出版社Amazonで見るクロッキーをたくさん描いて人物デッサン上達を目指す!タイトル通り、「クロッキー」を重要視した構成が特徴。そこから感性を磨き、デッサン上達をめざす方法が紹介されている。45Pで紹介されている“立体的に見える理由” の説明は、自分がデッサンの授業の初回で説明するものと同じ内容だ。デッサン上達のためのポイントを説明。クロッキーが何より大事だデッサンをする上で重要な「立体感」についても丁寧に解説この部分を理解して練習する事で立体的なデッサンが身についていくので、初心者には是非読んでもらいたい項目である。クロッキーは回数を重ねることで、人物を描く上で大切なポイントや、どのようにモデルを見れば良いのかという視点を養うことができる。個人で人物デッサンを練習する場合は、モデルを手配することはなかなか難しいと思うが、家族や友人で練習をしたり、カフェで背を向けている人を描いたりするだけでも練習になるものだ。いろいろな所で、ヌードのクロッキー会なども開催されているので、思い切って参加してみるのも良いだろう。クロッキー会に参加すると、上手な人が沢山いるので、その人の描き方や見方を参考にすることもできる。写真ではなく、生身のモデルを観察することが上達の近道美麗なサンプルを見ながら楽しく学べる
「人体の描き方実践トレーニング デッサンの基礎から、人物クロッキーまで」『人体の描き方実践トレーニング デッサンの基礎から、人物クロッキーまで』難易度★★★☆☆(初級者〜中級者向け)ページ数136ページ 価格2,530円(本体2,300円+税10%)発売日2019年6月3日著者広田稔 著出版社芸術新聞社Amazonで見る美しい参考作品を見ながら学ぶと、モチベーションもアップ!この本はまず、掲載されている参考作品が画集のように綺麗で目を奪われる。デッサンをする上で、最も重要なのは「練習」だが、 自分が「綺麗だな。」と感じる作品をたくさん見るのも重要なことだ。この本に掲載されている作品は、骨、筋肉、動き……と、人間の美しさが強く感じられ、描く前からモチベーションを上げてくれる一冊である。参考作品がとにかく美しいまた、水彩(筆)を使った人物表現が紹介されているのも魅力だ。鉛筆や木炭を使った人物デッサンテクニックを伝える本が多いが、水彩クロッキーの本は珍しい。モノクロだけではなく、カラーでも人物を描きたい人の参考になるだろう。水彩での人物表現も紹介されている第六章「制作過程と作品化」では、デッサンを発展させ、そこからオリジナルの作品をどのように仕上げ、表現していくかも説明されている。デッサンをある程度描けるようになり「さぁこれからオリジナルの作品を作って、発表するぞ!」という人にもオススメしたい内容である。より深くデッサンを学ぶ、中級者向けの一冊 
「人物デッサン パーフェクトノート クロッキーで磨く人物描写の上達メソッド 」『人物デッサン パーフェクトノート クロッキーで磨く人物描写の上達メソッド』難易度★★★★☆(中級者向け)ページ数176ページ 価格2,750円(本体2,500円+税10%)発売日2020年10月8日著者クリス・レガスピ 著出版社グラフィック社 Amazonで見る「形」「色」「光と影」を同時に表現し、さらなるレベルアップを目指す!先に紹介した「イチバン親切なデッサンの教科書」が初心者向けにデッサンのノウハウを丁寧に紹介する本だとしたら、こちらはデッサンがある程度描けるようになった中級者が、より深く人物デッサンを学ぶために読んでほしい一冊だ。人物を描く上で、知っておいたほうがよい人体の解剖学的な考え方や歴史に名を残す巨匠から学ぶ方法なども紹介されており、さまざまな悩みを解決してくれる充実の内容となっている。デッサンをする上では、「形」「色」「光と影」を同時に表現することが大切だ。この三つのポイントを理解してから、本書を読むと次のステップに進みやすくなる印象を受ける。中級者以上の悩みも解決してくれる内容。「光と影」の描き方などもしっかり解説してくれている本書でも、人物デッサンをする上での「クロッキーの大切さ」を伝えている。中でも1分ポーズという短い時間で始めて、10 分、20 分と徐々に時間を長くしてクロッキーを行うプロセスがとてもおもしろいと思った。最初は失敗を恐れず手をたくさん動かして、徐々に時間を長くし、頭に考える時間を与える手法はとても効果的だと思う。日本のクロッキー会は、20 分程度から始めて、徐々に時間を短くする手法を行う所がほとんどだが、この本では1分ポーズから始まり徐々に長くなっていく帯に描かれている、「毎日一枚、1 ページ。」の言葉が響く。描く事を習慣化する大切さは、初心者も上級者も関係なく、常に心に持っていてほしいと思う。西洋絵画、西洋美術が好きな人にオススメ
「ドローイングレッスン -古典に学ぶリアリズム表現法-」『ドローイングレッスン -古典に学ぶリアリズム表現法-』難易度★★★★☆(中級者向け)ページ数160ページ 価格4,180円(本体3,800円+税10%)発売日2012年7月22日著者ジュリエット・アリスティデス 著出版社ボーンデジタルAmazonで見る西洋美術からデッサンを学ぶ、古典が好きな人にオススメな一冊「ルネッサンス時代のアーティストが、どのような事を考えながら人物を描いていたのか?」をその時代の参考作品とともに紹介した一冊。著者の作品も多く掲載されていて、作品と文章を併せて見ることで考え方のロジックに説得力を与えている。実際のデッサン上達のための練習方法は、最後の章に20ページ弱紹介しているのみなので、全体の構成としては、初心者にはすこし難しいかもしれない。ルネッサンス時代の美しい作品を見ながら学べる第七章では石膏ドローイングのトレーニング方法が紹介されている。人物デッサン上達のために、実際のモデルを見ながら、もしくは自分の顔を鏡で見ながら練習することも大事だが、デッサン力を上げるためには、真っ白で陰影が分かりやすい石膏像から始めるのも一つの上達方法だ。もし石膏像を描ける環境があるのであれば是非トライしてほしい。長時間観察することができて、陰影が分かりやすい古典彫刻を見ながら練習すると、頭と道具が連動しやすくなり実際にモデルを見ながら描く準備を整える事ができる。この章は初心者にも読んでほしい内容だ。古典彫刻から人物デッサンの上達を目指す自分は高校時代、美大受験のために石膏デッサンをたくさん描いたが、その時の講師が「石膏像って真っ白で冷たいけど、綺麗だよね。」といっていたのが心に残っている。好きなもの、美しいと感じるものを題材にするのも上達の近道になるだろう。ルネッサンス時代の西洋絵画が好きな人、西洋美術史が好きな人にもオススメしたい一冊だ。骨格、筋肉、腱、動など、人体の仕組みを解剖学で読み解く
「アーティストのための人体解剖学ビジュアルリファレンス」『アーティストのための人体解剖学ビジュアルリファレンス』        
 難易度★★★★★(中級者〜上級者向け)ページ数304ページ 価格4,620円(本体4,200円+税10%)発売日2021年11月2日著者3dtotal.com 著出版社ボーンデジタルAmazonで見る手元にあると助かる! 美術解剖学専門書こちらは人物デッサンの参考書というより、美術解剖学に特化した医学書のような内容になる。全ページカラーで、骨格、筋肉、腱、動きなど、人体のしくみをアーティストのために説明した専門書だ。人間がある動作をしたときに、体の内部の筋肉や腱はどのような動きをしているのか? またそれを線や面で表現した時はどのように見えるのか?を外国人モデルの写真と共に説明している。さまざまなポーズ、年齢、体格が違うフルヌードモデルを採用しているので、ヌードを描く機会がない人には非常に参考になるし、動きのある人物を、彫刻(フィギア)や漫画、グラフィックイラストなどで表現したい人は一冊持っていると非常に役に立つ一冊だ。解剖学の歴史はどのように発展してきたのか。人体解剖学を学ぶことで、現代の作品にも説得力と信憑性を持たせることができるこの本をおススメするポイントは2つある。一つは、ヌードデッサンなどがリアルに表現できるようになることだ。着衣モデルを描くよりヌードモデルを描くほうが、ごまかす事ができないので難しいと感じる人は多いだろう。そんなとき、この本を参考にしてから実際にヌードデッサンをすると、人体の骨格や筋肉を考えながら、よりリアルなデッサンすることができる。もう一つは、デッサンを卒業し、そこから自分のオリジナルの作品制作を行う時に非常に役に立つこと。例えばデフォルメをして可愛い5等身のキャラクターを作ったとしても、人間が動くうえで可能な可動域や筋肉を理解していないと、見る人は「可愛い」と感じる前に、「疑問」を感じてしまう。人体を理解していないと説得力のある作品を作ることはできないのだ。平面作品制作の他にも、3D、静止画、動画、漫画、キャラクターデザインなど、より生き生きとした信憑性のある表現を手に入れるために参考にしたい一冊だ。骨格、筋肉、腱、動きなど、人体のしくみを理解することが、様々な表現方法のヒントになる 【オススメ書籍情報一覧】     難易度  ページ数価格(税込)発売日イチバン親切なデッサンの教科 ★☆☆☆☆191P2,145円2018/4/4人物デッサンのすべて ★★☆☆☆160P1,980円2011/1/20人物デッサンテクニック  ★★☆☆☆158P1,980円2019/2/18人物デッサン攻略77のポイント ★★☆☆☆127P1,980円2016/3/23人体の描き方実践トレーニング デッサンの基礎から、人物クロッキーまで ★★★☆☆136P2,530円2019/6/3人物デッサン パーフェクトノート クロッキーで磨く人物描写の上達メソッド ★★★★☆176P2,750円2020/10/8ドローイングレッスン -古典に学ぶリアリズム表現法- ★★★★☆160P4,180円2012/7/22アーティストのための人体解剖学ビジュアルリファレンス ★★★★★304P4,620円2021/11/2