「ガッテン!」司会を務めていた立川志の輔

写真拡大

 大みそかの「NHK紅白歌合戦」が議論を呼んでいる。出場者が若者を強く意識した人選に映るからだ。韓国系アーティストが5組でジャニーズ事務所勢が6組。国内勢の初出場組はAimer、Vaundyら中高年以上には馴染みの薄い面々。なぜ、こんな人選なのか? その答えは2月の「ガッテン!」の打ち切りを考えると見えてくる。

【写真】「芸能界のドン」への配慮も? 28年ぶり出場で歓喜の「篠原涼子」と、落選で落胆を隠せない「LDH」HIRO

早くから出ていた「紅白変革」のサイン

 紅白が若者を強く意識しているように映る。実際にそうだろう。唐突なことではない。これを予告する「サイン」はいくつも早くから出ていた。

 その1つは高視聴率番組と呼ばれた「ガッテン!」(水曜午後7時半)が今年2月2日で終了したことである。健康をテーマにすることが多い情報番組だったのはご記憶の通りだ。

「ガッテン!」司会を務めていた立川志の輔

 まず紅白の若者対策を象徴する初出場組の顔ぶれをあらためて見てみたい。初出場は全出場歌手42組のうち10組。中高年以上の人ですべて知っていたら、相当の音楽通である。

【紅組】5組
・IVE 韓国の6人組女性アイドルグループ。うち1人は日本人。
・ウタ アニメ映画「ONE PIECE FILM RED」のキャラクター。歌唱担当は覆面アーティストのAdo(20)。
・Aimer テレビアニメ「鬼滅の刃 遊郭編」(フジテレビ)のオープニングテーマ「残響散歌」とエンディングテーマ「朝が来る」を歌った女性アーティスト。年齢非公開。
・緑黄色社会 男女4人組のポップロックバンド。
・LE SSERAFIM 韓国の5人組女性アイドルグループ。うち2人は日本人。

【白組】5組
・Saucy Dog 3人組ロックバンド。
・JO1 韓国で行われたオーディションで生まれた日本人11人のボーイズグループ。
・Vaundy 22歳のシンガーソングライター。
・BE:FIRST 7人組ボーイズグループ。日本テレビの情報番組「スッキリ」が密着したオーディションから生まれた。
・なにわ男子 ジャニーズ事務所所属の7人組アイドルグループ。中高年以上には馴染みが薄い一方、若者たちの認知度と人気は抜群の面々だ。

 この紅白の人選と「ガッテン!」の打ち切りに共通するキーワードは「NHKも若者に観て欲しい」。

視聴者の大半が高年齢だった「ガッテン!」

「ガッテン!」の最終回の視聴率は「何軒観ているか」を測る世帯視聴率は12.7%。「1人ずつ性別や年齢まで詳しく調べる」個人視聴率が7.4%。どちらも堂々の高数値だった。世帯も個人も大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜午後8時)とほぼ同水準である。

 だから「なぜ終わるのか」と疑問の声が噴出したが、個人視聴率を性別と年代別に細かく見てみると、M1(男性の20〜34歳)は僅か0.3%しかなかった。愕然とするほどの低視聴率だ。

 M2(男性35〜49歳)も1.9%と振るわなかった。一方、男性の50歳以上では12.8%に跳ね上がった。

 女性の傾向も同じ。F1(女性の20〜34歳)は1.5%、F2は2.8%(女性の35〜49歳)。だが、女性の50歳以上は14.4%もあった。

 観ている人の大半が高年齢――。それが高視聴率番組「ガッテン!」の正体だった。終了の大きな理由は視聴者層の若返りを狙ったからにほかならない。

 2年半前までの世帯視聴率時代なら「ガッテン!」の打ち切りも紅白の若者対策もなかった。誰が観ているか分からないし、家族のうち誰かが1人でも観ていたら数字が獲れたからだ。

 今は違う。NHKも民放と同じく、もう世帯視聴率を使っていない。個人視聴率が標準化した。NHK局内の業務報告書からは「世帯視聴率」という言葉すら消えた。

 NHKの音楽番組の視聴率はどうだろう。看板の「うたコン」(火曜午後8時)の11月8日放送分は世帯9.2%、個人5.4%と上々だった。同10日放送で藤井フミヤ(60)が登場した「SONGS」(木曜午後10時)も世帯4.6%、個人2.4%とまずまず。

 だが、「うたコン」の個人視聴率はM1(男性20〜34歳)が0.2%でM2(同35〜49歳)は同0.9%にとどまっている。一方、男性50歳以上になると同8.5%に跳ね上がる。

 女性はF1(女性20〜34歳)が1.0%でF2(同35〜49歳)は1.5%。50歳以上は11.7%でやはり大幅にアップする。

 片や「SONGS」はM1が0.2%、M2が3.2%、50歳以上が7.5%。F1は0.7%、F2が3.2%、50歳以上は8.1%もある。現時点ではNHKの音楽番組は若者と相性が悪い。

若者が逃げたらNHKは維持できない

 昨年までの紅白も若者に強くなかった。本来、若者は音楽が好きなのに。このままでは若者の紅白離れ、ひいてはNHK離れが進む。すると、将来的にNHKという組織が維持できなくなる恐れが出てくる。非現実的な話ではない 。テレビを持たない若者は増えている。

 内閣府の3月の調べによると、テレビ受信機の普及率は93%。しかし、29歳以下の男性単身世帯に限ると、所有率は78.4%にガクンと落ちる。現行法ではテレビを持っていない人から受信料は取れない。おまけに人口減少が進んでいる。NHKにとっては死活問題だ。

 NHKは4月から若者向けの音楽生番組「Venue101」(土曜午後11時)を始めた。11月12日の視聴率は世帯2.0%、個人1.0%。13歳から49歳の個人視聴率は0.4%。まだ軌道に乗っていないが、斬新な内容であり、若者に見せたいという意欲は伝わってくる。

 この番組に限らず、NHKは苦手とする若者を振り向かせることに懸命なのだ。4月改編で平日午後10時45分から同11時半まで「プライム帯・若年層ターゲットゾーン」としたのもその一環だ。

 この若年層ターゲットゾーンには若者ウケしそうな帯ドラマや情報番組などが並んでいる。前田晃伸会長(77)の肝煎りによる改革である。

 紅白の若者対策も昨年までの番組に満足していなかった前田会長の意向を受けたものにほかならない。みずほフィナンシャルグループ元社長・会長である前田会長は組織の持続化を考え、若者対策を練らせたのだろう。

 紅白は中高年以上を斬り捨てるつもりはない。だから、石川さゆり(64)、天童よしみ(68)たちも選ばれた。今年の売れ行きだけ考えたら、演歌勢は当選が危うい人が多い。

海外勢の台頭で生じる問題

 それどころか、売上高で選考したら、中高年以上が知らないアーティスト一色になる。音楽の売り上げに最も貢献しているのは昔も今も若者なのだ。

 紅白は出場歌手も司会もバランスを取ろうとしている。だから司会は大泉洋(49)、橋本環奈(23)、櫻井翔(40)、桑子真帆アナウンサー(35)を起用した。見事なまでに年代がバラバラだ。

 ただし、紅白が考えたバランスに異を唱える人はいるだろうが……。

 韓国系のアーティストが多いことにも視聴者側から不満の声が上がっている。紅白スタッフも本音としては、日ごろ世話になっている国内アーティストの枠を減らしたくないはずなのだ。

 過去にも同じようなケースがあった。紅白に否定的だった報道局出身の故・島桂次氏が会長(1989〜1991年)だった当時である。

 1990年の紅白は58組中、7組が海外勢だった。米国のシンディ・ローパー(69)や韓国のチョー・ヨンピル(72)らである。旧ソ連のアーティストまで出場した。島氏の意向だ。この時も物議を醸した。

 国内アーティストからは怨嗟の声が上がった。普段、「NHKのど自慢」への出演などで協力しているからである。今回も憤る国内アーティストがいるのではないか。

 紅白の昨年の視聴率(2部)は世帯が34.3%で個人が24.8%。世帯は過去最低だった。世帯視聴率は過去最低を更新する可能性がある。数の多い高齢者が敬遠するからだ。

 もっとも、もう世帯視聴率という言葉は局内文書にないのだから、いくら低くたってNHKは気にしない。問題は目論見通りに若者が観てくれるかどうかである。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部