この記事をまとめると

■メーカー名より有名になってしまった車名や呼び名を紹介

■初代モデルの存在感がありすぎたことが影響している場合がある

■日本車でもメーカー名より車名の方が有名になってしまっているモデルは多い

メーカー名を超越した知名度抜群の車名たち

 ヒトの記憶を呼び覚ます最大の要素は嗅覚だそうです。意外に感じるのと同時に、「道理であのクルマのメーカーを思い出せないはずだ」と妙に納得した次第。世の中には、車名だけ先行して有名になってしまい、メーカーがにわかには思い出せないモデルがちらほら。知名度は売り上げに少なからず貢献するものですから、メーカーとしては車名だけでもメジャーになってくれるのは歓迎しているはず。そんな車名だけがひとり歩きしている、あるいは世の中のイメージだけが先行しているようなケースを探ってみました。

「六本木のカローラ」

 バブル世代にはおなじみのフレーズ。補足すると、バブル期の六本木には高級輸入車たるBMW 3シリーズが、大衆車の「カローラ」並みにありふれていたため、こんなフレーズが生まれたようです。同様にメルセデスベンツ190Eが「赤坂のサニー」と呼ばれていたことも。

 今でこそBMWやメルセデスベンツと紐づけられるのでしょうが、当時のワンレン・ボディコン女子大生にとってさほど重要なことでもなかったような。また、タクシーの運転手さんからも「六本木のカローラ」というフレーズを聞いたことがあります。

 たしかに、とんちが効いたというか、よくできた流行語ではありますが、当時のドイツ2トップは痛し痒し、だったのではないでしょうか。とりわけ、メルセデスベンツは190Eが「小ベンツ」と揶揄されていたことも手伝って「どうにかならんか」みたいな気持ちだったこと、容易に想像できますね。

「ワンボックス&軽トラ」

 解体業を営む友人の口から、クルマメーカーの名が出たこと一度もありません。ハイエースだろうとキャラバンだろうと、はたまたボンゴだろうと「ワンボックス」であり、「カー」さえ略されています。単に友人が無頓着なだけでしょうが、だいたいクルマ好き以外からしたら、業務用車両はこんな感じかと。

 当然、軽トラックも同じ扱いで、サンバーだろうがキャリィだろうが「軽トラ」よばわりがデフォ。たまに「スズキの軽トラ」などと呼ばれることもあるでしょうが、今度は車名が略されている、というか覚えてないのでしょうね(笑)。また、こうした方々は軽自動車も十把ひとからげなことが少なくありません。アルトだろうがワゴンRだろうが、はたまたジムニーだろうが「軽」よばわり(笑)。筆者が愛用するパジェロ・ミニのことさえ「軽トラ」と呼ばれたことさえあります。

 もっとも「軽」は使いやすいし、呼びやすいキャッチーなフレーズでもありますからね。せいぜい、車検のたびにでも思い出してくれたらそれでいいのかもしれません。

四駆なら全部ジープ! ミニなら全部ミニ!

「ジープ」

 古い世代の方々は4輪駆動車をひとまとめに「ジープ」と呼びがちではありませんか。そもそもジープはアメリカの軍用車でウィリス社や、三菱、あるいはクライスラー(現在はステランティス)といったメーカー製。ですが、丸目ヘッドライト2灯のフロントマスク、ブリキ細工のようなフェンダー、大きめのタイヤ&ホイールといったキャラなら、間違いなく「ジープ」と呼ばれるはず。

 おそらく、昔は四駆といえばたいていはジープに似たデザインや佇まいだったことから刷り込まれた記憶ではないでしょうか。現に、筆者の祖父は歴代ランドクルーザー(50/60/70系)を愛用していましたが、総じて呼びかたは「ジープ」でしたからね(笑)。それどころか、バアチャンはじめ家族のだれもが「ジープ」呼ばわり。ちなみに、ランクルの初代というかご先祖様は「トヨタ・ジープ」という車名だったので、祖父の代ならあながち見当違いでもなさそうですけどね。

 いずれにしろ、ちょっと古い世代にとって「ジープ」はこの上なく便利な通称なのかもしれません。

「ミニ」

 相当なクルマ好きでも、ミニを一目見て正確にメーカーを言い当てられる方はそう多くないのでは。まして、一般的にみればニューミニさえBMW製だと認識している方は少ないでしょう。そして、ミニあるあるといえば「すべてのミニを〈ミニ・クーパー〉と呼ぶ」ことではないかと。クルマ好きから言えばAMGを「アーマーゲー」と呼ぶくらい初歩的なカン違い、ミスなのですが、「ミニ・クーパー」は広く深く根付いているようです。ニューミニが最初のローンチから「クーパー」をラインアップしていたことも後押ししていることは確かでしょう。

 正確に表現すれば、ミニは最初オースティンとモーリスというブランドから発売され、それぞれ「オースティン7(セブン)」と「モーリス(ミニ)マイナー」となるのですが、両ブランドを抱えていたのはBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)であるため、BMCミニという呼び方もあるのです。さらに、このBMCはのちにBLMC、すなわちブリティッシュ・レイランド・モーターカンパニーとなるので、BLミニという呼び方にこだわる方もいらっしゃいます。もちろん、その後のローバーグループ生産時はローバーミニと呼ばれたわけで、年代ごとにメーカー名が目まぐるしいほどに変わっているのです。

「別にミニはミニでよくね?」いや、まったくそのとおり。オールドミニもニューミニも、今ではメーカーの垣根を超え、クルマというより「ミニ」という存在、価値となっていることは誰もが認めざるを得ないはず。

 最後はちょっとレアなケースでしたが、このほかにも「ワゴンR」や「タント」など売れすぎなのか、ロングライフが理由なのか、メーカー名そっちのけでひとり歩きしている車名も少なくありません。せめて、クルマ好きの皆さまはメーカー名くらいはパッと出てくるようにしてあげてはいかがでしょう。

 なぬ? その2台もすでにミニと同じくクルマを超越した存在ですと? なるほど、固有名詞というのはこうして出来上がるのかもしれませんね。