近年は従来の無線通信よりも高速な第5世代移動通信システム(5G)が普及しつつあり、大容量のデータ通信を必要とする動画配信サービスがより快適になっています。そんな5G時代の動画配信サービスにおけるボトルネックを解消するため、ファイル転送プロトコルであるBitTorrentとWi-Fi対応機器を直接つなげるWi-Fiダイレクトを利用した仕組みが考案されました。

BitCover: Enhanced BitTorrent for interactive VoD streaming over 5G and WiFi-Direct - ScienceDirect

https://doi.org/10.1016/j.adhoc.2022.103040



ブラジルのABC連邦大学でコンピューターエンジニアリングを研究するVladimir Rocha教授らは、動画配信サービスの登場以来、セルラーネットワーク容量がボトルネックとなってきたと指摘。これが5Gの登場によって一気に改善されたものの、ネットワークと接続する「ドナー局」と末端のアクセスエリアを構成する「中継ノード局」をつなぐバックホール回線の帯域幅容量が、依然として5G通信のボトルネックになる可能性があるとのこと。

研究チームは、この問題を解決する選択肢の1つとして、効果的な帯域幅共有アルゴリズムの展開によって基地局内の帯域幅使用量を最適化することを挙げています。そして、Rocha氏らが5G通信を最大限活用するために有用なアルゴリズムとして提案しているのが、Peer to Peerを用いたファイル転送プロトコルであるBitTorrentと、無線LANを利用してWi-Fi対応機器同士が直接通信するWi-Fiダイレクトを利用したアルゴリズムです。



通常、動画配信サービスを利用するデバイスは、視聴している部分のデータをサーバーからダウンロードしています。すべてのデータを5G通信でダウンロードしようとすれば、5G基地局内のトラフィック負荷により、バックホール回線がボトルネックとなってしまう可能性があります。

しかし、研究チームが「BitCover」と名付けた新たなアルゴリズムでは、5Gを使用してサーバーからデータをダウンロードするだけでなく、すでにダウンロードしたデータを所有している近隣のデバイスをPeer(ピア)とするBitTorrentベースのファイル共有も行います。これによって5Gを使用する通信量を減らし、バックホール回線のトラフィックを緩和しようというのが、アルゴリズムの背後にある発想です。

デバイス間の通信はWi-Fiダイレクトによって行われ、通信チャネルを改善するためにデータを持つピアに優先順位を付ける新たなピア選択ポリシーを展開するとのこと。5Gを使用するかWi-Fiダイレクトを使用するかは、2つの通信エンドポイント間の物理的な距離に応じて決定されるとされています。

研究チームは、「この記事は、主に5G携帯電話ネットワークでのインタラクティブな動画配信を対象としたマルチメディアアプリケーションのプロジェクトに、有益な知見を提供することを目的としています」と述べました。