佐渡裕が次期音楽監督就任への抱負語る~新日本フィル2023/24シーズンの定期演奏会プログラム発表

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新日本フィルハーモニー交響楽団(以下新日本フィル)が本拠地を置く東京都墨田区で、2023/24シーズンの定期演奏会プログラムについての記者発表会を開催。現在ミュージック・アドヴァイザーを務め2023年4月から第5代音楽監督に就任する佐渡裕と、同楽団理事長の宮内義彦が登壇し、新シーズンの展望や今後の抱負などについて語った。(文章中敬称略)


■原点ともいえる新日本フィルの5代目音楽監督に。テーマは「ウィーン・ライン」

会見にあたり、まず宮内理事長は新日本フィルが2022年に設立50周年を迎えたことをふまえたうえで「新しい50周年を迎え、さらにこれから次の50年を見据えたとき、ここでもう一度足をしっかり地につけて、できるだけ多くのファンに支持される楽団に発展していきたい」と挨拶。また2023年4月から音楽監督を務める佐渡は、かつて新日本フィルが出演していたテレビ番組『オーケストラがやってきた』にふれ、「子どものころから新日本フィルは小澤征爾先生や山本直純先生らがいらした、あこがれのオーケストラ。その後1987年に小澤征爾先生と出会うことができ、1990年には新日本フィルと共演することができた」と振り返り、「若い頃に多くの経験を積ませてくれたオーケストラの5代目の音楽監督として就任することを大変うれしく思う」と語った。

2023/2024シーズンの定期演奏会については、従来のシリーズを「トリフォニー・シリーズ」「サントリーホール・シリーズ」として、新日本フィルの得意とするチャレンジングなプログラムや深い芸術性の感じられる演目を取り上げる。「すみだクラシックへの扉」はクラシックファンのすそ野を広げることをコンセプトとし、名曲が中心。またテーマを佐渡が現在拠点を置き、大切にしているというウィーンに因み「ウィーン・ライン」とし、ハイドン以降マーラー、R.シュトラウスの時代までウィーンで活躍した作曲家をレパートリーの中心に据える。

(C)Takashi Iijima

「トリフォニー・シリーズ」「サントリーホール・シリーズ」には佐渡が3回登場し、R.シュトラウス「アルプス交響曲」、ブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」、マーラー「交響曲第4番」、ハイドン「交響曲第44番」などを振る予定。音楽監督としての最初の演奏会は#648(2023年4月8日・10日)で、ゲストに辻井伸行を招き、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」とR.シュトラウス「アルプス交響曲」を演奏するほか、「すみだクラシックへの扉」でも#14(2023年4月14日・15日)に辻井との共演を予定。#652(2023年10月28日・30日)で演奏するブルックナーは首席指揮者を務める「ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団とともにつくりあげてきたもの、ハイドンはオーケストラの編成は大きいものではなく、また楽譜にかかれている情報も少ない。そのため指揮者とオーケストラの互いの想像力が必要になり、信頼関係を作るうえで重要なレパートリー」と佐渡。さらに#653(2024年1月19日・20日)は「人間の持つ最高の楽器」である声楽にフューチャーし、マーラー「交響曲第4番」のほか、武満徹「系図―若い人たちのための音楽詩―」を演奏する。

このほか客演では、シャルル・デュトワ、秋山和慶、沼尻竜典、ジャン=クリストフ・スピノジ、阿部加奈子、鈴木秀美のほか、久石譲は#651(2023年9月9日・11日)で新作を披露する予定だ。ソリストではカウンターテナーの藤木大地も名を連ねる。
 

■地域に根差したオーケストラを目指す。「頂点を高くするにはすそ野を広げることが大切」

ラインナップ発表に続いて行われた宮内理事長と佐渡の対談では、宮内理事長の「クラシックファンのすそ野をいかに広げるか」という話題を受け、佐渡が芸術監督・指揮者を務める「兵庫県立芸術文化センター」での取り組みを紹介。現在同文化センターの公演には年間50万人が訪れ「いまでこそ、地域の人が7月のオペラ公演の前夜祭などを行ってくれるが、最初は劇場周りの小中学校をはじめ、吹奏楽部のある学校を周り、地域のイベントに参加するなど、地域とのつながりを大切にした地道な活動を続けていった。文化というと『芸術』など大きなものをイメージしがちだが、その地域に根差したものづくりや商店街の人情なども立派な文化の一つ。手前みそになるかもしれないが、墨田でもそうした活動を続けていきたい」と語った。

その活動の一環として、2022年4月から「すみだ音楽大使」に就任し、動画などで「すみだ佐渡さんぽ」を配信したり、墨田川高校吹奏楽部、両国高等学校・附属中学校の管弦楽部を訪問し指導をしたりするなど、活動を開始。対談で両国高校・附属中学校の生徒から感謝のメッセージを綴った寄せ書きのノートが手渡されると、佐渡はノートを手にしながら「中高生の質疑応答がとても面白く、この世の中を変えるのは若者だと思った。吹奏楽部や音楽部のある墨田の学校は全て巡りたい」と目を細める一幕も。そして「文化は地域に根付いてこそ文化となる。満員のお客様の前で演奏することが、オーケストラを育てることになる。オーケストラ事業が地域に根ざしてこそオーケストラであるし、それが東京や日本を代表するオーケストラへと繋がっていく」と改めて意欲を語った。宮内理事長もまた「オーケストラの頂点が高くなるためには底辺が広くならないとならない」と語るなど、地域に根差したオーケストラを目指す意気込みを再確認した。

取材・文=西原朋未