流す際に「シュゴ」っと独特な大きな音を出し飛行機のトイレ。実は旅客が用を足したあとの“モノ”はタンクまで200km/h以上のスピードで配管を駆け巡っています。どのような仕組みで、なぜこんなにも速いのでしょうか。

「シュゴ」っと大きな音が特徴

 11月19日は、「世界トイレの日(World Toilet Day)」とされています。これは国連が2013年に定めたもので、一部地域ではまだ発達していないトイレをはじめとする公衆衛生について、改善を図るべく世界的に考えを巡らせる日とされています。
 
 公共交通にも様々なトイレがありますが、流す際に「シュゴ」っと独特な大きな音を出すのが旅客機です。乗客が用を足したあとの“モノ”(排泄物など)が吸い込まれるスタイルの「バキューム式」のものが主流ですが、どのような仕組みになっているのでしょうか。


エアバスA380(画像:エアバス)。

 旅客機の多くでは、機体後部などに“モノ”を貯めるタンク(ウエーストタンク)があり、旅客が洗浄ボタンを押すと、専用の配管を通ってタンクへ貯められたのち、目的地到着後などの地上で、専用車により回収されるスタイルのものが一般的です。

 そして実は、この配管を“モノ”が駆け抜ける速度は、とてつもなく高速です。たとえば、総2階建ての超大型旅客機、エアバスA380の場合、およそ時速130マイル(約210km/h)で配管を通るとされています。

 この高速移動には、気圧の差が利用されています。洗浄ボタンを押すと、タンク内に備わる専用装置の一部の弁が開き、飛行機は小さな穴が開いたような状態になり、配管内の気圧が下がります。高い気圧の客室内にあるトイレの「落とし物」は、この気圧差で一気に吸い出され、タンクに収まり、空気のみ機外に放たれます。

なぜそこまで“モノ”を高速疾走させるのか

 ジェット旅客機が飛ぶ高度1万メートルは、地上(高度0m)の気圧の5分の1の環境です。そのなかで機内は、旅客が生命活動を維持できるよう、人為的に気圧をあげ、地上環境に近づけられています。ただ、映画やドキュメンタリーなどで飛行機の壁に穴が空き、人や荷物が吸い出されてしまうシーンがあるように、その高い気圧を一気に下げると非常に強い空気の流れが発生します。飛行機のトイレは安全性を保ちながら、この原理を応用しているといえるでしょう。

 A380の場合、全長は73mですが、巨大な客室を持つに関わらず最前方にも最後方にも化粧室があります。それゆえ、配管も相当な長さになります。しかし、時速130マイルの速度にもなる強い吸引力を用いれば、途中で詰まることなくタンクに“モノ”を納めることが可能です。


ボーイング787の化粧室。この飛行機ではTOTO「ウォシュレット」がついていて、便座横にスイッチがある(乗りものニュース編集部撮影)。

 この形式のトイレは大きな音が出てしまう反面流す力も安定し、吸引力の強いぶん使う水が少量で済むために機体の軽量化につながるほか、臭気まで吸い取ってくれる換気効果もあり、旅客の快適性向上にもつながっています。ちなみに、地上など気圧差が十分でない場所では、バキュームブロワーという装置を使って、タンク内を低い気圧にして対応しています。

 なお、従来の旅客機では、このバキューム式のものではなく、多量の洗浄水を積み、を流したあとの水を浄化し再利用する「循環式」のものが主流でしたが、先述のメリットから、新鋭機はバキューム式が一般的になっています。

 ちなみに、JAL(日本航空)の整備士によると、バキューム式のトイレでは、配管が詰まらないよう、定期的に配管を入念にメンテナンスするそう。作業のさいには「非常に強力な溶剤」を用いて、2時間から3時間かけて漬け込みと循環を実施し、ピカピカの状態にしているということです。

【映像】早ッッ!! 210km/hで疾走する“モノ”のテスト、実際の様子