これからTwitterはどうなるのか。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「イーロン・マスク氏が買収して以降、デマやヘイト投稿が急増し、海外では『Twitter離れ』が進んでいる。日本でも起きるのは時間の問題だ」という――。
写真=ABACA PRESS/時事通信フォト
スマホ画面のツイッターのロゴと、パソコン画面に映ったイーロン・マスク氏の顔=2022年11月8日、フランス - 写真=ABACA PRESS/時事通信フォト

■マスク氏による6兆円超の買収劇

マスク氏は総額440億ドル(約6兆4000億円)という驚くべき金額でTwitterを買収した。

Twitterは、日本でも月間利用者数が4500万人に及ぶ人気を誇る。しかし、Googleが2021年に2570億ドルもの売上を上げたのに比べると、Twitterの売上はわずか50億ドルに過ぎず、長年赤字体質が続いていたことも考えると驚くような金額だ。

また、デマの拡散や、犯罪、誹謗(ひぼう)中傷に悪用されることも多く、問題の多いSNSであることも知られている。

世界一のお金持ちマスク氏が買収したという事実だけを見ると、「自分ならば金儲けできると考えたからに違いない」と勘繰るかもしれない。

■「理想的な言論の場にしたい」

しかし、マスク氏はこれを明確に否定している。

マスク氏は、「ソーシャルメディアでは極右と極左がエコーチェンバーによって分裂し、多くの憎悪を生み、社会を分断する大きな危険に直面している」という危機感を持っているようだ。そのため、「暴力に訴えることなく、幅広い深淵(しんえん)について健全に議論できる共通したデジタルの広場を持つことが文明の未来にとって重要」と考え、買収したというのだ。

もともとマスク氏は、Twitterのヘビーユーザーとして知られている。自分の好きなTwitterを理想的な言論の場にしたいと考えて買収した、というのは納得できる。

早速、行動に移したのがアメリカのトランプ前大統領への対応だ。トランプ前大統領は、米連邦議会襲撃事件について、ツイートで極右の過激派を駆り立てワシントンに襲撃させたとされた。その結果、「暴力行為をさらに扇動する恐れがある」としてTwitterアカウントは永久凍結されていたが、マスク氏は彼のアカウントを復活させた。

さらに、これまでに凍結されていた多くのアカウントを「恩赦」として復活させる方針を自身のアカウントで明らかにしている。

凍結されていたのはそれだけの理由があったためだ。どちらもユーザー投票を経ているが、トランプ前大統領アカウント復活に関しては、賛成は51.8%と反対をわずかに上回ったのみ。投票自体が偽アカウントやボットに狙われる可能性があり、事実、トランプ前大統領の投票時はボットの攻撃が激しかったとしている。これでは、とても民意とは言い難いのではないか。

■混乱が続く買収後のTwitter

マスク氏の行った改変は組織、サービス両面に及んでいる。米メディアの報道によると、前CEOのパラグ・アグラワル氏を含む9人の取締役はすべて解雇し、自ら唯一の取締役に就任。その後、なんと社員の半数に当たる約3700人を即日解雇。日本法人も対象となり、特に広報部門はすべて解雇されたという。厳しい勤務条件を突きつけて同意を迫ったため、さらに多くの社員が退社し、執筆現在で当初の3分の1に当たる2700人程度しか残っていない。

ツイートの取り消しや編集機能などが使える有料のサブスクリプションサービス「Twitter Blue」は、月額4.99ドルから7.99ドルへ値上げ。サービスに加入すれば、著名人や企業、ブランドなどの公式アカウントの印であった認証バッジがつくとしたのだ。

認証バッジは、本人認証が済んでいる信頼できるアカウントという意味合いが強かった。ところが、有料サービスに加入すればバッジがつけられるとしたことで、なりすましが横行する状態に。代わりに企業などに「公式マーク」を配布するとしたものの、わずか数時間で撤回。その後、なりすましを防ぐために名前の変更に制限をかけた上で再開している。

「今後数カ月、多くのバカげたことを行うので注意してほしい。機能するものは残すし、機能しないものは変更する」と開き直っており、その後も解雇した社員の一部を呼び戻すなど、混乱が続いている。

■誹謗中傷、デマ、ヘイト投稿が急増

Twitterでは、差別やヘイトを規約で禁止している。ところが、なりすましに加えてデマや誹謗中傷が急増中だ。前述のようにお金を払えば認証バッジをつけられるようにしたり、社員を大量に解雇したりしたことの影響が出ているのだ。

買収後、ドラァグクイーンのことを「グルーマー(性犯罪などの目的で子どもや若者を手なずける人物)」と呼びアカウントを停止させられていた格闘家のジェイク・シールズ氏が、買収後に「これがグルーマーだ」とコメントを付けた写真を投稿。「まったく同じツイートをして1カ月前にアカウント停止された。Twitterが自由になったか試してみよう」とコメントした。この投稿は今は見えないが、アカウントは残ったままだ。

■新体制では通報に対応してくれるのか

ツイッター社の元社員のヨエル・ロス氏は、特定の中傷フレーズを含む5万件以上のツイートを、300のアカウントが投稿していたとツイートしている。

また、独立系調査機関の「Network Contagion Research Institute(NCRI)」も、買収後に、Nワード(黒人に対する侮蔑語)を含む投稿が平均より500%近く増加したとツイートしている。

買収直後には、トランプ前大統領の「私のアカウントは月曜(10月31日)に戻ると言われた。どうなるか見てみよう」という偽の声明もTwitter上で拡散した。

もともとTwitterではデマや誹謗中傷こそ多かったが、通報すれば対応してくれる期待があった。ところが、今の運営方針では対応するとは限らず、そもそも人員が足りないことでなりすましなどにも対応しきれていないと報じられている。

■2大アプリストアから削除の可能性も

結果、多くの企業がTwitterから逃げ出しつつある。ゼネラル・モーターズ、ファイザー、フォルクスワーゲン・グループ、アウディ、大手食品会社のゼネラル・ミルズ、オレオで知られるモンデリーズ・インターナショナルなどの多くの企業が、広告出稿を取りやめた。

もともとTwitterでは属性などを登録しないため、ターゲティング広告は行わない。主にプロモツイートやキャンペーンなどで話題性を作ったり、認知度を拡大するなどの使われ方だった。ところが前述のように誹謗中傷やヘイト投稿などが急増しており、イメージダウンを恐れ、利用が不安視されているのだ。

Twitterの収益源は9割以上を広告に頼っている。マスク氏は広告への依存度を5割未満に下げ、ユーザー課金の割合を高めたいと考えているようだが、どれほど受け入れられるだろうか。いずれにしろ広告の重要性は変わらない以上、広告主に信頼されるプラットフォームを目指す必要がある。

そしてとうとう、ヘイトや誹謗中傷が急増した結果、AppleからはAppストアからアプリを削除する旨の警告を受けたようだ。マスク氏はこの事実をツイートして反発しているが、こうなると、Googleも同様にPlayストアから削除する可能性が出てくる。

アプリにとって、両ストアからの削除はアプリの終了を意味する。アップデートや新規ダウンロードなどができなくなり、Twitterは機能しなくなる。

マスク氏の理想を追求すると広告主に見放され、それどころかアプリストアから削除されるのであれば、最終的には誹謗中傷やヘイトなどを一掃し、健全化を目指さねばならなくなる可能性が高いのではないか。

■海外SNSユーザーの引っ越し先

報道によると、Twitterの買収から1週間で、デイリーユーザー数は20%以上成長し、史上最高に達した。Twitterが話題となることが多かったため、久しぶりにログインしたユーザーが多かったのかもしれない。

反面、Twitterのアカウント数は削除、停止処分などにより100万件以上減少したとも言われている。同時に、海外ではすでにユーザー離れが報道されている。

『グレイズ・アナトミー』『ブリジャートン家』プロデューサーのションダ・ライムズ氏、シンガーソングライターのサラ・バレリス氏やトニー・ブラクストン氏、俳優件映画監督のケン・オリン氏などが、買収をきっかけにTwitterをやめると宣言。

Twitterを離れたユーザーたちはMastodon(マストドン)やDiscordに移っているようだ。作家のヒュー・ライアン氏はSNSをマストドンに移行したと表明。コメディアンのヨレンタ・グリーンバーグ氏も、マストドンやDiscordをチェックすると言っている。

日本でも徐々に不安の声が高まりつつあり、「Twitter終了か」「次はどこに移るか」などの話題があがっている。

写真=iStock.com/hapabapa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hapabapa

■支払ってまで使いたいユーザーはいるのか

Twitterは噂通り有料化するのだろうか。かつては「無料で使わせてもらって申し訳ない。むしろTwitterに課金したい」というユーザーもいたが、どれくらいが実際に課金をするのか。少なくとも、広告収入を補うほどの収益は難しいと思わざるを得ない。

情報収集や拡散に強いTwitterは、災害時に活用できるとあり、自治体や政府なども活用してきた背景がある。Twitterのみでつながっている人がいるユーザーも多いだろう。それを考えると、ユーザーが今すぐにTwitterをやめて離れていくとは考えづらく、様子見をしているところだろう。

マスク氏は11月21日の全社会議で「Twitterは米国中心のように見えるかもしれないが、どちらかといえば日本中心だ」と語ったと報道された。日本と米国では約3倍の人口差があるにも関わらず、日々のアクティブユーザー数はほぼ同じだという。

ガイアックス ソーシャルメディアラボのまとめによると、日本のTwitter月間利用者は4500万人に達しており、Instagram(3300万人)やFacebook(2600万人)、TikTok(1700万人)を引き離している。

しかし日本のユーザーもTwitterに強くこだわる理由はなく、より居心地の良いSNSへと完全に移ってしまう可能性も十分にある。

問題だらけのTwitterだが、買収を機に本当に信頼され、かつ自由な言論空間として機能するのか。それとも、マスク氏に引っ掻き回されて終わってしまうのか。今後の動向から目が離せない。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)