出社時でも、オンライン・ミーティングに集中できるフォンブース(写真:メルカリ

新型コロナウイルス感染症の拡大、テクノロジーの発展、人口動態の変化などによって、「働き方改革」はすべての企業で考えるべき重要課題になっている。今こそ、仕事のあり方を「リデザイン(再設計)」する絶好のチャンスとして、変革の指針を打ち出しているのが、イギリスの経営学者、リンダ・グラットンが著した『リデザイン・ワーク 新しい働き方』だ。

もちろん、輸入された方法をそのまま実践するだけでは、失敗に終わる可能性が高い。その企業独自の改革に落とし込んでこそ、長期的に根付き、会社を成長させる一助となるのである。

日本でも外的要因を追い風にし、その企業ならではの方法で「働き方改革」先進企業へと劇的な変化を遂げた会社がある。日本最大のフリーマーケットサービスを提供する「メルカリ」だ。そこで、VP of HR Marketplaceを務める山本真一郎氏に自社の取り組みについて語ってもらった。

メルカリが打ち出した働き方改革

──御社の働き方改革について教えてください。


メルカリでは、2021年9月から、ニューノーマル・ワークスタイル「YOUR CHOICE」を開始しました。

どこで働くかは、「あなたの選択ですよ」という意味で、日本国内であればどこでも居住可能、出社でもリモートでも、基本的にはフレックスです。

私のチームには、大阪、神奈川、群馬など、ライフスタイルに合わせてさまざまなところに住んでいる人たちがいます。

基本的には個人の自由に委ねてはいますが、チームとして結果を出し、目標を達成することが第1ですから、出社か在宅かは、チームごとに緩めの決まり事を設けています。

個人と組織のパフォーマンス、そして、メルカリのバリューを発揮できるワークスタイルを、社員それぞれが選択してくださいということです。

──実際にライフスタイルは変化しましたか?

はい。かなり柔軟に働けるようになりました。早朝から働き、早めに終わる人もいれば、15時ぐらいで切り上げて、家の用事をこなしてから、また夜に働くという人も少なくありません。


メルカリVP of HR Marketplaceの山本真一郎氏

私自身は、毎日19時頃に切り上げて、必ず家族と夕食の時間を過ごし、子どもが寝ついた後に仕事を再開するというパターンが多いですね。週2日程度は、私が夕食を作っているので、その日は18時頃に切り上げています。

出社は週に1日程度です。会議だけで1日のスケジュールが埋まる日は、在宅のほうが効率良く感じますが、社員が集まる会議など、人と会える日は出社することにしています。

コロナも落ち着いてきたので、金曜の夕方から軽食を出し、みんなで集まることもあります。会社に来ること自体がリフレッシュになっていますね。

私は、前職が外資系企業だったので、比較的働き方のコントロールができる環境にいました。それでも、メルカリに来てからは、自由度、実現度はもとより、人生満足度も高まったと言えます。

とくにメルカリは、海外の人材が多いという背景もあり、柔軟な働き方を提供することによって、採用を有利に進めることができています。

東京のフリマアプリ事業のエンジニア組織は、半数以上が外国籍ですし、東京のオフィスでも、50カ国以上から社員が集まっています。

テック業界は、人材獲得競争がかなり苛烈で、エンジニアやプロダクトマネジャーとして優秀な人を採用しようと思うと、日本国内だけではなく、海外にも目を向けなければなりません。

いろんな国の人に興味をもってもらい、パフォーマンスを発揮してもらうためには、最適な環境を作っていく必要があります。

リモートワーク非推奨を転換できた理由

──御社はもともとリモートワークが進んでいたのでしょうか?

いいえ、もともとはリモートワーク非推奨でした。ベンチャーのスタートアップですから、当初は、バリューを浸透させるためにも、会社としての一体感を大切にしていたからです。

また、弊社は組織開発を非常に重要視しています。コロナ以前は、パーティーをするカルチャーがありましたし、2人以上でランチに行く際は、会社がお金を補助するという制度を設けていました。

しかし、コロナが蔓延しはじめた2020年2月頃から、従業員の安全確保および社内外の感染被害防止のために、在宅勤務や会議のオンライン化を進めるとともに、出張や会食も禁止していきました。

2020年7月頃から、個人とチームの裁量に合わせてリモートか出社かを決めてもらうようになり、出社時間や出社頻度も選択できるようにするなど試行錯誤を繰り返し、最終的に「YOUR CHOICE」として打ち出すに至りました。

「あなたの選択」には「責任」が伴う

──働き方改革に難航する会社が多い中、御社が移行に成功した要因はなんでしょうか?

会社独自のカルチャーが、組織風土として醸成されているからだと考えます。

メルカリのバリューは、「Go Bold(大胆にやろう)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」「All for One(すべては成功のために)」の3つです。

このバリューにひも付けた具体的な行動指針が規定されており、リモートでも全員が強く意識しています。

個人的には、「YOUR FREEDOM」ではなく、「YOUR CHOICE」であるところがポイントだと考えています。

つまり、「選択」なのです。自分で選ぶのですから、そこには責任が伴います。そして、その責任は、「バリューを発揮できる環境であれば、いつどこで働いてもいい」というところに含意されているわけです。

どの環境でもプロとしてしっかり仕事をしよう、会社全体の目標やチームの目標、生産性、結果にコミットしていこうという意識があり、社員はみんなその点を意識して行動していると感じています。

オフィスのあり方が働き方をつくる

──新しい働き方に合わせてオフィスをリニューアルされたそうですが、その狙いを教えてください。

「YOUR CHOICE」を始めてから、オフィスをどうするかという議論をずっとしてきました。

オンライン・オフライン問わず、組織が一体となり、会社のミッション達成に向けて、社員同士のコミュニケーションをより深められるようなものを目指したい。そのためには、オフィスを、それに適した場所にしようということになったのです。

新しいオフィスには、3つのコンセプトがあります。

1つ目は、「Boost Communication」。社員同士のコミュニケーションを活性化しようというものです。

オープンスペースを多く設けて、どこでも自由に座って仕事ができるようになりました。会議室は、壁が開放された半個室になっており、開放的な気分で議論ができます。壁は全面ホワイトボードになっていて、意見交換がしやすい環境になりました。

2つ目は、「Support “YOUR CHOICE”」。社員が多様な選択肢の中で、働く場所を決められるようにしようというものです。


11月30日(水)に開催される「ウェルエイジング経済フォーラム」に 『リデザイン・ワーク 新しい働き方』の著者リンダ・グラットン氏が登場します。 コロナ禍になって以降初の来日講演です。詳細はこちら

その一環として、リラックスできるスペースや、1人用のフォンブースを増設しました。出社をする日でも、オンライン・ミーティングの予定がある人は多いので、そういった状況にも対応できるようにしています。

そして3つ目が、「Embody Foundations」。組織の土壌となる価値観を育むということです。

メルカリは、資源を循環させる豊かな社会を目指しています。そのため、多目的に使えるウェルネスルームを設置する際には、地球環境に配慮した再生素材を活用しました。会社のカルチャーを、オフィススペースにも反映させたと言ってもいいかもしれません。(つづく)

(構成:泉美木蘭)

(山本 真一郎 : メルカリ執行役員 VP of HR Marketplace)