岸田文雄首相は22日、防衛力強化に関する政府の有識者会議座長の佐々江賢一郎元駐米大使と官邸で面会し、防衛力強化に向けた防衛費や財源のあり方に関する報告書を受け取った。

 政府が年末にかけて進める国家安全保障戦略など「安保3文書」の改定に反映させる。報告書の全文は次の通り。

はじめに

「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」では、令和4年9月30日から4回にわたり、以下の趣旨で精力的に議論を行ってきたところであり、ここにとりまとめの結果を報告する。なお、第3回有識者会議においては、折木良一元統合幕僚長および佐藤雄二元海上保安庁長官をお招きし、御所見を伺ったところ、とりまとめにあたり、当該御所見を参考にさせていただいたことを付言する。

(有識者会議設置の趣旨)

○わが国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには、わが国が持てる力、すなわち経済力を含めた国力を総合し、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していくことが重要である。こうした観点から、自衛隊の装備および活動を中心とする防衛力の抜本的強化はもとより、自衛隊と民間との共同事業、研究開発、国際的な活動等、実質的にわが国の防衛力に資する政府の取組を整理し、これらも含めた総合的な防衛体制の強化をどのように行っていくべきかについて議論する。

○また、こうした取組を技術力や産業基盤の強化につなげるとともに、有事であってもわが国の信用や国民生活が損なわれないよう、経済的ファンダメンタルズを涵養(かんよう)していくことが不可欠である。こうした観点から、総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方について、どのように考えるべきかについて議論する。

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【1】防衛力の抜本的強化について

(1)目的・理念、国民の理解

インド太平洋におけるパワーバランスの変化や、周辺国等による変則軌道のものを含む相次ぐミサイル発射など、深刻化するわが国の安全保障環境を受け、国民の安全保障に対する関心がかつてないほど高まっている。

防衛力の抜本的強化の目的は、このような厳しい安全保障環境において、わが国の国民の生命と財産、わが国の主権および平和と安定を守り、国際社会の秩序を保ち、安定を図ることにある。それには、日本および日本周辺での戦争を抑止し、力による現状変更を許さないというわが国の意思を国内外に示し、有事の発生それ自体を防ぐ抑止力を確保しなければならない。そして、自分の国は自分たちで守るとの当たり前の考えを改めて明確にすることは同盟国や同志国等からの信頼を揺るぎないものにするために不可欠であることも忘れてはならない。この防衛力強化の目的を、国民に「我が事」として受け止め、理解して頂けるよう、政府は国民に対して丁寧に説明していく必要がある。

その際に重要なことは、なぜ防衛力を抜本的に強化する必要があるのか、国民生活の安全や経済活動の安定を守るために必要な措置はどのようなものか、そのためにどれぐらいの負担が必要となるのかについて国民に理解してもらう努力であり、国民に丁寧に説明していくことである。

(2)防衛力の抜本的強化の必要性

(戦略性・実現可能性)

わが国周辺の安全保障環境は厳しさを一段と増しており、また、戦闘領域が宇宙、サイバー、電磁波といった分野にも広がり、いわゆるハイブリッド戦の展開など、戦い方も大きく変容している。このような新しく、厳しい安全保障環境を考えるとき、何ができるかだけではなく、何をなすべきかという発想で、5年以内に防衛力を抜本的に強化しなければならない。

その際には、戦略性・実現可能性の観点から優先順位をつけて着実に成果を上げる必要がある。まず、具体的な脅威となる能力に着目し、5年後や10年後における戦い方を見据えて、他国による侵攻の抑止や阻止、排除を行い得る防衛力を構築するという戦略性が求められる。防衛省は、防衛力の抜本的強化の7つの柱として、?スタンド・オフ防衛能力?総合ミサイル防空能力?無人アセット防衛能力?領域横断作戦能力?指揮統制・情報関連機能?機動展開能力?持続性・強靱(きょうじん)性−を掲げており、上記の戦略性の観点も踏まえつつ、これらを速やかに実行することが不可欠である。同時に、同盟国や同志国との連携や補完関係を踏まえたグランドデザインも必要である。このため、同盟国等との共同対処やシナジー効果も考慮した上で、わが国として優先的にどの分野を強化するべきか、また、どこまで備えが必要かという観点が重要である。特に日米同盟はわが国の安全保障政策の基軸であり、米国による拡大抑止の信頼性や、自衛隊の基地や在日米軍施設・区域等の日米の共同使用を含む共同対処能力等の安全保障面での協力の強化に加え、外交・経済等を含む幅広い分野で一層の協力の強化が不可欠である。

また、防衛力を抜本的に強化する計画が、単なる机上の計画で終わっては国民の理解は得られない。計画に沿って防衛予算を着実に執行し、装備品を調達・配備・運用できる実現可能性が求められる。既存の装備品等のスクラップ・アンド・ビルドを的確に行うことも必要である。

(反撃能力・継戦能力)

インド太平洋におけるパワーバランスが大きく変化し、周辺国等が核ミサイル能力を質・量の面で急速に増強し、特に変則軌道や極超音速のミサイルを配備しているなか、わが国の反撃能力の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠である。なお、反撃能力の発動については、事柄の重大性にかんがみ、政治レベルの関与の在り方についての議論が必要である。その際、国産のスタンド・オフ・ミサイルの改良等や外国製のミサイルの購入により、今後5年を念頭にできる限り早期に十分な数のミサイルを装備すべきである。

また、リアルな継戦能力を高めることは、抑止力と対処力の向上につながる。そのためには、これまで十分に手が回らなかった弾薬や有事対応に必要な抗堪性(こうたんせい)の高い施設等のその戦力の基礎となる部分を着実に整備していくことが必要である。自衛隊に常設統合司令部と常設統合司令官を設置することも早急に検討する必要がある。また、有事の際も国民を守り、社会経済を安定させる観点から、エネルギー安全保障や食料安全保障、わが国の自律性・不可欠性・優位性の確保を含む経済安全保障の視点や、国民保護にかかるしっかりとした計画づくりも重要である。ロシアによるウクライナ侵略の際に見られたように、電力・通信インフラが攻撃される事態にどのように対処するのかという計画を持っていなければ、抑止力は減殺されかねない。

(防衛産業・人的基盤)

わが国は 工廠(国営の工場)を持っておらず、自衛隊のニーズ(需要)に従って、防衛装備品の研究開発から製造、修理、さらに補給まで、実際に担っているのは民間の防衛産業である。その意味で、防衛産業は防衛力そのものといえる。しかしながら、防衛部門から撤退する国内企業も出てきている。競争力のある国内企業が優れた装備品やデジタル技術等を供給できるよう、防衛産業に関する課題を総ざらいし、防衛省に関係府省を加えた体制を整えて、より積極的に育成・強化を図っていく必要がある。特に、これから強化しなければならないサイバー部門に、国内企業が人や資金を投入しやすい環境をつくるのは政府の責務といえる。

防衛産業の育成・強化に当たっては、防衛装備品の海外移転と一体で考えていく必要がある。その際、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの下、地域の平和と安定を確保し、わが国にとって望ましい安全保障環境の創出 につなげるといった大きな視点に立ち、防衛装備品の移転拡大を、わが国の安全保障の理念と整合的に進めていくべきである。そのため、防衛装備品の移転に課している防衛装備移転三原則及び同運用指針等による制約をできる限り取り除き、わが国の優れた装備品等を積極的に他国に移転できるようにするなど、防衛産業が行う投資を回収できるようにし、少なくとも防衛産業を持続可能なものとしなければならない。わが国政府だけが買い手である構造から脱却し、海外に市場を広げ、国内企業が成長産業としての防衛部門に積極的に投資する環境をつくることが必要である。国主導の体制を整え、装備移転を促進することは、移転先の同志国等との関係強化や地域の平和と安定に貢献することとなり、また、積極的平和主義の理念とも合致する。

また、自衛隊員は、職務遂行にあたり、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務める」と、自分の命をかけることをあらかじめ宣誓している唯一の公務員である。自衛官・事務官の人材確保は重要な課題であり、危険を顧みず職務に従事することが求められている自衛隊員の処遇改善、退職自衛官の活用などを積極的に検討していく必要がある。さらに、サイバー・宇宙などを含む領域横断作戦能力が重要になってきていることを踏まえ、防衛大学校や自衛隊の各種学校における人材育成において、新しい発想が必要となっている。

(防衛力の抜本的強化と総合的な防衛体制の強化)

現在、わが国が置かれている安全保障環境は、非常に厳しく、「待ったなし」の状況にあり、中途半端な対応ではなく、防衛力の抜本的強化をやり切るために必要な水準の予算上の措置をこの5年間で講じなければならない。

ただし、5年以内に抜本的に強化するに際しては、同時に10年後といった長期間での強化策の内容や規模を「見える化」することも国民の理解を得る上で重要である。特に、防衛装備品は完成まで時間がかかるため、初めに総額で契約し、その後複数年度に分けて支払いを行うという特徴がある。このように後年度負担となる契約額と毎年度の 支払いである予算とでタイムラグが生じるという構造を含め、国民に分かりやすく示されなければならない。

その際、防衛力強化について、負担の議論まで視野に入れる以上、規模ありきではなく、優先順位づけ、実現・執行可能性のチェックなど、丁寧な議論を積み上げていくことが重要である。また、国民生活の安全や経済活動の安定を守るために真に実効的な、外交力や経済力等も含めてわが国の安全を確保する総合的な防衛体制の在り方につい て本質的な検討も必要である。「縦割りを打破した総合的な防衛体制の強化について」で示すように、わが国の安全保障を確保するための最終的な担保である防衛力を抜本的に強化し、同時に、これを補完する不可分一体の取り組みとして、わが国の国力を結集して総合的な防衛体制を強化するとともに、「経済財政の在り方について」で述べる経済・財政基盤の強化にも目配りし、新たな危機の時代を乗り切らなければならない。

わが国の防衛力の抜本的強化と、これと一体となる総合的な防衛体制の強化の度合いを測る上では、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が用いる尺度を参考としつつも、これを直接採用することはせず、わが国特有の安全保障環境・国情や予算の仕組みに即して行うことが必要である。その際、わが国の総合的な防衛体制の強化に向けた努力が国際的に評価されるものでなければならない点には当然留意すべきである。